不登校カルテ
西表山猫
第1話 入学早々欠席 ~その1~
気がつけばゴールデンウィークが過ぎていた。この時期というのは世間一般的に新たな環境に適応しようとすることで溜まった疲労が噴き出す頃合いだ。いわゆる五月病という病というべきか定かではないが、無気力、疲労感といった症状が現れ始める時期だという話をよく聞く。平日の昼間から学校へ行くこともなく家に居続ける生活を繰り返す自分は、五月病なのかというとそれは違うだろう。五月よりもずっと前からどことなくやる気がなくなってしまったのだから。どうしてそうなってしまったのか原因はわかっている。自分の運の悪さを憎んでも何も始まらない。このことはもう考えるのはもうやめよう。そう考えて今日もいつものことながら気晴らしに、薄暗い部屋でゲーム機の電源を入れた。
今日もまた同じ一日がスタートかとそんなことを思っていると家のチャイムが鳴った。部屋の窓から外を確認するものの誰かわからない。というよりも二階にあるこの部屋の位置からして屋根のせいで死角となり誰が来たのかわからなかったのだ。わざわざ一回まで下りるのが億劫というのもあるが、もし近所の人だったなら会うのも少し気がひけた。ご近所で自分のことが既に噂になっているのかわからないけれども、まだなっていないのなら井戸端会議の今日のトピックスにされたくはない。そう考えて居留守を決めると、しばらくしてチャイムが再度鳴り響く。外を見る限り近くに車はとまっていない。宅配業者が来たわけではなさそうだ。依然変わらず居留守を貫く。もうそろそろ留守だと察して帰ってくれるだろう。そう思っていた。けれども相手はしつこくチャイムをまた鳴らす。そしてさらに鳴らす。また鳴らす。鳴らす。鳴らす。挙句の果てには連打し始めた。完全にいたずらだ。なおさら家の扉を開けるものか。
ひとしきり連打し続けて相手も諦めたのかわからないが、一分ほど続いたチャイムが途絶えた。正直な話、ここまで相手が執念深かったことに若干の恐怖を感じているほどだ。ようやく立ち去ってもらえると安堵しかけた時だった。階段を上がってくる足音が聞こえる気がする。いや、誰かが上がって来ている。足音が次第に大きくなってきていた。それすなわち得体の知れない何者かがこちらへ向かってきているということ。もうこれは完全に恐怖でしかない。足音はますます近づいて部屋の前まで来たかと思った時、その音はとまった。そして次の瞬間にコンコンというドアをノックする音が聞こえた。
「あの、小池弘樹君ですか?」
知らない女性の声だった。「はい」と答えてやりたいところだけれども恐怖のあまり声が出ない。無論、声が出たとしても得体の知れない侵入者に返事をしてやる義理もないのだが。
「ええと聞こえていますか? 給食で余ったレインボーカラーベーグルクリームチーズサンドを持ってきたんですが……」
どうやらやばい奴を家に入れてしまったことは間違いなさそうだ。
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