312 「13歳の誕生日」

 4月4日は私の誕生日。今日で13歳。あと半年すれば、私が転生して来て10年の節目になる。

 現状では攻略対象達の進路は、乙女ゲーム『黄昏の一族』と同じ方向に進んでいる。違っているのは、一族内の家族構成。


 存命な者、新たに生まれた者が随分増えている。虎三郎の一家が、アメリカ移住するという動きもゼロだ。その代わり、留学とさらに姻戚関係を結ぶ為に一人渡米したけど、それもプラス方向の動きだ。

 加えて、私の側近や使用人が随分増えている。


 ゲームだと、悪役令嬢の側近は同年代の子供ばかりだったけど、シズやセバスチャン達多数がいる。もっとも、セバスチャンは現在渡欧中。3年間仕えてくれたトリアは、アメリカに帰国。

 けど、セバスチャンは一族救援で渡欧しているから、誰か連れて戻るかもしれない。トリアはアメリカの上流階級の人と再婚だから、太いパイプになってくれるかもしれない。

 さらに親族、私の叔母に当たるマイさんが、結婚までの数年限定だろうけど私の側にいてくれる。



「姫乃ちゃんへの迎撃準備が万全過ぎるわね」


「何か仰いましたか?」


「誕生日会が、なんだか面倒臭いものになったなあって」


「かもしれませんが、お嬢様がお決めになられた事です」


「その通りです。じゃあ、今年も行きますか」


「ハイ、畏まりました」


 シズとの間にいつもの軽快なトークをして、主役である私は使用人や部下をはべらして、鳳ホテルの大宴会場に堂々の入場を行う。

 室内に据えられているグランドピアノには、虎士郎くんがスタンバイしていて、入場と同時に華やかなピアノの旋律が広い空間を覆う。


 なお、パーティーのセッティングは、普通に座る形式。長方形の長いテーブルを囲み、みんな行儀良く座っている。立食形式だと子供は制御が難しいので、取り入れていない。

 ゲームのようなオシャレな立食パーティー形式は、もう何年か先じゃないと無理だ。

 

(さらに増えたなあ。何人いる? 200組? 300組? 今回は親御さんもいるから、すごい数ね)


 内心冷めているけど、笑顔を振りまきつつ歩いて、まずは自分の席に。私のお誕生日会なので、主賓の席には私一人。隣には、クソデカなバースデーケーキが鎮座している。

 そうしてまずは軽く視線を一周。

 去年は子供の部と大人の部の二回に分けたけど、大人だけに私が祝われるのは流石に時期が早すぎたと言う事になり、子供の会だけにした。その代わり、親御さんも出席できるようにした。


 一番近くの席は、私の親族達。平日だから大人の数は少ないけど、子供達は揃っている。そのすぐ近くには、勝次郎くん達。今年は、マイさんの騒動で親しくなった勝次郎くんの従兄弟達も出席してくれている。

 そうした子供達には、軽く視線を交わしたりもする。


 そして次に近いのが、鳳と関係があるか、鳳とお近づきになりたい政財界の坊ちゃん、嬢ちゃんとその親御さん達。

 子供の年齢は小学生高学年以上から中学に絞ってあるけど、鳳の今の勢いの影響か一番頭数が多い。しかも、事前に確認した出席者の中には、ネームドの子女、未来のネームドがチラホラ居たりする。

 また、中には気合の入った出で立ちの男の子がいるけど、私の気を引きたいのが見え見え過ぎる。


(残念だったな、私は既に予約済み物件だ。お前らの出る幕じゃないぞ)


 一方で、女子も少なくない。自分の手持ちの規定内の子女が女子しかいないのか、婚姻は無理でも友人知人になれば、仕事の一つも回ってくるかも、出世に好影響かもと考える人がいるようだ。

