[完結]その悪役令嬢、近場の孤児院にいた成り上がり系主人公を誘拐する。からのフラグ回避!
西園寺若葉
第1話 転生ですわ
-side エリーゼ-
——目の前には断頭台
「んー、んーん、んーーーんん〜!(わたくし、フラグ回避に失敗しまいましたわ〜!)」
広場の台の上にいる18歳の高貴な女性は口を封じられ、ロープで体を縛られ、男の兵士の2人に体を押さえつけられている。
周りを見渡すと、沢山の人が心配そうに見つめている。——そう、公開処刑である。
「はじめよ。」
「はっ!」
偉い人の合図とそれに答える兵士。
——ドン!という音と共に、刃物が振り落とされる。
——ガキィィィン!バキッ!
しかし……、彼らが想定していた事態にはならなかった。
「ん?んんんん?んんんん!!(へっ!?私の首が固すぎて、あらまあ。刃物の方が壊れてしまいましたわ!——オラァァァァ!)」
——ブチブチ!ドンドン!
「うわあああ!」
一見か弱そうな見た目のその女性は、縛られていたロープを引きちぎり、巨体の兵士たちを薙ぎ倒す。
パンパンッと手を払いながら、口が自由になった彼女は何事もなく独り言を呟いた。
「そういえば、わたくし……この世界で最強でしたわ!忘れていましたわ。これくらい、朝飯前ですわ〜!」
「うおおおーー!教祖様ーー!」「か弱くないですね〜!」「よっ!流石!強すぎるぞ〜!」「ヒューヒュー!」
「しっ、失礼ですわね。皆様方!わたくし!か弱い美少女ですわ〜。」
「嘘つきは泥棒の始まりです。お嬢様。それはそれとして、早く行きましょう。」
「アーサー!う、嘘じゃないですわ。
ですが……、助けに来てくれて、ありがとうございますわ。」
「いえいえ。お嬢様のためでしたら、たとえ、火の中、水の中……当然の事でございます。」
「そう言っている割には、観客に混じって見学していましたわよね!バレてますわよ!
助けるのバリ遅いですわ〜。」
「すみません。つい面白……興味深いものが見れそうだと思いまして。」
「今、面白いって言おうとした!人が死にそうになっているの見て、面白いって。貴方、なかなかのサイコパスですわよね!」
「まあまあ……。貴方が死ぬことなどあり得ないという絶対な信頼がこちらにはありましたので……。これくらいは許して下さい。」
「えっ!?ああ——なるほど。あの子がまた信託を受け取ったのね。」
「流石お嬢様。察しがよろしいですね。その通りでございます。」
「全くもう。勇者も、聖女も、失礼しちゃいますわ!」
「お嬢様。」
「ん……?」
「よく頑張りました。」
そう言い、金髪青眼の執事は主人を撫でた。
「なっ……うっ。ご、ごまかすのやめなさい!《勇者》》!」
「あ、バレましたか。それはそれとして、さっさと行きますよ。それと、私はただのしがない執事です。お嬢様。」
「だから、扱い。雑!雑ですわ〜。
後その身のこなし!この執事!只者ではないですわ〜。」
ハイテンションに、そう言い合いしながらも、ピョーンと会場の柵を越え、優雅に2人は会場を去っていった。
その後、会場には、彼女を処刑しようとした王族が来て、大騒ぎになる。
——これは、そんな世間を騒がせる彼女達の物語である。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「ああああ、あーあーああああああー(わたくし!乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまいましたわ〜!)」
この令嬢、エリーゼが転生したのは、ヨーロッパと日本が混じったような世界観のゲーム「ツイデモ⭐︎ワンダーランド」という学園乙女ゲームの世界である。
乙女ゲームと言いつつ、幅広いニーズを受け入れるため、男性と女性の両方のプレーヤーを選べるのが特徴だ。
男主人公の場合、勇者として男性攻略キャラ1人又は全員で魔王を倒すというルート。
女主人公の場合、聖女として男性攻略キャラ1人又は全員で魔王を倒すというルートの2つがある。
戦闘要素はあるが、学園ものなだけあって、ストーリー自体は平和でのほほんとしたのが売りである。
——だが、それは主人公から見た乙女ゲームの話だ。悪役令嬢であるエリーゼに転生してしまった彼女にとっては全然不穏なデスゲームである。
両主人公のルートで出てくる悪役令嬢エリーゼ。
主人公が高校1年生から通い始めるロイヤル学園では、平民で立場の弱いことをいいことに、様々な嫌がらせしまくり、魔王討伐を妨害する役割を持つ。
最終的に、裏で魔王軍と繋がっていた事が判明して、卒業式の断罪イベントで、断頭台で処刑されるというのが、ヒロインがハッピーエンドだった場合のエリーゼの運命だ。
ちなみに、バッドエンドでは、世界は魔族に支配されて、彼女は魔王に裏切られ、魔王の生贄になる。
いずれにしても、待っているのは不遇の死。それが、悪役の運命である。……まあ、それだけ酷いことはしているのだが。
「ともかく、分かったからには死なないようになんらかの行動を起こさないといけませんわね。」
そう思い、5歳の彼女は気絶したのだった……。
—————————————————————————————————————
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます