第13話 ある領主代理の日常
◆とある子爵令嬢視点
「お嬢様、本宅から決済書類が届いております。お目を通して頂き、サインをお願い致します」
「カーネル、貴方が決済してって言っておいたわよね?私はお姉様からどうやって逃げようか、考えるのに忙しいんだけど!」
「はい?お姉様?キャロラインお嬢様には、ご姉妹はいらしゃらない筈ですが?」
「うるさい!カーネルがやりなさいって言ってるのよ!」
「と、申されましても、ご当主様が病で伏せっている間は、お嬢様が当主代理で御座います。決済業務は、当主代理の大事な職務でありますので、皇国貴族法第123法では、領の代行業務は血縁者以外の者が行う場合、国に代行理由の申請をしなければなりません。貴族院を納得させうる代行理由でなければ、貴族として不適格の烙印を」
「ああーっ、うるさい、うるさい!決済すればいいんでしょ、決済すれば!ほら、寄越しなさいよ!」
バッ
ふん、こんなもの、適当にサインしておけば済む事じゃない。何よ、この執事。本当に使えない。たかだか、辺境の三つの町と七つの村の税務収支しかない、小さな領の決済なんて、誰がやっても変わらないわよ!
パラパラッ
町の上下水道工事申請書、駅馬車設備更新申請、町役場役員選定議定書、人頭税軽減税率申請書類、孤児院新設申請書、領兵給与収支決済、その他、いっぱい……っ
「ああーっ!!頭がぐっちゃぐちゃだわ!目が痛い、こんなにあるの!?」
「キャロラインお嬢様。まだ、半分もお出ししておりません。取り急ぎ、決済が必要な分だけで御座います」
「たかが貧乏子爵家の領地なのに!?」
パラッ
【新薬開発報告書と念書サイン依頼申請】
「これは?」
「ああ、それは当家専属薬師から申請のあった、新薬開発に関する報告書で御座います」
「へぇ、あのウチのボンクラ薬師、新薬を開発したの?そんな才能があったかしら」
「いえ、開発者は領内の村人だそうです。なんでも魔獣避けのお香らしく、国の評定委員会も認めた、確かな効能がある薬剤だそうです。今後は新薬特許申請をする為、開発者にレシピ公開を要請するので、領主に対し、念書にサインを求めているとの事です」
「へえ、凄い事じゃない。うちの様な小さな貴族領に新しい収益源が出来るのね」
「はい。開発者は薬師ではないので、当家を通して販売する事になりますから、販売金額の三割が領の収益になります。また、薬師ギルド法により、開発者と販売者は新薬特許法に従い、十年間は他者は直接販売が出来ません。他者は、売った魔獣避け香の販売金額から、レイテア子爵家にマージンを払う事になります。大きな収益になるでしょう」
「凄いわ。これでお姉さまに借金を返す事が出来れば、私は【受け】から解放される。元々、私は【攻め】なんだから……」
「キャロラインお嬢さま?」
「な、なんでもないわ」
ああ、良かった。これで、あの日々から解放される。そもそもこの役は、レブンちゃんの予定だったのよ!まったく、あの子が学園から逃げだしたせいで、お姉さまに何度イカされた事か。絶対、見つけ出して、私が【攻め】てやるんだから。
ああ、あの
パラッ、ん?
「ねぇ、カーネル?この念書、専属薬師が書いたの?」
「いえ、開発者の村人です」
「ふーん?皇国公文書書式を、よく知っていたわね。平民なんて、識字率も高くないのに。それに書式を書いた字と、枠内に書き込んだ字が違う?」
「お嬢様、何処か、気になるところでも?」
「気になるところが無いから、逆に気になるのよ。あら?」
「?」
この皇国公文書書式、前にお姉様から貰った、風邪薬の調剤内容が書かれたメモと筆跡が一緒だわ。律儀に調剤内容を書いてあったから、気になって持っていたのだけど。
「ねぇ、カーネル?領内の平民は、字や書式の書き方って、一体何処で習うの?」
「独学しかないですな。そういった習い事は、ここ、皇都まで来ませんと難しいでしょう。大抵は、家庭教師を雇いますから、平民ですと、裕福な商人とかでないと」
「ふーん、じゃあ、村人は?うちの領の」
「村人ですか?レイテア子爵領の?あり得ませんな。失礼ですが私共の領は、筋金入りの貧乏子爵領です」
「カーネル、貴方、本、当、に失礼だわ!」
「申し訳有りません。とにかく、領内にはコレといった産業もなく、隣国国境の辺境領。例え、町の商人といえど、別領を往き来する程度。裕福な商人などおりません。それに」
「それに?」
「家庭教師になるのは、貴族の三男以下や側室の子息、子女が成るものが普通です。貴族でなければ、身持ちを証明するのが面倒ですし、家庭教師自体も成り手は多く有りません。給与も普通ですし、大抵は後取りから外れた貴族の子息、子女の婚姻までの腰掛けですからね。貴族の方が商人に教えるのは、貴族の子息、子女に教育するより給与が高いからです。そんな理由ですから、平民の、それも農民に教える事は、まず無いでしょう」
「そうなのよねぇ。はあ、わっかんないわ」
「ああ、お嬢様、少し休憩しましょう。私のツテで、久方ぶりに
「ああ、あれ好きだわ。美味しいのよね。流石、カーネルだわ」
こうして子爵令嬢キャロライン▪フォン▪レイテアは、執事のカーネルと共に、サンダース揚げに
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます