臨界交番
黒潮旗魚
1話
長い夢を見ていた気がする。
何も感じない、何も出来ない空間で私はただふわふわと漂っていた。
そして目が覚めると、大量にちりばめられた星屑が光る夜空が目に入った。夏でもないのに美しい絹を広げたかのような天の川が星たちを包み込むように両腕を広げている。あまりの美しさに無意識に立ち上がっていた。私はふと気になった。
「ここはどこ?」
夢の中?しかしこの場所に見覚えは無い。そしてさっきまで見ていた、あの何も出来ず浮遊している夢のことも意味がわからない。私の心の中はまるで夜の闇のように混乱にのまれていった。私はその場に座り込んだ。そして大きく深呼吸をすると、今の現状を理解しようと頭を抱えた。しかしさらに不思議なことに気がついた。
「…あれ?記憶がない…。」
自分の頭がありえないほど軽く感じた。自分の仕事、好きな食べ物、年齢、家族の名前、さらに自分の名前まで、何一つ思い出すことが出来なかった。ますます混乱してきた。記憶喪失にでもなったのだろうか?いや、体に痛みや外傷がないのを考えると考えにくい。記憶がないとなると、より一層これから何をすれば良いのか分からなくなる。
「とりあえず…歩いてみようかな」
私は意味もわからず歩き始めた。方位なんて分からない。なにか目印がある訳でもない。目の前に広がっているのはありえないほど続く美しい緑の草原であった。そしてどこからか、緩やかな水の流れる音。私はその水の流れる音がする方に向かうことにした。川を下っていけば誰かに会えるかもしれない。そんな宛もない考え胸に私は進み始めた。
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