短編73話 数あるずーっとずぅーっとおしゃべり
帝王Tsuyamasama
短編73話 数あるずーっとずぅーっとおしゃべり
「ね雪」
「なんだよ」
「昨日部活終わった後、体育館裏で女の子と一緒にいたじゃん。何してたの?」
「クワガタが体育館の中に入ってきてたから、マネージャーと一緒に逃がしてた」
「
「クワガタあんな長いこと見てたのは久しぶりだったから、楽しかったかもな」
「女の子も楽しそうにしててよかったね」
「ああ。おとなしい系
「へー。おとなしい子が好みなんだ」
「うるさいマネージャーもおもしろそうだけどな」
「どうせあたしはうるさいですよーだ」
「
「どうせあたしは似合わないですよーだ」
「前線で暴れ倒してこその凪だよな」
「どうせ暴れることしか脳ありませんよーだ」
「暴れるマネージャーってのもおもしろそうだな」
「前代未聞の
「そういやおととい、ハンドボールコート横で、凪は男子と一緒にいたな」
「後輩だよ」
「いい後輩か?」
「いい後輩だよ」
「1~5で言うと?」
「3.14?」
「1592?」
「65までしか覚えてないよ」
「35」
「覚えてないってば」
「何の話をしていたんだ?」
「部活のことだよ」
「部活以外の話をしたことは?」
「しょうゆラーメン派だって。雪は何派?」
「つけ麺」
「もうちょっと素直に生きようよ」
「最近駅前につけ麺屋できたの、知らねーのか?」
「知ってる」
「今度行こうぜ」
「うん」
「凪は部活だと、部活トーク以外はラーメントークしかしてないのか?」
「そんなわけないでしょ」
「例えば」
「いろいろ」
「例えば」
「アイスクリームとか、祭とか、カレーとか」
「なんという食べ物オンパレード」
「祭は食べ物じゃないよ」
「祭の屋台で何食べるよ」
「わたがし」
「口入れた瞬間一瞬で縮むよな」
「おいしいね」
「他は?」
「りんごあめ」
「気が合うな」
「雪は焼きそばとか、フライドポテトとかじゃないの?」
「オレンジ色紙カップの百円ポテトコスパ最強」
「懐かしいね」
「あのおっちゃん、今どこで何してんだろうな」
「きっと新しいとこで、百円ポテト広めてるんだよ」
「
「うちの学校にも、取材来るのかな」
「沢香凪さん、後輩男子との関係が取り沙汰されていますが、一言お願いします」
「なんでスキャンダル調?」
「一言お願いします」
「有望な後輩ですので、将来が楽しみですね」
「二人っきりだったとの報道もありますが、私的な関係があったということでしょうか」
「すでに一言言ったんですけど」
「こちらにも一言お願いしまぁす」
「あ、声変えて別の記者っていう設定なのね」
「お願いしまぁす凪さん」
「休みの日に遊んだりとか、一緒に帰ったりとか、全然この子とそういうのしたことないです」
「噂によれば、二人はすでに付き合っているという話も聞かれますが?」
「それ本当?」
「
「あ、世界観壊してごめん。先ほどのとおり、この子は全然そういう子じゃないです。もういいですか? 練習がありますので」
「後輩さんは資産家の息子という情報もあり、資産を狙っての接触だという報道も出ています、凪さん、凪さーん! ちっ、逃げられたか」
「そんな番組に、どのタイミングでポテトおじさん出てくるの?」
「水曜日のゲストコメンテーターは、お馴染みこの人、ポテトおじさんでーす」
「取材どころかほぼレギュラーじゃん」
「世界情勢をポテトの観点から分析。独自の理論で著書多数」
「ねじり鉢巻きのおっちゃんから、すごいイメチェン」
「先週だっけ。昼休み、ランチルーム前で男子二人に囲まれてたな」
「遠くにカメラ役の女の子もいたけどね」
「その男子二人とのご関係は」
「同じ学校の学生です」
「やはり資産家の息子を狙っているのでしょうか」
「新聞部から申し込まれた取材を利用して、資産家の息子を狙うなんて、結構トリッキーだね」
「取材なら、部活してるとこを取材するもんじゃ?」
「お昼休みくらい休ませてよ」
「部活の時間にさ」
「その特集の続きで、部員にインタビューしてるんだって」
「ランチルーム前で?」
「いろんな背景での写真をお願いします、ってさ」
