第33話
カナンの町を出て、その近くの森で知人を助けてから翌日、ボクとハルさんは、ようやくランス君達の村、レイテア子爵領のベナティア村近くまで戻って来ていた。
ガラガラガラッ、キィッ
「レブ?起きていたのか。大丈夫か」
「ハルさん、大丈夫。少し眠れたよ。ごめん、途中で倒れたりして」
「あれだけの血を流したんだ。倒れるに決まっている。もう、こんな事は御免だ」
「……ごめんなさい」
「いい。ただ、もっと自分を大事にして欲しい」
「……ん」
夜通しでのファストマン公爵領からの強行軍、すでに疲れきっていたボクは、いつの間にか、御者席で気絶していた。
幸い、隣にいたハルさんが抱えてくれたらしいんだけど、正直、何も覚えてない。
とんだ醜態を晒してしまった。
「ハルさん、その……」
「いい、私は君の秘密を聞くつもりはない」
「!」
「君が私に喋る必要があれば、その時に聞く。私から知ろうとは思わない」
「……ありがとう、分かったよ、ハルさん」
「ああ、取り敢えず、森に戻ろう」
「村はどうなったんだろう?辺りの街道で兵士を見かけなかったけど」
「ランスが上手くやったか、実際に病人がいないのを確認して、すでに撤収したか」
「まあ、何にしても、此方は大事にはなってない様で良かったよ」
「そうだな」
ランス君達に森の猟師小屋への避難を伝えておいたけど、杞憂だったみたいだ。
とにかく、一旦、猟師小屋に戻ってから、ヒ素中和剤を作ろう。
あのケスラーやハーベルみたいに、二次被害が出てないとも限らないからね。
ボクらは、そのまま村を素通りし、猟師小屋のある、ザナドウ国境の森に向かっていった。
◆◇◆
ガラガラガラッ
猟師小屋が見えてきた。
やっと帰ってきたんだ。
さすがに疲れた。取り敢えず、休みたい。
バタンッ
「レブさん!」、「レブお姉ちゃん!」
「ああ、ランス君、マイリちゃん、良かった。元気そうだ。二人が心配だったんだよ」
馬車を止め降りようとすると、猟師小屋からランス君、マイリちゃんがドアを開け、此方に駆けてくる。
ボクはそれを、手を広げて出迎える。
「レブさん、それはこっちのセリフ!こんなに掛かるなんて聞いてないよ!?」
「そうだよレブお姉ちゃん。兄ちゃんね、ずっとずーと心配してたんだよ」
「マ、マイリちゃん!?久しぶり。ずっとって?」
「ハルさんと、お姉ちゃんがモゴモゴ」
「マイリ!」
ランス君が、マイリちゃんの口を手で塞いだ。なんで?
ガタッ
ん?ハルさんが、ランス君のところに向かう。ハルさんがランス君と対峙する?
「約束は守った」
「……ああ」
約束って、なんの約束?
マイリちゃんが、ボクのところにくる。
何、その意味ありげな笑顔??
「レブお姉ちゃん、何処までいったの?」
「何処までって、んーっ?公爵領?」
「そうじゃなくて、女と男の関係!」
「女と男の関係!?」
マイリちゃん、何の話しですか?
カタンッ
んん?猟師小屋のドアが開いた。
誰かいる?
「ランス君、マイリちゃん。まだ、誰かいるの?」
「あ、そうだ。レブお姉ちゃんに紹介したい人がいるの」
「マイリちゃん、お姉ちゃんじゃないって、何度も………紹介したい人?」
「お姉ちゃんは、お姉ちゃんだもん!あ、それでね、お姉ちゃんの知り合いの人がいらっしゃってるの」
「え、ボクの知り合い!?」
だ、誰だ!?
そもそも、どうやって此処に?
ハルさんが警戒する中、猟師小屋のドアから
現れたのは、美しい赤い髪で容姿端麗。
キリッとしたつり目は、美しいだけではないハッキリとした意思の強さを物語っている。
「あ、アナタは!?」
「久しぶりね、レブ。それとも、レブン▪フォン▪クロホードと呼んだ方がいいかしら?」
その人物は、学園の同級生であり、ボクの
「エレノア様……その、お久しぶりです」
「お久しぶり、でも……その前に、先に挨拶をさせて頂きますわ」
「挨拶?」
な、なんの挨拶?
スッ
エレノア様は、ハルさんの前に進み出て、優雅に
「ご無沙汰しております。バルトハルト▪フォン▪ザナドウ王太子殿下」
え、ハルさんにエレノア様が頭を下げた?
殿下って???
「私は一介の元兵士、貴女の知る人物ではない」
「分かりました。今は、そういう事で通されてらっしゃるのですね。では、
「……頼む」
………っ
エレノア様が此処にいるだけでも驚きなのに、ハルさんがザナドウの王太子?!
あ、頭が混乱して、何が何やら???
!!
ハルさんがボクに向き直る。
ど、どうしよう!?
ボクはこれから、ハルさんにどう接すればいい?
「レブ、私は、今はただの元兵士だ。何も今までと変わらない。いつも通り接してくれて構わない。いや、むしろ、いつも通りで頼む」
いや、無理でしょ!!
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