第191話華音はテレビ討論番組に出演②

続いてI党党首は、やや穏やかに華音を見る。

「三田の御大には、大変お世話になりましたし、私も、華音君の子供の頃を知っています」

「毎日の修行も、すごかったと聞いています」

「私も関西地盤の政党ですので、親身があります」

「主張も近い部分が多いので」


華音も、見覚えがあるようで、少し頭を下げる。


I党党首は、続けた。

「確かに各種の世論調査では、新党こころに圧倒的支持」

「我々も含めて既存政党が、全くかすんでしまって、まるでダメ政党、ダメ候補者のような印象になってしまっています」

「ただ、新党こころに、問題もありますよ」

「地方自治の経験、それと国政にも経験がない」

「それでは、一時的に世論調査で人気を博したとしても、我々は不安でしかない」


華音は、冷静な顔。

「我々が選んだ候補者の顏をしっかり見てからの発言でしょうか?」

「地方自治体の首長経験者も多く揃えております、全て実務派です」

「全員が国の縦割り行政と、特定政治家に配慮した国の無慈悲さに苦慮した経験をお持ちです、つまり国政の問題点をしっかり把握しています」

「また、官僚出身者もしかり、全て政策に通じて、立案力、実行力のある人をスカウトしました、ただ、仕事がキレ過ぎて、特定政治家や政党には嫌われたのかも」

「学者も、元コメンテーターも、空理空論を言わない人たちです」

「緊迫を極める国内外の情勢を踏まえれば、実務に役立たない空理空論ばかりの理想論者は、百害あって一利なしと思われますので」


I党党首は、そこで引き下がってしまった。

上手くいけば、選挙後の連立を目指すのか、追及もしきれないようだ。


旧与党を担ったJ党とK党党首は、華音への質問をためらった。

逆に司会者が、華音に旧与党への見解を求めた。


華音は、この番組中、最も厳しい顔になった。

「そもそも、今回の選挙の発端は、東亜銀行と旧与党の不正融資資金に関係した密着の歴史が明らかになったこと」

「その上、その不正資金に疑問を唱えた東亜銀行銀座支店と永田町支店の融資担当者は、全て不審な死を遂げている、しかも全て自殺扱いで、捜査もされない」

「政権の、旧与党の幹事長の依頼で、暴力団を使っての、口封じの殺害でした」

「その証拠も明確なので、旧J党の幹事長は逮捕されています」

「これから捜査が進めば、ますます逮捕者が増えるでしょう」


「そんな情勢なのに、旧与党で、国民に謝罪した人は誰もいない」

「みな、自分の選挙と利権ばかり追求して、不正資金に異を唱えて殺された人の無念の思い、家族の苦しみなんて、誰も、何も感じていない」

「そんな、鈍感過ぎる、と言うより無神経極まる政治家に、日本を任せるわけにはいかない」


華音は、そこで、水を飲んだ。

そして、全ての政党の党首を厳しく見据えた。


「旧与党だけではありませんよ」

「ここにおられる全ての政党の方々は、血と涙と不正に包まれた資金を受け取っています」

「しかし、ここまで話して来て、誰も反省の弁を述べる人がいない」

「要するに、何も人の痛みも苦しみも、感じられない人たちなんです」


華音の目は、悔し涙で潤んでいる。

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