「次の校内新聞も読むわ」
「『も』って」
「もちろん前回の凪特集も読んだ」
「あたしが読んだときは部活の特集だったのに、いつの間に凪特集に差し替えられていたんだろう。」
「背が高くてスタイルがいい我が校の新星登場! 的な」
「……なに言ってんの?」
「すまん。今のは下手すぎた。忘れてくれ」
「世の中には、取り返しのつかないこともあるのだよ」
「大らかな心こそが、平和を生み出すのだよ」
「どうせ暴れ回ってるだけですよーだ」
「我が校の暴れ姫! 驚異の快進撃!」
「……テレビのテロップでそれ出たら、覚悟しておいてね」
「
「お姫様は似合ってないってことかな」
「そこじゃねぇ」
「快進撃もなさそうって?」
「そこでもねぇ」
「まさかあたし、この学校の学生じゃなかったとか」
「一体どこの組織から送られてきたスパイなんだ」
「この学校、スパイされるくらい重要な秘密とかあるの?」
「国家を揺るがす最高機密が」
「今のところ、平和な学生生活だね」
「もしかしたら、異世界から召喚された伝説の戦士だったりとか」
「それってどっちかっていうと、あたしたちの世界から行くやつじゃないの?」
「天界から降ってきたり、何百年前からタイムスリップしてきたり、ってこともあるじゃないか」
「ますますあたしだれなの?」
「世界を救うヒロイン」
「結局暴れてるのねあたし」
「まさかの暴れ姫説再燃?」
「あたしになにかうらみがあるなら、正直に言いなさい。お姉さん怒らないから」
「それで怒らなかったケースを知りたい。あとうらみはないですすまん」
「ついでに女の子と座ってた件についても、正直に話しなさい。怒らないから」
「怒る意味がよくわからないが、すでに事実は報告済みである」
「他にその子のことで隠していることがあれば、包み隠さず話しなさい」
「声優目指してて、片道二時間かけて、養成所? っていうところに通ってるらしい」
「え、すごっ、
「
「身近にそういう子って、いるんだねぇ……」
「凪は興味あるのか?」
「声優?」
「片道二時間の方じゃなくて声優の方」
「そう思って声優? って聞いたんだけど?」
「ご興味ありますか凪さん」
「また出た記者」
「小港新聞の者です。凪さん声優に挑戦されますか?」
「しません。別にかわいい声してないでしょ」
「またまたご
「使い方あってんの?」
「凪さんの美声に、世界中が注目していると思われますが」
「世界に先駆けて、うちの部を取材してきた新聞部すごいね」
「その美声、世界に届けてみませんか?」
「美声じゃないので、遠慮しておきます」
「うちの社では、凪さんの冴え渡る美声の話題で持ちきりですよ」
「……ひょっとして。暴れ姫発言のマイナスポイントを、埋め合わせる作戦?」
「ぎくり」
「はぁ」
「習い事の経験は?」
「幼稚園のときにスイミング」
「ああ、聞いたことあったなぁ。今でもプール行ってんの?」
「記者消えた。中学校に入ってからは、行ってないなぁ」
「なぜ」
「だれからも誘われなかったから?」
「じゃあ今度行こうぜ」
「雪と?」
「俺がだれかに乗っ取られて、声を無意識に発していない限りは」
「……うん、じゃあ今度行こっか」
「大会終わったら行くか」
「そうだね」
「凪さんプールに後輩と行く噂があるようですが、一言お願いしまぁす」
「記者さん忙しいね」
「雪大新聞の者でぇす」
「ライバル社。後輩の子からは、今のところ誘われていないです」
「では誘われたら行くと?」
「う~ん、行かないと思います」
「なぜですか?」
「そんなに仲良くないから?」
「では今後仲良くなったら、行く可能性はあると?」
「仲良くなったらね」
「行く可能性があると?」
「仲良くなったらね」
「……あると?」
「もう
「つまり小港さんとは仲がいいと?」
「そうだと思います」
「だと思います?」
「はいはい仲良しですよ」
「なんでそんな投げやりなんですか?」
「お互い仲がいいことくらい、よくよく知っているからですよ」
「ひょっとしたら、凪さんが一方的にそう思っている、ということは?」
「そうだったら悲しいね」
「きっと大丈夫ですよ凪さん」
