鳥と私
渡邉 一代
第1話
窓から差し込む朝日に照らされ、私はゆっくりと目を開けた。この部屋から幾度となく変わる景色を後どのくらい見ることができるのだろうか。
私は家からあまり出たことがない。それは生まれつき体が弱いせいなんだけれど、だからといって自分の置かれている現状を悲観したことはない。それは外の世界を知らないからかもしれない。
小さい頃から私には住み込みの家庭教師の先生がいて、沢山の本を読み聞かせてくれたり、字を教えてもらっていた。ただ熱を出すこともあって、勉強は殆どしていないけれど、本を読むことで色んなことを覚えていったわ。
十五歳になった私は本来なら中学生なんだと思うけれど、学校自体行ったことないからどんなところだろうと、いつも想像を巡らせていたのよ。
「美幸さん、お目覚めですか?」そう言って家庭教師の厚子先生が部屋に入ってきた。
「おはようございます。厚子先生。もうそろそろ起きる時間ですか?」
「そうです。起きてお着替えを致しましょう。」そう言って私の背中に手を回して起こしてくれた。
私は毎日このように起こされるのだ。甘やかされてると思われるかもしれないが、これは私の日々の体の変化を確認する為でもある。だから私は自分の身を厚子先生に委ねているのだ。その後はクローゼットから今日着るワンピースを選んで貰い、厚子先生が持ってきてくださった洗面器に入れられた水で顔を洗い、髪を結ってもらい、車椅子に乗せられ室内のテーブルセットにつき、運ばれてきた朝食を口にした。ただあまり食事は取れないので、果物のジュースや柔らかいものを少し口にするくらいだ。その後は窓の近くに行き日光浴を少しする。外を眺めていると、緑色に染まった庭の木に、一羽の鳥がとまっていた。羽休めでもしているのか時折羽を繕う仕草がみて取れた。じっと見つめていたので、その鳥もこちらの視線に気づいたようだった。けれど、こちらも見ているだけで何かをするわけでもないので、あちらも首を傾げたりしながらも、その場に止まっていた。そうこうしているうちに、厚子先生がベッドに戻りましょうかと言われたので、厚子先生の方を見て『はい。』と返事をし、顔をまた鳥の方に戻すと、もう鳥はいなくなっていた。
ベッドに戻りしばらくするとお医者様が入ってきた。かかりつけのお医者様で広元先生だ。いつも往診に来てくださって、栄養の点滴をしてくれている。この点滴で命を繋いでいるようなものだ。
「美幸さん、ごきげんよう。今日の調子はどうかね?」
「いつもと変わりませんわ。」
「そうか。それはいい。」その後厚子先生と何か話をしていたけれど、私は点滴をしながら少し眠ってしまっていた。そして起きた時には、私の周りには両親とお兄様の姿があった。私はキョトンとしながら、その顔を見つめた。
「やっとお目覚めだな。」と兄。
「よかったわ。」母。
「美幸、気分はどうなんだ?」最後に父が、口々に話かけてきた。
「いつもと変わらないわ。皆んなどうしたの?」
「皆んな、お前の顔が見たくてな、寝顔を見ていたんだよ。」
「そうなの?起こしてくれればよかったのに。」
「そうね。でも…。」そう言うと母は言葉を詰まらせた。そしてその様子をみると、私は意識を失ってしまったのだろうと、私は思った。それからしばらくは話をしたけれど、私が疲れてしまったので、また眠ることにした。そして次目覚めたのは夕方だった。
厚子先生にお願いして、また車椅子に乗せてもらい窓の外を覗くと、夕日に照らされた木には今朝いたあの鳥がまたこちらを除いていた。
「あら。」私がそう言うと、厚子先生も側に来て窓の外を眺めていた。
「何か珍しいものでもありましたか?」そう言われたので、今朝見た鳥があの木にとまっていることを告げると、厚子先生は不思議そうな顔をした。その様子をみると、先生には見えないのかしらと思ってしまったが、よく目を凝らして見てみるとあら居ますわねと言ったので、幻覚が見えているわけではなかったと思い安堵をした。この病気は酷くなると幻覚が見えるようになると言われているからだ。そして私はまたしばらくそうしていたが、厚子先生に促されベッドに戻った。
夕食はベッドの上で摂ることになった。といっても、またジュースくらいなのだけれど、それだけでも私は充分だった。それから口を濯ぎ再び布団に潜り込み、眠りについた。
その後私は目覚めることはなかった。といっても私はまだこの部屋にいた。悲しんでいる家族や厚子先生、広元先生がそこにいた。
ふと窓の外を見ると、木にとまっていた鳥が羽を広げてこちらに飛んできて、私に背中に乗るように促していた。私はその姿に驚きながらも、ゆっくりと鳥の背中に乗り移り、その後天高く舞い上がった。
私は初めて外の世界に出た。そして自由に何処へでもいける。そして私は空の上から家族を時折見守りながら、今日も色んな町に出かけている。鳥とともに。
鳥と私 渡邉 一代 @neitam
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