第16話 2人

ウォーリーはあてもなく逃げ回った。

「ゼェ、ふう、訓練の地獄の5000キロマラソンよりキツイ」

ウォーリーは自販機の横で腰を下ろした。

「かすかに博士の怒鳴り声が聞こえる。近いか?」

ここまで社員に無茶振りなことをする上司もいないだろう。

「………そろそろ逃げ始めなきゃ」

ゆっくりと立ち上がると、辺りを見渡した。どうやら他のロボットもいないようだ。

「ふう……」

安心して振り向くと、そこにはドロドロに溶けかけたベッキーがいた。

「mituketa」

「⁉︎」

ベッキーは素早くウォーリーの首元を壁に押し当てると、徐々に溶接棒の温度を上げた。

「う!首が、熱い……痛い、………!」

「tokasaretaika?」

「ぬぐぐ、諦めんぞ………」

ベッキーの溶接棒は急に温度が上がった。

「⁉︎」

「souka」

「あぁぁぁぁぁぁぁa」

グサッ

「痛えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

針が画面に刺さった。

慌ててそちらを向くと、レイとラリーが恥ずかしそうに後ろを向いていた。

「いくらチャンスだからって、俺たちを置いて逃げるのはないだろう」

「そうだよ。警察の恥だ。思い出したくもない」

「俺たちが悪かったんだ。こんなクソ警官に捕まっても嬉しくないだろ?」

「ゔゔゔゔ、ぐるじい………」

2人は後ろを向いているので、ベッキーに気づいていない。

「そんなこと言わないでくれ。頼むよ、俺らだってお前を捕まえたくないんだ」

「そんなんだ。俺たち、お前がどんなに辛いかわかった気がするんだ」

「き、キツイて。あづい」

ウォーリーは苦しそうに叫ぶが、ベッキーは一切やめる気配はしない。

「キツいのはわかってるんだ。しかし、心の思いを話したくてここへ来たんだ。なんで熱いのかは知らんけど」

「ラリーの言う通り。俺たち阿保すぎた。ゲームのプレイ時間で争うなんて、今思うと恥ずかしくて逃げたい。でもダメなんだ。俺たちには、逃げ道がない。だから、こうお前に話して、逃げ道を作ってるんだ」

「や、やめろぉぉぉぉぉぉ」

シュウウウウウウウウウウウ

「………あの、話聞いてる?」

「いやぁぁァァァァァァァァァ」

「………………」

「ゔゔゔゔゔゔゔんん、いやぁぁァァァァァァァァァ」

「おい人の話聞けよタコぉぉ」

ラリーが胴体から銛を発射した。

グサッ

ジジジジジジジジジジジジジジ

しかも電流を帯びたものだ。

見事にベッキーに頭部に突き刺さり、ベッキーは倒れたが、ウォーリーにも通電し、倒れた。

「あれベッキー?なんでだ?」

「ってぇぇ。よお久しぶり2人とも」

先に立ち上がったのはウォーリー。

「え?どういうこと?」

「今博士に追われてんだよ。俺を思考回路を持たない、完全な殺戮兵器に変えようとしてるんだ」

「ハァ」

「いや、マジでこれは本当の話」

2人は今の話に怖気おじけついたのか、猛スピードで逃げていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る