夏休み。キミと、地球を救った話。

祥之るう子

ピンクの船はアダムスキー型

 音もない。

 空気もない。

 重力もない。

 ここは、究極的に「自由」しかない空間と言えるかもしれない。

 

 宇宙――と呼ばれる暗闇の中を、デブリを避けながら時空間転移を繰り返して、この「船」は今、とある青い星を目指していた。

 まん丸の球体で、ちょうと中間あたりにミニスカートでもはいたようなでっぱりが出ているこの船は、いわゆる「宇宙船」である。しかしながら、この船の主が「目的地の人類が思い描く宇宙船」を目指してデザインしたこのボディは、あまりにコミカルだった。

 それだけではない。内装もかなり個性的だ。壁に、コンソール、各種コントロールパネルに至るまで、ピンク色を基調としていて何ともファンシー。まったく「宇宙船」と名乗り難いこの内装の方は、船の主である少女の趣味に合わせたものだった。

 周囲からは「緊張感がない」という指摘を受けたが、船の主にとってそれは素晴らしい誉め言葉であった。

 この度のミッションをクリアするためにはそれなりに時間を要する。

 その間この船がプライベート空間になるわけだから、緊張感など邪魔者でしかないのだと。

 ――だって、誰だって自分の部屋ではリラックスしたいでしょ?

 出発前に、家族にそう言っていた少女は今、鼻歌を歌いながらメインモニターを見ている。

 メインモニターに映しだされているのは、目的地の現在の姿。

 真っ暗な宇宙に、太陽の光を浴びて青く輝く星。

 少女が鼻歌のリズムにのって指先を動かすと、それに合わせてモニターの映像は、目的地のとある島に一気にズームする。


「現地情報おしえて!」

 

 お気楽な声が響く。


『現地呼称「地球:日本:星見島」

 島一つが星見市という一つの自治体であり、現地国家の政策により、持続可能な開発目標のモデル都市として再開発され、再生可能エネルギーの活用・生活ごみのリサイクルの徹底・現地水準で可能な限りの脱炭素を試みるなど、現地において最先端と発表されているシステムが試験的に運営されています。

 これらのことから、現時点では、連盟上層部から指定された「日本」という国家のなかでは、最も今回の実験的課題を行うにふさわしい環境であると推奨されました』


 船が発した現地の情報を聞いて、金色の瞳は期待に揺れて輝いた。


「楽しみだな~」


 少女は母星の言葉で、歌うように言った。


「待っててね、アタシのトモダチ!」

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