「雪大新聞の記者さん、何知ってて何知らないの?」
「夏休みは、他どっか行く予定あんの?」
「ないかなぁ」
「インドア派?」
「今決まってないだけで、友達から誘われたら行くっていうことが、多いかなー」
「へー」
「雪は?」
「家族と海。父さんの実家。母さんの実家。凪とプール。凪とつけ麺」
「そういえば、実家に帰った~っていう話、聞いたことあったね。親戚とも会ってるんでしょ?」
「ああ。いとこと麻雀したりバックギャモンしたり、外に遊びに行ったり海行ったり」
「いとこって、同じくらいの歳の子もいるの?」
「だいたい歳近めだけど、
「女の子?」
「二人とも」
「麻雀もバックギャモンも、その子たちとしてるの?」
「一応できっけど、他の親戚女子たちと一緒にいることが多いんじゃないか? 海には一緒に行くが」
「ふーん」
「凪は海行けるのか?」
「幼稚園のとき、何してたって言った?」
「くらげが怖いとか海水だめとか、あるかもしれないじゃないか」
「雪そういうとこ優しいよね」
「はぁ?」
「海も行けるよ」
「じゃあ海も行くか」
「プール行くのに?」
「トライアスロン選手とか、プールでも海でも練習してそうじゃないか?」
「トライアスロン出たいの?」
「無理。凪は?」
「無理」
「俺、海は家族や親戚と行ってるけど、家族がいない海って、行ったことねぇんだよな」
「おないの女の子とは、何度も行ってるのに?」
「家族も親戚もいない海に、訂正しておいてやろう」
「あたしは親戚の子と遊ぶ機会なんて、結婚式とかの一同に集まるようなときくらいだよ」
「父さん母さん、どっちも実家遠いんだっけ」
「うん」
「だからいとこ女子情報集めてんのか」
「気になっただけだよ。二人はかわいい子?」
「一人は美術部、もう一人がパティシエ部」
「かわいすぎかっ。パティシエ部てなにっ」
「パティシエの、部?」
「でしょうね」
「地域の子供とスイーツ体験、っていうのを企画したこともあった、っつってたな」
「エピソードまでかわいさの
「まぁ、おないだし、親戚では最も遊んでるな」
「どんな服着てるの?」
「どんなって?」
「やっぱり白のワンピースとか、花柄のスカートとか?」
「……さあ?」
「さあってなによ」
「年一か二くらいしか会わねぇから、服まで覚えてねぇよ」
「ひとつくらい、覚えてる服ないの?」
「……赤い制服? 真っ赤なやつじゃなくて、もっと暗いやつ。女子もネクタイするってさ」
「制服までかわいいとかもうなんなん?」
「
「かわいい子から色の名前を教えてもらう男子」
「凪からも、ボールを遠くへ投げるコツ教わったな」
「パティシエ部の女の子と色トーク、に並べないで」
「ジャンプして着地するときのコツも」
「絞り袋から生クリームうまく出すコツと比べられても」
「細かく習ってないが、一緒にケーキ作ったことはあったな」
「凪料理できるんか~からのあたしだって女の子だよ、の返しを用意してたのに、さらに上被さってこられてなすすべなし」
「凪も、俺と一緒にケーキ作りたいのか?」
「かわいいパティシエ部の女の子の話を聞いた後に、それ?」
「ケーキ作りの話になったから、凪とも一緒に作ってみんのも、おもしろそうだと思ったんだが?」
「あー、ん~、雪の気持ちもわかるのと、乙女心的にどうなの、っていうのが絶妙なバランス」
「凪ちゃん的にどうなんだよ」
「凪ちゃん的に、今度一緒に作ろっか」
「じゃ夏休みの予定追加な」
「うん」
「海は?」
「……まあ、いいけど」
「これも追加な」
「ねぇ雪」
「なんだ?」
「急にどうしたの? 去年まで、こんなに誘ってくれなかったじゃん」
「部活気合入れてるみたいだったから、遠慮した……みたいな?」
「雪そういうとこも優しいけど、その優しさは、誘ってきてあたしがその日用事あって無理、って断った後で発揮してよ」
「先日は失礼をいたしました。つまらない物ですがこちらのお菓子をどうぞ、的な?」
「つまらない物をあげることこそマナー違反だから、わざわざ言わなくていいって、テレビでやってたよ」
「あの日の誘いを断られたこと? ああ全然気にしてないよ、うん全然まったく
「それは気にしてる人が言うセリフ」
