望夏

青ゐ秕

プロローグ

ずいぶんと冷え込んできた。

ここに越してきて最初の冬がやって来ようとしていた。

君と過ごした春は水面に映って揺らいでいる景色のようだ。


私は水底でもがいている。


どこへも行けないと、無意識に自分自身を縛っているのだ。

きっかけはなんだったのか、そもそもそんな物があったのかも分からなくなってしまった。

少しずつ日常を当たり前に続けることが困難になってきた。


暖かくて優しい春に私たちは二人で暮らし始めた。

そしてあっという間に夏がやって来て、そこからが私たちの生活だった。

夏の日差しや蝉の鳴き声が私たちを囃し立てるようだった。


どうしようもない心の内を君に全部ぶつけて救われた夏。


私はまだ、あの夏を望んでいるのかもしれない。

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