【再掲】04 白熱! 魔法教室
◇
「もう一回…もう一回よ!…お願いします、もう一回お願いします!…」
いったいこれで何回目だ?
頭や額を地面ならぬ雲に押し付ける様子は、ふわふわした感触を想像してみればとても気持ち良さそうで、何よりも投げ売りレベルの価値の土下座を高みの見物する事が、気持ちよくてこりゃあ癖になりそうだ。
もしかしたら本当に気持ちいいのかもしれないが、生憎俺は、頭や額を雲に擦り付けたりするような趣味を全く持ち合わせてない。
興味半分程度の好奇心から、眺めているだけでゾクゾクとしてくるものだ……前世においての例外もあったけどね?
HAHAHA! いいぞ、もっとやりな?
積み重ね、絶え間ない地道な継続の力をこれみよがしに、ジーザスの土下座は洗練されていき、やがては素晴らしき芸術へと昇華したのだ。
そもそもどうしてこうなったのか?
彼女の努力の賜物……なんて言ったら月並みすぎるだろ?
それでは時を遡ろう。are you ready?
───3、2、1、action!
◇
「では、模擬戦やろうか?」
「模擬戦? どういうつもり?」
どういうつもりと言われても困るし、魔法のやり方はわかったものの、実践しなければペーパー免許のようなもので、ちゃんと講習を受けないと事故るかもしれないから危険だ。
この世界を楽しむのに必須な魔法だが、無能な講師のおかげで睡眠学習せざるおえなかったからね……ジーザスのクソッタレ。
「なに、魔王である俺にいつもやられっぱなしなんて癪だろ?」
「そうね、理不尽にもいつもの挨拶代わりとばかりにハジキを撃たれるし、おかげで私の耳たぶが天に召されたんですけど?」
「その先はアポロ頼りの天界ジョークか? HAHAHA!」
「笑い事じゃないわよ! 模擬戦であんたをギャフンと言わせてやるわ!?」
「ギャフン、それで?」
「……舐めるのもいい加減にしなさい! いいわ、受けて立つわ!」
そんな訳で丁度良い訓練相手の出来上がり。煽てておけばいい講師役、煽ればサンドバッグになってくれることだろう。
「ま、耳たぶの件はすまなかった」
「耳たぶ以外にもっと謝ることあるでしょ!? どういうつもりか知らないけどね、あんたは人にハジキぶっぱなしておいて何なの?」
「それは悪かった…、お前の魔法を目の当たりにした俺が、果たして魔法を使えるのか、それともただのアホなのか……確かめてみたくないか?」
「……あんたね、謝るなら最初からそう言いなさいよ。わかった、あんたが口だけ達者な魔法のトーシロかどうか、私が確かめてやるわ!」
とてもチョロくて助かる、その前に魔法がちゃんと使えるかは試してみるか。
───まずは水属性をイメージ。調達先は大気中の水分、それを瞬時に集めてどうするか?
答えはデフォルメされたぞうさんの形をしたジョウロを思い浮かべると良い。
あとは手のひらの上に水球を作り出し、放ちたい方向に手のひらを向け、ぞうさんの形をしたジョウロを傾けるようなイメージする。
準備が整った次、頭の中で『らっきぃ』とでも呟いてみれば、それがトリガーとなってとてもゆるいシャワーを浴びれるぞ!
『ジョロロロ………』
「……何よ、それ?」
ジーザスは驚きのあまりに言葉が出ないようだ。むしろ笑いを堪えているようにしか見えないけど。
「"ぞうさんジョウロ"とでも名付けよう。中身をお酒に変えれば、もれなくパリピだ……うむ、これで俺も魔法を使える事が証明されたな」
「……ぶっ、HAHAHA! 魔法を使えるようになった? それで模擬戦?……HAHAHA!」
ジーザスが大ウケしているようなので素晴らしい魔法のようだ。今からお花の水やりをするお仕事の面接にでも行こうか?
一応魔王であるのでWワークとなるが、よろしいかな? ジーザス先生?
冗談はともかく、魔法そのものを使えてこそ、この世界を楽しめる。それがわかっただけで収穫だ。
もう一つ、イメージしておくか。
───さ、見せ玉はお披露目したぜ?
「こちらはハジキなんて使わない、もちろんヤッパも無しのステゴロだ…。ジーザス先生、魔法だけでどうだ?」
「あんた……私の事舐めすぎじゃないかしら? いくらあんたが魔王だからって、私の事を見くびらないで!?」
「……乗ったな? 勝負に乗ったな?」
「えぇ、当たり前よ。ハジキもいらない?……ヤッパもいらない?…武器の無いあんたなんて怖くないわ!」
「魔法は非殺傷系のみで頼む。これは模擬戦だからな?」
「望むところよ、あんたなんて魔法だけで十分よ!……野郎ぶっ殺してやるわ!」
見事なまで挑発に乗ってくれたジーザスは、いつか見た某映画のようなセリフを吐いて詠唱を始めた。
そのまま突っ込んでは来ないようで、どうやら某映画の脚本とは違うようだ。
こちらも正々堂々魔法のみ、体術も可であるがそれは抜け穴か。
先ほどジーザスをじっくり観察した結果、原理そのものは理解したつもりだ。
非殺傷系のみを指定したので、オウンゴールがあっても何ら問題はない。
フレンドファイアしても羽根付きKKK達への被害は最小限であり、友達を選べるのは素晴らしい。選ばれた方は悲惨だけど、そもそも友達認識されているのだろうか?
ま、そんなの俺の知った事ではない。
今はとりあえず目の前のクソッタレに集中しよう。
「……水の精よ、あのくそやろうをぶっ飛ばしてやる! どうか私に力を貸して!」
相変わらず隙だらけも良いところ、こちらも水属性を指定して手に湿り気を帯びさせる。あとは塩と炊いた米が欲しいね、HAHAHA!
冗談はともかく、ぞうさんジョウロを思い浮かべて"らっきぃ"と頭の中に響かせれば…。
『ジョロロロロ………』
「ぶふっ!……あんな舐めた奴はぶっ飛ばすわ、そうでしょ、水の精さま……精霊の怒りよ……」
盛大に吹きやがったが、集中力は途切れていない。ああ、お前ならいい兵士になれるかもな?
さて、見せ玉はここまでだ。ここはひとつ驚かせてやろう。
まずは光をイメージ、投光器を一瞬照らすように、カメラのフラッシュのようにほんの一瞬だ。
「さあ渦巻け、魔王のクソ野郎をぶち殺せ! あいつに裁きを……」
さあて、いよいよじっとりとした空気はまるで雨雲の中に突っ込んだかのように、ジーザスの手元に集まった霞は一つの水球として渦を巻いて纏まりつつあるときた。
こちらは魔力をほんの少し、あとはまばゆい光を出すだけ……どのように?
手の先、指先を使った指ばっちんのように擦って着火するようにしてみようか。
───are you ready?
「……さあ水の聖よ、我に仇をなす魔王に裁きを下せ!……ウォーターボー『バチン!』」
ジーザスの手のひらに渦巻く水球を射出しようとしたその瞬間だ。
彼女の間合いに一瞬で詰め、懐に潜り込んで眼前を左手で遮るようにかざし、指を鳴らした刹那。
『ぱっ!』と一瞬の閃光が走り、思わず空いていた左腕で顔を覆い隠して転がるように前へと駆け抜けた。
「きゃあああああああああ! め、目が! 目が!! あああああああああああ!!」
耳を劈く勢いでジーザスの悲鳴が上がり、彼女の方に向き直れば渦を巻いた水球はそのまま、むしろ勢いを増している中で彼女は、顔を手で覆いながらもがいていた。
射出寸前だった水球はコントロールを失い、やがて……あ、これは危ない、伏せろ!!
『BONG!!』
水球は破裂し、噴き出した鉄砲水が周囲を飲み込もうかの如く襲い掛かる。
幸いこちらは離れた位置で伏せていたからか、精々ずぶ濡れになる程度で済んだが…、直下にいたジーザスはずぶ濡れだけで済まされるはずもなく直撃、ぶっ飛んでお星さまキラリと言ったら大袈裟か、古典的か……やがては落ちた先の雲の上に着地(?)した。
鉄砲水の衝撃をもろに受けたのは言うまでもなく、暴発した瞬間に気絶したのだろう。
そのまま受け身を取れずに頭から着地(?)したものの運よく雲の上……これが地上だったら天へと飛び立った事だろう。アーメン。
今回は幸いな事に雲の上の天界、飛び立って召される必要はなさそうだ。輸送コストも最小限で省エネルギー。
とりあえず試したいことは検証できた。
試したい事、それは少し前の出来事だ───。
◇
ある時、またいつものようにうちの城へやって来た侵入者達。
そのうちの一人が詠唱中の魔法使いだった。城の通路はまるで札束を燃やす成金が居るかのように明るくなり、手先に纏った炎が球状に成形されていく様子を確認した。
この間抜けが、構えたカラシニコフの照星にお前のツラをバッチリ捕らえたぜ?
あとはどっちが早いか、勝負といこうか。
魔法使いが城の通路からこちらへ火球を射出しようとしたその直前、『TANG!…』と頭を撃ち抜くワンショットキルで無力化。
やはり信頼出来る武器、そして腕がものを言うね。
これで遠距離からの脅威はなくなった。
倒れてゆく魔法使いに浮き足立つ侵入者達の掃討と行こ『BOMG!!』……え、何が起こった?
突如として轟音をお供にした何とも派手な爆発が起こり、結果として城壁の一部が崩落し、大掃除が必要になる程の大惨事となったのだ。
どういうことだ?
魔法が暴走したのか?
原因はなんだ?……とりあえずだ、お供だったはずの侵入者たちもオウンゴールにより蒸発、またはミンチとなった二つの運命。
弾代はたったの一発分で安上がりだった一方、城壁と通路の修繕費用が馬鹿にならない結果となった。
おいおい、またサクラダファミリアかよ……。
原因究明を急ぎたいものの、いったいこれはどういうことだ?