 中には、私に対抗するべく着飾っている女の子もいたけど、こう言う時のシズやセバスチャン達の私への金のかけ方は半端ない。


 完全武装の十二単の花魁でも持ってこない限り、太刀打ちすら許さない。それ以前に『タイタニック号』で頂いたネックレスが胸元を飾っている以上、お値段で私に勝てる道理がない。

 しかもバックには、今年からはわざわざ気合を入れてもらった、秘書姿のマイさんも侍らしている。

 だから、私を見てちょっとションボリする場合が殆どだ。


(まあ、悪役たる身としては、十分に持てなしたってとこね)


 さらに、その外は鳳グループの子女達。もちろん、グループ内での力関係順の席になっている。そして一番離れた場所に、私の側近候補達。何十メートルも離れているから、視力が良くてもあんまり表情とかが分からない。



「皆様、本日はお忙しい中、私の誕生日にお越しいただきまして、誠にありがとうございます。ささやかではありますが、宴を楽しんで下されば幸いです」


 誕生日会は前回同様に私の言葉で始まり、定番イベントを順次こなしていく。

 基本私はニコニコしていれば良い。

 写真も動画も今回もガッツリ入っているから、私よりも周りの方が緊張している事が多い。だからホストとして、時には下らないジョークの一つも披露する。


 そして一人一人からお祝いの言葉をもらうのが、主に出席者達にとっての目的なので、ここに一番の時間をかける。特に、大人の誕生日会ではこういう1対1の機会がないので、親から託された子供の使命は重そうだ。

 半泣きな子、緊張でガチガチな子、気負いすぎて空回りな子、色々だ。

 なかには、私に怯えている子もいた。私を悪役と見抜いているのかもしれない、などと退屈しのぎに思いたくなる。


 なお、数が多いからメイド、使用人を横に置いて行列を制御してもらっているので、多分だけど気分はアイドルの握手会だ。

 握手ではなく言葉だけだけど、できる限り名前と顔の特徴だけを把握する作業に専念する。


 幸いと言うか最初に決めているルールで、お誕生日プレゼントは先に頂いているから、順番にもらって山積みになると言う事はない。

 そして私は、去年もしたようにお礼の手紙を返事に出せばミッション・コンプリートだ。


 けれども、返礼として自分のお誕生日会に招待したいと言うメッセージが少なからずある。大半の相手から見ればダメで元々で、こちらとしても余程の相手じゃないと応える気は無い。

 けど、去年も勝次郎くんの誕生日会に私は招待を受けて出席しているから、可能性はゼロじゃ無いと考えている者もいるだろう。


 けど、そうしたメッセージを出した先方に対しては、鳳一族の使用人達と鳳総研の厳しい判定が行われる。

 家柄、財力は基準を満たしているか。その家はどこに繋がっているか。周囲からの評判はどうか。鳳にとって、後ろ暗いところはないか。何よりセキュリティ体制はどうなっているか。

 様々な項目があって、大半の者が理由も添えられたお断りが私以外から告げられる。


 最終的に、私が返礼を兼ねて招かれるのは、片手で数える程度になる。

 去年はそれで、基準が厳しいと言われることもあったけど、セキュリティの甘さを言われると、日本の大抵の政財界の人は一瞬呆気にとられるらしい。右だ左だ、テロだアカだと言っても、日本国内に危険が少ない何よりの証拠だ。


 けど私個人としては、日本中に誕生日会が広がっている証拠だから、基本的には歓迎している。雑誌などにもお誕生日会の記事が載ったりするようになっているから、私的にはプレゼン大成功だ。


 そうして誕生日会は進み、意外にノリノリな司会進行役が仕切る中で、比較的気軽に過ごすことができた。

 勿論だけど、終わった後に要人と会うとかの、私のメンタルが削れるだけのイベントもなしだ。

 もっとも、私が思ったのは少し別の事だった。


(ゲームにこんな大規模な誕生日会無かったから、何年かしたら考え直さないとダメなのかなあ)

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