「気にするな。お前にも都合というものがあるだろう」
「結構こういうときの
「去年あんまり誘わなくって、今年誘いまくったら、急にどうしたって言われるんなら、来年も連続して誘ったら、もう急にどうしたじゃなくなるよな?」
「奥義『急に二年連続でどうした』」
「沢香流強すぎ」
「柔よく剛を制す」
「大は小を兼ねる」
「桂馬の高飛び歩の
「三桂あって詰んだ試しなし」
「なけなしの将棋ネタを出したのに、それすらも返してくる雪って、何者?」
「ひょっとしたら、異世界からこの世界を救うために」
「現代世界と異世界の交流はよくあるけど、異世界と別の異世界の人がこの世界で交流って、なんだか複雑」
「凪は世界救うなら、
「はいぃ? あたしあんまり詳しくないけど、パティシエ部になったらモテそう?」
「なんだ、武闘家じゃないのか」
「異世界からやってきた武闘家なんだが、パティシエ部に入ってみたら、意外とうまくいった件?」
「凪スポーツだけじゃなくて、アニメの原作者にもなれるのか?」
「知らないわよ。雪は漫才師にでもなれるんじゃない?」
「はいどーもー、雪大と~」
「…………と?」
「雪大と~ちらっちらっ」
「はぁっ。凪と~」
「そこでと~だったら、三人以上いることになるんだが」
「凪で~」
「二人合わせて~」
「合わせて? ゆきなぎでーす」
「ぱちぱちぱち~」
「ちゃん、ちゃんちゃんちゃんっ」
「凪さーん」
「はい。え、これ続けるの?」
「僕最近ウェイトレスにはまってましてー」
「それを言うならウェイターやろ~」
「いやまだ、見ることなのかやることなのか、言ってないぞ」
「ええ……? んじゃ、変態か~。これでいい?」
「まあいいだろう。それと僕、スチュワーデスもやってみたいって思っててー」
「それを言うならキャビンクルーやろ~」
「え、CAの略って、キャビンアテンダントじゃなかったっけ?」
「外国じゃ通じないって習ったでしょ」
「そだっけ」
「もうええわ」
「ありがとうございましたー」
「ちゃん、ちゃんちゃんちゃん」
「凪、やっぱ才能あるんじゃないか?」
「これは才能って言うんじゃなくて、単に雪と一緒にいる時間が長いだけだよ」
「一緒にいる時間が長ければ、ネタを書ける……やっぱ才能じゃないか?」
「半分正解。雪だから合わせてるだけよ」
「一緒にいる時間が長ければ、相手に合わせることができる……やっぱこれも」
「はいはいお褒めいただきありがとうございますー」
「俺は凪に合わせられているか?」
「あんまりあたしに合わせてくれてはなさそうだけど、でも勝手に暴走してるわけでもないよね」
「その理由を二十五字以上三十字以内で、文章中から書き抜きなさい」
「あの『
「覚え方は、句点は『。』。句点って漢字は、真ん中に『。』っぽいのがあるだろ」
「習った習った。雪結構記憶力いいよね」
「残念なことに、ちょっとした豆知識くらいなら覚えられても、社会の暗記問題は苦手という」
「いい塾に通ったら、能力開花しそう」
「少なくとも、今年は凪と遊ぶぞ」
「うん、まあ、ね」
「凪は塾とか行ってないのか?」
「行ってないねー…………あ、うそ。
「クラスに一人は、やたらそろばん速いやついるよな」
「わけわかんないスピードで、玉弾いてるよね」
「せっせっせーのよいよいよいも、意味不明なスピードでやる女子いるよな」
「いるいる」
「凪のスピードは?」
「せっせっせーのよいよいよい」
「俺できな」
「アーループースーいちまんじゃーくーこーやーりーのー」
「もはや相撲のつっぱり」
「お相撲さんが、土俵の上でアルプス一万尺……見てみたい」
「極めたら、めちゃくちゃ速いやつが見れそう」
「強すぎて、相手吹き飛んじゃわない?」
「そこは
「小さいときは、『
「長さじゃなくて強さで、『アルプス一番弱』だと思ってた時期が、ありました」
「小学校のときって、謎のブームがあるよねー」
「男子なのに、あやとりブームとか」
「あ~たまに廊下にあやとりのひもが落ちてたよねー。あれ男子の仕業?」
「男子なのに、おてだまブームとか」
「おてだまも、たま~にみっつよっつできる子がいたよねー」