今後も同じような事があっては困る……。
とにもかくにも検証の必要がありそうだが、いったいどうやって?
しばらく考えたのち、瓦礫とミンチの片付けを部下たちに丸投げし、『ジーザスのクソッタレ』と念じたところでどうにかなるわけもないか……と思っていた憂さ晴らし。
気が付けば太陽と青空がこんにちは、お元気そうで何より……。
燦々と輝く気儘な太陽光に背を向けてみれば、素晴らしい二つの山が目の前に……。
ジーザス!……え?……ジーザスだと?
呆気にとられた表情を浮かべるジーザスがそこにいて、突如として雲の上の世界に足を踏み入れていたのだ。
あまりに訳のわからない展開に思わずたじろいだ。
念じれば雲の上、これはいったいどんなジョークなんだい? HAHAHA!───。
◇
「よう? 生きているか?」
ずぶ濡れで倒れ込んで伸びているジーザスへのモーニングコール。
「……う、うーん……ママ?」
よかった、生きているけど俺はママじゃない、もちろんパパですらないよ?HAHAHA!
「……キャプテン?」
前世の俺の階級か……なんだろう、どこかで会った?……わからないな、しかし、まだ寝ぼけているようだね。
女神の見習いだか知らんが、キャプテンとして無言のまま起きろと命令しよう。
ただひたすらにわき腹あたりを脚先で小突き続け、そうしているうちにお目覚めの時間だ。
「うーん、痛いからやめて……」
このまま起きなかったら地上へ旅立ってもらおうか、またはヨットのない太平洋ひとりぼっちをやってもらおうか悩んでいたところだ。女神見習いなんていなかった、いいね? HAHAHA!
そう言うわけで選択肢は決まったので起き上がるまで続けるか。ほれほれ、早く起きねえとあばらにヒビが入るぞ?
「痛い! わかったから! 起きるから! 起きますから!」
覚醒してしまえば元気なようで何より、おはようジーザスのクソッタレ。
「全く何なのよ!? 何で蹴るのよ! 酷い! 痛いじゃない!」
「ああ、生死を確認しただけだ。死に損なっていたらBANGのつもりだったからな、無事なようで何より?」
「ふざけないで! ちゃんと優しく起こしなさいよ?!……それと何? さっきのは何なのよ!? 目の前で急になにか光ったかと思ったら、目が痛くて真っ暗になって……何なのよ!? あんた私に何をしたのよ!?」
「もう一回試すか?」
「嫌よ!……それになに? 何で私のウォーターボールが暴走したのよ?」
ネタバラシはしない、もしかしたらこの現象は認知されていないのか?
まぁ良い、爆散した侵入者の擬似的な再現は出来た。
魔法のやり方は覚えた、属性をイメージして選択し、必要な魔力を算出した状態でどのように発動するか記憶、同時進行で鍵となるワードを選択、決定してロックを解除しておく。
ここまでやればいつでも魔法を発動できる状態であり、あとはどのような方法でアウトプット、発動させるかってだけだ。
ジーザスは詠唱していたが、予め発動条件を揃えておく、または整えておいてロックを解除すればいつでも撃てる状態って訳だ。
仕組みは銃や手榴弾のように引き金、あるいはピンを引くのと変わらない……と思う。
「それになによ!? 無詠唱? いったいどうやればそうなるのよ!?……ねぇ、聞いてるの?」
「うるさい、もう一回食らえばわかるんじゃないか?」
「は? 何よ、私は説明を求めているのよ!? どうすれば『パチン』ぎゃああああ! 目が! 目があああああ!!」
実践付き、実戦形式のスピードラーニングなんていかがかな?
「おう、見て学べたか? 気になるんなら俺から技を盗んでみろよ?」
ただ光るだけ、オウンゴール製造機よりもシンプルで便利だろ?
「んなもんわかるか!! このろくでなしのクソ野郎!!………もう一回よ、私ともう一回戦いなさいよ?『パチン!』ぎゃああああ! 目が! 不意討ちなんて卑怯だわ!?」
「戦いに卑怯もクソもあるか! 早さが生死を分けるんだよ!」
俺の前世の戦友たちも、不意を突かれて沢山死んでいったんだ……許せよ?
「うっさいわね! 無詠唱なんて危険よ! それこそ暴発したらどうするのよ!? ちゃんと教えた通りに『パチン!』キャアアアア!! AーHOLE !!」
───さすがに可哀想になったので、不意討ちは無しにした。実戦じゃそうはいかないのだけど…そうして、ジーザスは何も学べないまま、何度も再戦を望むドM根性は誉めても良い。
───再戦する度、少しずつ従順になっていき、やがて綺麗で芸術的な土下座を身に付けたのだ。
「おい…もう今日は諦めろよ?」
「嫌だ、あんたに負けっぱなしは嫌だ! もう一回、お願いします!……何でもしますから! 何でも言うこと聞きますから!」
「…おう、じゃあ今日は帰るわ」
全く、付き合ってられんよ───。
◇
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