嘘つきの勇者の英雄譚
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第1話 とある賢者の話
~とある賢者の話~
今から200年ほど前とある年老いた賢者がいました、その名をドクトル。彼は強大な魔力を持ち、多くの弟子を引き連れ旅をしていました。
ある日彼はとある町にたどり着きましたがその町には不自然なほど人が少なく、人々に話を聞けば少し前から近くの山に住み着いた怪物の仕業で多くの人が殺されてしまったと言います。
ドクトルはその人々のため弟子たちとともにその怪物を退治することにしました。
彼らは険しい道を経て怪物が住むという山にたどり着きました、そこには三匹の大きく醜悪な怪物がいました、上半身は黒く人のようですが顔の真ん中にはただ一つ大きな穴が開いており、下半身は馬のような二本の足を持っていました。
ドクトルは怪物へ町を襲うのをやめるよう言いました、怪物は驚くほど流暢にこう言います「お前を食わせれば町を襲うのはもうやめよう」
ドクトルの弟子のひとりはそれに怒り怪物たちへ攻撃を行いました、しかし怪物は攻撃を行った弟子へ近付き頭の大きな穴で飲み込みます、すると弟子は怪物へと姿を変えました。
ドクトルは怪物へと変わった弟子ごと魔法で作った炎をぶつけました、炎が見えなくなるとそこには怪物の姿はいなくなっていました。
町へ帰ったドクトルは多くの人に感謝されましたが、救えなかった弟子の弔いのためその生涯を閉じるまで町を守り続けました。
◆ ◆ ◆
古びた本屋、小さな机でそれまで静かに本を読んでいた少年はその話を読み終わるとパタンと本を閉じた、少年は真っ黒な色をした髪に色白い端正な顔つきをしていた。
本のタイトルはソトニア英雄譚、魔物や魔法災害、魔王など様々な恐怖から逃れるために各地に伝わる英雄たちの物語を集めた本だ。
少年が本を読み終わるのを待っていたのであろう、少年のすぐそばにいた少女が話しかける。「ようやく読み終わりましたか?」少女は白い肌、白い長い髪、青い目、少し幼さの残るような顔立ちと目を引くような美しい容姿をしていたが、ずいぶんと待たされたからであろう少し不機嫌そうな表情をしていた。
そんな彼女の様子に気付いたのか、少年は申し訳なさそうに謝罪した。
「ごめんね、昔持っていた本でさ、久しぶりに読みたくなっちゃって」
「まあいいですよ、どうせ今日は大した予定もなかったでしょう」
とても「いいですよ」といった態度には見えない彼女の態度に苦笑いしつつ、そろそろ行こうかと席を立つ。
「その本、買うんですか?」
少年の手には先程まで読んでいた本が握られていた。
「うん、宿で続きを読もうかな」
少女がジッと少年を見る。
「またそんな...」
「子供だましって言いたいのかい?もちろんこの本の中の多くの物語は作り話や教訓めいた童話だけど、いくつかの話は実話が含まれている、さっきまで僕が読んでた賢者の話もその一つだよ」
少年は得意げに本をぺちぺちと叩く。
「はい、何度も聞きました、ドクトルが守り続けたその町へ行きたいとか行ってここまで来たんじゃないですか」
「そう!それがこの町、スルーシェだよ!」
少年は爛々と目を輝かせ早口で話していた、それに慣れているようで少女は軽くあしらう。
「それはいいんですけど、これ以上荷物を増やす気ですか?」
◆ ◆ ◆
少年は会計を済ませて店を出る、外には深くフードを被った少女が待っていた、よく見えないが顔には呆れが浮かんでいるように見える。
「おまたせ!宿に帰ろうか!」
「はい」
本屋のあった裏路地から出た表通りには多くの人で賑わっており、その町の活気が見て取れた。「昔襲われていた町とは思えないくらい栄えてる、賢者様たちのおかげでしょうか?」
「そうかもね、有名なお話の残る町だし入ったときに見た警備も頑丈そうだった、ドクトル達が来てから町中に魔物が入ってきたこともないらしいよ」
「道理でみんな楽しそうなんですね」
待ちゆく人はみな幸せそうに笑っており、どれだけこの町が平和であるかを物語っていた。
少年はうらやましそうに町並みを眺める彼女を見つめていた。
「明日は偉い人と話に行かなきゃだからね、面倒くさいけど」
そうして少年ダシウスと少女レイコスの物語かつて賢者がいた町から始まった。
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