藤白君はおかしい
黒白 黎
01 藤白君はおかしい
クラスメイトの藤白(ふじしろ)君はどうもおかしい、と気づいたのは半年前に遡る。
たまたま席替えで隣の席になった時のことだった。
どのクラスにもひとりはいる。地味で無口でネクラっぽいのになぜか意外と友達が多い奴。それが藤白君なのだが、俺はあまり話したことはなかったし、隣同士になっても妙に気づいということもあった。
だが藤白君は特に気まずそうな様子も見せず、ひたすら机に消しゴムをかけていた。
「なにしてんだろ」と内心思ったが、消しゴムがカスになるまで懸命に机をこすっている藤白君の真剣さに圧倒され、なにも聞けなかった。
しばらくして授業が始まったが、俺は藤白君の行動が気になってチラチラ見ていた。
藤白君は山盛りになった消しゴムのカスを机の四隅に均等に盛り始めた。ますます意味が分からない。
俺はついに小声で藤白君に尋ねた。
「藤白君、なにしているの」
藤白君の長い前髪からにんまり弧を描いた目が見えた。
「即席の結界。キミは多分、うっすらと見えているんじゃない?」
というと、藤白君は目線を廊下に向けた。
俺も釣られて廊下に目線をやる。
そこで俺は、見てしまった。見えてしまったというべきか。廊下に立つ男子生徒を。
教室のドアのガラス窓を通してだから肩までしか見えなかったが、首は極端にうなだれていて気持ち悪かった。
「あれって、まさか…隣のクラスの奴とか、だよね」
「授業中なのに廊下にあんな風に立っている生徒がいると思うかい」
「…先生に立たされているとか」
「キミは死んだほうがいいね」
藤白君はそう言うと、ため息をついて突然立ち上がった。
「先生、便所」
先生の苦笑いを背に受けながら、藤白君はドアを開けて廊下に出ていった。
そして、相変わらず立ち尽くしている男子生徒に向かって歩いた。
「え…!?」
男子生徒の体は確かに見えるのに、その体を藤白君が通り抜けたのだ。すなわち、すり抜けた。
俺は喉が引きつって声も出せなかった。
男子生徒をすり抜けたとき、藤白君はこちらを振り向き『ほらね』とでもいうようにニヤリと笑っていた。
その表情の気味悪さを、俺は一生忘れない。
藤白君が通り抜けた後も男子瀬戸は立ち尽くしていた。うなだれたまま、ずっと立っていた。
あまり見ていると、そいつが顔を上げそうで怖かった。
俺は藤白君が戻ってくるのを待ちながら、ひたすら消しゴムを机にこすっていた。
藤白君を真似て消しゴムのカスを机の四隅に盛るためだ。結界を築くために。
だが、消しゴムをかけているうちに藤白君は戻ってきた。平然と教科書の肖像画(しょうぞうが)に鼻毛を書き始める。俺は藤白君に「あれ」は何だったのかと小声で尋ねたが、藤白君は「キミの目は飾りなのか」と嘲笑った。あれはなんなのかと問い詰めようとしたが、「そこ! 授業中だぞ」と先生に注意され、聞くに聞けなくなってしまった。
藤白君にもう一度訪ねる前に廊下に視線を移した時、いつの間にか廊下の男子生徒は消えていた。
あの男子生徒は幽霊だったのだろうか。それとも単なる錯覚だったのだろうか。今となっては確かめようがない。
とりあえずそれ以来、なぜか藤白君と俺は仲良くなってしまった。
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