「けーどろブームが大規模だったか」
「クラスの男の子の半分以上が、休み時間になるたびにやってたよね」
「なんで『警察と泥棒』なのに、いろはにほへとちり『盗人』るをわかよ『探偵』なのか論争」
「なかったことにされた、よから向こうのみんながかわいそう」
「その続きで、三人目があるやつって、なかったっけ?」
「さあ~。あたし別にやったことないもん」
「いーちーにーのー?」
「さんまのしっぽー」
「ごーりーらーのー?」
「むーすーこ」
「なっぱーはっぱー?」
「くさった」
「とうふ」
「豆腐は白い。白いは」
「ちょ、それエクストラステージとかあんのかよ」
「あたしのいとこは、これ言ってた。さんまのしっぽじゃなくて、さんまのしいたけだったけど」
「冬虫夏草ならぬ
「おいしくなさそう」
「凪さん、いとこくんとはどういったご関係ですか。一言お願いします」
「久しぶりに登場の小港新聞社さん。良好なご関係です」
「先ほど親戚は遠いというお話が出ていましたが、いわゆる遠距離恋愛ということでしょうか」
「違いますね」
「報道各社からは、熱愛発覚という話が各所から出ていますが、その点について一言お願いしまぁす」
「あなたたちの情報収集のへたさを、もう一度社内会議するべきだと思います。もういいですか? 練習あるんで」
「次々に熱愛発覚の凪さんですが、これはつまり不倫関係にあるということでしょうか凪さん凪さーん! ちっ、逃げ足の速いやつめ」
「異世界から来て遠距離恋愛の不倫とか、一体この地球に何のうらみがあるのよ」
「そいつはどんないとこよ」
「陸上部だったかな。歳はひとつ下」
「いいやつなのか?」
「いい子だよ」
「そいつの特技は?」
「走ることじゃない?」
「部活関係以外では」
「う~ん……折り紙折るの、丁寧だったかな」
「手先は器用だと?」
「そうだと思う」
「趣味などは」
「趣味っていうほどでもなさそうだったけど、ハーバリウムきれいだったよ」
「歯バリウム?」
「バリウムは、うがいじゃなくて飲むんじゃない?」
「そのハイパーバウムクーヘンって、なんだ?」
「それ太そう。ピンセット使って、ビンの内側からシール貼ったり、きれいな砂入れたりするやつ」
「飲み終わったら、マンガが浮き出てくる牛乳みたいな?」
「
「惜しいな」
「2の方だし」
「ふむ」
「うん」
「
「うーん。四本だった気がする」
「俺十一本」
「すご」
「フッ」
「最近のアニメって、1
「俺どっちかっていうと、アニメっ子よりかはゲームっ子寄りだから、隅から隅までチェックしてるわけじゃないが、最近は出現してないな」
「あれ飲んでる途中に落としちゃわないか、心配にならない?」
「見てて?」
「ううん、自分で飲んでて」
「やったことねぇよ」
「牛乳十一本飲んだことあるのに?」
「あれはたまたま休みのやつが多かったかなんかか知らんけど、余ってたやつがあったから、飲んでたんだよ」
「ミルメークの日だったら、あたしももっと飲めるかも」
「ヨークの日も可」
「ミルメークだったら、どれ好き?」
「コーヒーに一票。凪は?」
「いちご」
「メロンも捨てがたい。あぁココアも」
「バナナもおいしいけど、いちごが上かなぁ」
「てか学校以外で、曲げたらプチッって出てくるツインドレッシングのあれ、見たことないよな」
「ジャムとマーガリンのなら、ホテルの朝ごはんで見たことあるよ」
「野良ツインプチッドレッシングがいたのか。てかホテル?」
「うん。昔はたま~に、家族で旅行行ってたから」
「へー」
「へーて、おみやげあげたことあるじゃん」
「ああ、キーホルダーみたいな砂時計とか、キーホルダーみたいな懐中電灯とか。今もある」
「さすが優しい雪」
「どういたまして」
「それを言うならどういたしまして」
「確かに最近はないな」
「それだけ旅行行ってないってこと」
「凪は俺と旅行したいか?」
「旅行~? 考えたこともなかったよ」
「じゃそれも予定追加か?」
「あんまり遠くないとこだったら、いいよ」
「じゃそれも」
「あたしは別に、雪と遊ぶのはいいけど、雪予定詰めすぎじゃない?」
「……俺さ。ひとつ決めたことがあるんだよ」
