ぐらにゅー島

ハト

僕は夏期講習の帰り道、駅前を歩いていた。

今日の夕飯に思いを馳せながら。太陽が燦々と輝いていた。


…とても暑い。暑い、熱い。地球温暖化を感じてしまう。


ふと、横を見ると。ハトが日陰で涼んでいた。

いいなあ、お前たちは平和そうでさ。僕もそっちで涼みたいよ。


そういえば、僕がハトを見ると思い出すことがある。

あれは、3年前のことだったか?初めての彼女とのデートのことだったか。





夏休み、彼女と一緒に動物園に行った。

今考えたら、子供っぽいと言わざるを得ないが…。

中学生だった僕にとって、電車に乗って出かけることは僕を大人になった気分にさせた。


そんな時、動物園の最寄駅にハトがいた。

数えきれないほどの、たくさんのハトが日陰で休んでいた。


彼女は、目を輝かせて僕にこう言った。

「ねえ、ちょっと子供っぽいことしてもいいかな?」

そんな顔をされて、嫌だと言えるわけもなく。大人になったつもりの僕はいいよ、と彼女に言った。


タッタッとサンダルの音をさせて、彼女はハトの大群に突っ込んでいった。

ハトは、びっくりしたのだろう。一斉に散らばって行ってしまった。


「ハトがいると、悪戯したくなっちゃって…。」

彼女は僕の方を振り向くと、恥ずかしそうにはにかんだ。


今考えると、この平和な日常が僕は好きだったのだろう。だから、彼女がハトを蹴散らした時、この平和も壊されてしまったのかもしれない。


彼女とは、そのあとすぐに別れてしまった。



それから暫く経った時のことだったか。

僕がスマートフォンを見ていたら、こんなニュースを見かけた。


ペリカンは、なんでも食べてしまうらしい。

魚はもちろん、犬や、人間も口に入れてしまうようだ。それは、ハトも例外では無かった。


恐ろしいな、と思った。

なんでも飲み込んでしまうんだ。今までの僕の常識も飲み込まれてしまうようで怖かった。


だから、親友にもこの話をした。

ペリカンって、ハト食べるらしいな。と。

そうすると、彼はこう言った。


「確かに、ハトって美味しそうな見た目してるよなー。」


彼は、すごくにこやかな顔でそう言った。

彼が、知らない人に見えた。


怖くなってしまって、お父さんにこの話をした。

お父さんは、笑って「そんなわけないだろう」と言ってくれた。


「流石に、都会のハトは美味しくないよ。田舎のハトならまだしもさ。」


笑い話を聞くかのように、さりげなくそう言われた。

僕がおかしいのだろうか。ハトって食べるものなのだろうか。

なんだか、世界が変わって見えた。





こう思い返して見ると、僕にはハトに関するエピソードが多くある気がする。

それは、僕が日本に住んでいるからなのだろうか。ハトを身近でよく見かけるからなのだろうか。


横からハトが一羽、僕の方に飛んできた。

ハトが飛んできたとしても、僕が避けずともハトの方から避けてくれる。

僕は、無視して通り過ぎようとした。


ハトは、方向を変えなかった。つまり、僕に向かって飛んできたのだ。


ハトが、僕の顔面にタックル決めてきた。

顔に直撃だった。横殴りの衝撃が僕を襲った。


その後、ハトは何事もなかったように飛び去って行った。

僕の横を、知らない女性が通り過ぎて行った。まるで、今何も無かったかのように。


ハトも、暑さにやられてしまったのだろうか。

もしかしたら、僕もそうかもしれないな。


ぶつかられた痛みよりも先に、こう思った。


『あ、ハトって肉の塊なんだ。』


ハトなんて、平和の象徴だと崇められているが…。

そんなのただの偶像に過ぎないのではないかと思った。


ジンジンとする、頬の痛みをさすりながら僕は帰路に着いた。


今日の夕飯は、唐揚げがいいな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぐらにゅー島 @guranyu-to-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