62番目の偽勇者 〜全ては最後に『俺』が勝つために〜

五十嵐 天秤

偽物の末路

62番目の犠牲者

 祈った。ただひたすらに祈った。


国民の誰しもが祈っただろう。本当にいるのかどうかすらもわからない女神とやらに。


──でも、届かなかった。


 ここ『ソニア王国』には国民ならば皆知っているであろう神話がある。

それには古いソニア語で、

『女神の加護受けし勇者が邪神の子討ち滅ぼし、世界に平和をもたらすだろう』と書かれている。


 そして約一年前に、自らを邪神の子と名乗る魔族が現れた。そいつは一気に魔王の位まで上り詰めたかと思えば、今度は急にソニア王国に宣戦布告をしてきた。


 ここまでの展開は全て神話の通りになっている。ならば、これから勇者が現れてこの戦争を終わらせてくれる。

そう……信じていた。


結果から話すと、勇者と名乗る者は現れなかった。

戦争は人間側の防戦一方。

それもそうだろう。人間側は魔族1人と戦うのに大人の男が3〜5人が束にならないと勝機すらないらしい。幸い、ソニア王国は人口がとてつもなく多い国なので、一方的に敗北することはないが、このままではいずれ負ける。


 だから神話に登場する勇者が現れてくれることを祈るしかなかった。

他でもない、人間を見放した女神に。


 そんな中だった。王が直々に勇者が現れたと公表した。

王国は歓喜の嵐だった。誰しもが希望を取り戻した。『これでやっと戦争が終わる』皆、そう信じて止まなかった。


 それから1週間くらい経った後のことだろうか。『勇者が戦死した』と国王が公表した。


国民は皆、活気を失っていた。

せっかく希望が見えたのに、その希望が潰えたのだから無理もない。


しかし、翌日に国王が『2番目の勇者が現れた』と公表した。

これには本当に驚かされた。『勇者って2人もいるものなのか?』と疑問に思った。


そしてまた1週間ほど経った頃、2番目の勇者が死んで3番目の勇者が、その死後には4番目の勇者が現れた。


 最初は『国民を安心させるための偽装工作なのでは?』とも思ったが、女神が人間を救うためにやっていることだと、無理やり納得した。


 そして、つい先ほど61番目の勇者が死んだらしい。


──次は、俺の番だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る