「なに?」
「最近、凪とだれか男子がしゃべってると、だれかと付き合っちまうんじゃって、思ってさ」
「なっ、なに急に?」
「なんかそれ見てたら、そのうち凪としゃべれなくなるんじゃって、思ってさ」
「ないない。雪としゃべらなくなる日なんて」
「…………以上です」
「続きあるの? 聴かせてよ」
「いや、別に……?」
「沢香新聞社です。雪大さん、自分だけ逃げるとか、
「凪めっちゃ練習で逃げてたし」
「雪大さんの気持ち、聴かせてください。一言でいいんで」
「一言、なぁ……」
「お願いします」
「……一言だけ?」
「ぜひ一言」
「…………えー、こほん」
「それは一言に含まれますか?」
「ただのせき払いです」
「では一言、お願いします」
「…………好きです、付き合ってください」
「…………え、えっ……?」
「大サービスで二言になってしまいましたね。じゃあ僕練習があるんで」
「ひどっ」
「まさか凪、後輩と付き合ってるとか?」
「ううん、ない」
「ならば新聞部のどっちかと?」
「それもない」
「じゃあ……イケメン陸上部いとこと?」
「…………ん?」
「んっ?」
「いや、だれ?」
「イケメン器用なハイパーレールガンいとこ」
「………………女の子なんだけど? 顔は丸めで、イケメンよりかはかわいい系だし」
「あ…………ふぅーん」
「……ぷふっ。なんであたしなの? 雪こそ、かわいいマネージャーの女の子とか、かわいいいとこのパティシエ女の子とかがいるのに」
「マネージャーはマネージャーだろ。いとこはいとこだろ。てかそのいとこが、女子目線でかわいいだったとしても、俺目線からしたら、凪超かわいい、だし」
「ちょ、ちょっとおっ。散々暴れ姫とか言ってたくせに?」
「だから
「そっ、そんなに……その…………あたしのこと、考えてたの?」
「そりゃ考えるだろ。俺人生
「……お父さんお母さん抜いてるの?」
「しっ、知らねえよ。抜いてるんじゃねぇの?」
「そっかぁ……」
「で。返事くれよ。俺告白したんだぞ」
「あ、ああうん。えとっ、えへっ、あたしそんなこと言われたの初めてだし、しかも雪が言ってくれたなんて、なんか信じられないっていうか」
「裁判長。証拠品としてカセットテープを提出します。ぽちっ。凪、好きだ。付き合ってください」
「にっ、二回言わなくていいってばぁっ。ちょっと変わってる気もするし」
「判決は」
「は、判決ぅ? え、ええっと…………雪は、あたしと……な、凪ちゃんと、お付き合いの刑に……処す……?」
「控訴します」
「え?」
「凪さんは僕と付き合うのは、義務だと言うのですかっ」
「……あのさ雪?」
「なんだ?」
「ノリ作ったの雪だと思うし、それに合わせてあげたの、こっちな気がするんだけど」
「………………凪。つ、付き合ってください」
「あはっ。よかった、うれしい。あたしとお付き合いしてください。よろしくお願いします」
「あ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
「…………ほんとにあたしでいいの?」
「だっ、だから凪がいいから告白したんだろーがっ」
「あ、あははっ、だってあたしだよ? こんなちゃらんぽらんな子で、ほんとにいいのかなあって」
「しっちゃかめっちゃか?」
「しどろもどろ?」
「満漢全席?」
「……っていうあたしだよ?」
「っつー凪だからだろ。せっかく夏休み遊べると思ったのに、振られたらやべぇとも思ったけどな」
「自分で、雪からの告白を振っちゃうところなんて、想像できないよ」
「……ま、まぁ俺も。凪が俺を振るとこなんて、あんま想像できなかった……し?」
「ふふっ、そうなんだっ」
「素直に生きれと言われたし?」
「……あたしもスイーツ作り、勉強しようかなぁ」
「今度ケーキ、一緒に作るんじゃなかったのか」
「あ、そだったねっ」
短編73話 数あるずーっとずぅーっとおしゃべり 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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