第30話 坑内排水と騎士団
皇都を出発した騎士団は、全部で4000人に及ぶ。
1町、1村に対する対応としては、規模が大きな対応であるが、裏返せば、皇国首脳陣が今回の
その内、公爵令嬢エレノア▪フォン▪マデリアが率いたのは、第三騎士団の1500人。
残りの2500人は全て、ファストマン公爵領に向かった事になる。
しかし、これを率いた公爵令息ケスラー▪フォン▪ファストマンは、自領の事であり、皇国の騎士団に、むやみに自領内での活動を許したくはなかった。
皇国元老院の指示には従ったものの、いざ、自領の領境まで来た時点で、領内先行調査名目での別動隊、精鋭30名を選別し、自分と、部隊長であるハーベル▪フォン▪ブライト侯爵令息を同行させる事で、主力騎士団2500の大半を領境に待機としたのである。
ケスラーには当初から父親である、ファストマン公爵の意向があった。
息子が部隊を率いる事で、皇国の騎士団の受け入れに同意はしたものの、領主であるファストマン公爵としては、部外者である皇国騎士団に領内を勝手に弄られるのは、実は面白くなかったのである。
だが、それに横やりを入れられた形になってしまっている。
それは、公爵のプライドを著しく傷つけたのである。
だから公爵は、少しでも皇国元老院の意向に反発をアピールしたく、息子に騎士団を待機させ、町に対しては自領の領兵で処理する方針を伝えていた。
そして、その自助努力による対応で処理出来た事の証人として、騎士団の精鋭を先行調査名目で連れ出し、その状況を見させ、元老院の鼻を明かしてやるつもりだったのである。
◆◇◆
◆ファストマン公爵領
北部の町カナン
その近くの鉱山付近の森
レブン視点
ボクらは町での治療を終え、ザナドウ国境の森に帰る為、ハルさんと帰路についた。
シスター達には、持っていた薬の全てと、処方指導、そして北側の井戸の閉鎖を指示し、やれる事は全てやり終えて、町を後にした。
心残りは、間に合わず亡くなった方々に対してだったけど、やっぱり残された家族の事を思うと、ボクが皇都を追われなければと、後悔の方の念が強かった。
ハルさんは、不可抗力だと言ってくれたけど、ハイドンさん親子の事が頭から離れる事はなかった。
「レブ、そんな顔をするな。君はよくやった。事実、町は救われたんだ。もっと胸をはってもいい。君が動いたから、彼らは生きる事が出来たんだ。ほとんどの町の人は、君に感謝していただろう」
「……ハルさん、有難う。救えた人がいた、その事に満足するべきなのは分かってるんだ。一人で出来る事が限られている事もね。けれど、ボクが最善を選べていれば救えた命がもっとあったかも知れないんだ」
「レブ……」
「だから、もう、後悔しない為に、ボクは薬師になる。もっと多くの人たちを助けられる、立派な薬師になりたい」
「……ああ、そう、だな。君なら、きっと成れる。立派な薬師になれるさ」
「有難う、ハルさん」
ボクらは、町の外に止めてあった馬車で、皇国の国境の森を目指す。
正直、ランス君達が心配だ。
村からは出るように伝えたけど、果たしてその後、どうなったのか。
村にヒ素毒の患者は居ない筈。
それが判れば騎士団は、村の閉鎖を解除するだろうから、村は大丈夫なんだけど、お馬鹿な指揮官だと、間違った方向に行きかねない。
万が一の為、ランス君にはボクの見解書を渡してあるけど、使う場面は無い方がいいんだ。
ガラガラガラッ、ヒヒーンッ、キィッ
ガクンッ
「!?」
走っていた馬車が急に停車した。
ハルさんが手綱を持ったまま、前方を見ている。
んん?
「ハルさん?」
「……」
黙ったまま、前方を指差すハルさん。
何かある?
そのまま、ハルさんの指差した方向を見たボクは、目を見開いた。
「?!」
前方には、倒れている甲冑を着た兵士達!
よく見ると、皇都のパレードで見た事がある騎士スタイルの兵士だ。
数十人は居る。
「ハルさん、これ!?」
「レブ、見ろ。馬が死んでいる。見るに、横に流れている小川から、水を補給したのだろう。そしてこの小川の上流は、私が調べた坑道がある」
「!!」
それはつまり、この小川は自然のものではなく、人口的に作られた、いわゆる坑内排水!
「カナン町に向かう途中の皇国騎士団だ。急な出動による強行軍、給水ポイントを飛ばした為、この地で補給したのだろうが、それがアダになった」
「た、助けないと!」
ボクは慌てて馬車を降りようした。
すると、ハルさんがボクの腕を掴む?
「ハ、ハルさん?」
「君が行ってどうする」
「まだ、息がある人がいるかもしれない。一人でも助けないと!」
「手遅れだ。無造作に掘られた新しい坑道は幾つもある。その小川が坑内排水そのものなら、ヒ素の濃度は町の井戸の比ではない」
「見殺しには出来ないよ!」
「しかも薬は無い。町に全て置いてきているだろう?さらに飲み水も無い。君に出来る事は何も無い」
「!!」
そう、だった。
けど、ただ、見殺しなんて絶対に嫌だ!
バッ
「レブ!?」
その瞬間ボクは、ハルさんの腕を払うと、そのまま馬車を降りて走り出していた。
もう、させない。
誰も、見殺しなんか、絶対にさせるもんか!
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