透明人間になれるアイマスク

獅子亀

『透明人間がみんな持っている身体的欠陥ってなーんだ?』

「先輩」

「せーんぱいっ」

「無視しないでくださいよぅせんぱーい」

「あ、いまムッてしましたね。ウザかったですか? すみませんねぇ」

「でも、無視する先輩だって悪いんですよ?」

「こんなに可愛い後輩の女の子を無視するなんて、ひどい先輩ですよねぇ」

「さぁ答えてください、先輩。『透明人間がみんな持っている身体的欠陥ってなーんだ?』。クイズ研究部の部長である先輩なら、即答できて当然ですよね?」

「あれ? もしかして分からないんですか? あ~だから無視するんですね。んじゃなくてんだぁ」

「まったく~だらしないですねぇ」

「なーんで分からないんですか?」

「透明人間がお題のクイズですよ?」

「健全な男の子なら一度は夢見る透明人間ですよ?」

「考えたことはありませんか?」

「透明人間になりたいって」

「透明人間になったら、あーんなことやこーんなことをやってみたいって」

「ありますよね? ありまくりますよね?」

「想像したことも、妄想したことも、夢に見たことも」

「でも、そんな透明人間にも欠陥があるって知ってましたか?」

「それも、致命的な欠陥が」

「けっこう有名な話なんですけどね、コレ」

「少し考えれば、分かることですよ?」

「どうですか? 分かりませんか?」

「答え、教えてあげましょうか?」

「『教えてください』って私に頭をさげてくれれば、教えてあげないこともないですよ? さぁどうしますか?」

「あ、ちょっ、ちょっと!!」

「ごめんなさい!! 調子に乗りましたっ!! だから無言で帰ろうとしないでくださいっ!!」

「……ふぅ」

「もー、先輩は冗談が通じないなぁ」

「頭カッチカチなんですからっ」

「え? さっさとクイズの答えを教えろって?」

「えぇ? どうしよっかなぁ……って待ってくださいっ!! 分かりました!! 教えますっ、教えますからぁ!!」

「……むぅ」

「先輩はせっかちさんですねぇ、早ろ……いや、嘘です何でもないです……はい」

「じゃ、じゃあさっきのクイズの答えですね?」

「『透明人間がみんな持っている身体的欠陥ってなーんだ?』」

「正解は……『目が見えない』です!!」

「どうですか? 納得できましたか?」

「……その顔は、あんまり理解できてないって顔ですね」

「いいでしょう。 お教えしましょう!!」

「先輩は、目がどうやってこの世界を映し出すのか知っていますか?」

「目は、眼球というレンズで光を屈折させることで像を結ぶんです」

「そうすることで人は『見る』ことができるんです」

「では、それがもし透明人間だったらどうなると思いますか?」

「透明人間は、その名の通り無色透明」

「光は屈折することなく素通りします」

「光が屈折しないなら、眼球が像を結ぶことはありません」

「つまり、透明人間は目が見えないんです」

「どうですか?」

「おもしろいと思いませんか?」

「漫画やアニメ──創作の世界でよくみかける透明人間ですが、実は目が見えないんですよ」

「目が見えない透明人間なんて見たことありますか?」

「私は記憶にないですね」

「そもそも透明人間なんて『覗き』をするくらいしか使い道がないのに、目が見えないなら存在する意味がないですよね?」

「え? 透明人間には触られても気付かれないって?」

「……っぷ」

「ぷーくすくすっ」

「せんぱーい。えっちな漫画の読みすぎですよ?」

「透明人間を題材にした創作物によくある設定ですが、触られても気付かれないなんてあるわけないじゃないですか」

「それはもはや、透明人間じゃない別の何かですよ」

「うっわぁ、先輩ってそういう人だったんですねー」

「いやーショックだなぁ」

「尊敬する先輩が変態さんだったなんて」

「え? 何で私がそんなに透明人間に詳しいのかって?」

「な、何を言うんですかっ」

「このクイズのために少し情報を仕入れただけですよ」

「わ、私の方が変態じゃないかって?」

「そんなことあるわけないじゃないですか!?」

「撤回してください!!」

「いくら先輩でも、言って良いことと悪いことがありますよ!?」

「え? 私も撤回しろって?」

「私は撤回しません!!」

「……むぅ」

「……分かりました」

「では、どちらが本当に変態なのかを掛けて勝負をしましょう!!」

「勝負に負けた方が、正真正銘本物の変態です」

「それでどうですか?」

「……異論はないみたいですね」

「え? 何で勝負するかって?」

「うーん……そうですねぇ……」

「あ、良いことを思い付きました!!」

「ええっと……ゴソゴソ……っはい!!」

「ここに取り出したりますは、私が普段から愛用しているアイマスク~!!」

「スカートのポケットから取り出したばかりなのでぬくぬくのほっかほかです」

「このアイマスクを使って勝負しましょう!!」

「え? 別のアイマスクはないのかって?」

「……ありません。これしかありません」

「……なんですか先輩、その顔は」

「彼女にしたいランキング1年生部門で堂々の1位である私が普段から愛用しているアイマスクを、勝負という名目で使えるんですよ?」

「人によってはお金を出してでも欲しいレアアイテムですよ?」

「なーんでそんな顔をするんですかね」

「あーそうですか。嫌ならいいんですよ?」

「勝負を受けなくても」

「その場合、先輩が超弩級の変態であることが明日から学校中に広まっちゃうでしょうね」

「え? そんなの誰も信じないって?」

「信じますよ」

「成績優秀で教師からの信頼度抜群の私が言うんですから」

「教師も、生徒も」

「先輩より私の言葉を信じるでしょうね」

「さぁどうしますか?」

「勝負、受けますか?」

「っふふ……最初から素直にそう言えばいいんですよ」

「それでは早速、勝負の内容を説明しましょう!!」

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