ストーカー?

 インスタの画面を閉じるやいなや、ピコン♪と気の抜けたメッセージの着信音がした。


「。.゚✧:✿いいね。ありがと✿:✧゚.。

☆.。.:*・°フォローよろしく。.:*・°☆」


 反応はやっ


 怖くなった俺はついメリーさん(仮)のアカウントをフォローしてしまった。


 ピコン♪


「。.゚✧:✿フォローありがと✿:✧゚.。

(❀´꒳`) 。оO(㋵㋺㋛㋗㋧)」


 やはり神速で反応が来る。ここまで来るとただのストーカーではなかろうか。


「いま何してんの?」


「もうごはん食べた?」


「月9観た?」


「今日なにか観たの?」


 矢継ぎ早に質問が届く。

 ぐいぐい来るなぁ……


 仕方がないので一つ一つ返信していたら、どれも一言ずつなのに案外時間がかかってしまった。


「悪いが今夜はもう寝る。続きは明日にしてほしい」


 思い切ってそう返した数秒後。

 しょんぼりした少女のスタンプの後、やはりメッセージが届いた。


「ごめん、ウザかった?」


「正直に言えば少し」


「ぴえんヶ丘どすこい之助だわ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )」


 率直に返すと、謎の言葉が帰って来た。


「ぴえんヶ丘?」


「超悲しいってこと」


 思いのほかダメージを受けているのかもしれない。少しいい方が強すぎただろうか。


「そこまで重く考えなくても」


「でもマジきまZし」


「きまZ?」


「きまずいってこと」


「知らんの?」


「知らない」


「まじウケるー」


 分からない言葉をいちいち訊き直すと、少々呆れられたようだ。


「すまんが流行にはうといんだ。普通の日本語を使ってくれ」


「なにそれ真面目かよ」


「真面目で悪いか」


 揶揄する響きに少しむっとして言い返すと慌てたように返信があった。


「ううん、全然いーよ

やな気分にさせたならごめん」


「いや、大丈夫だ」


 すぐに否定すると安心したように返信があった。


「よかった

メッセ送って本当にフォローしてくれたの君だけだからうれしくて」


「なるほど 」


 それもそうだろう。あんなに怪しいメッセージを見てフォローどころかリンクを踏む人間の方が稀だろう。


「それでちょっとバイブスあがっちゃつて」


「バイブス?」


 また謎言語だ。


「ノリだよノリ」


「そうか」


「ちょっと調子に乗ったかも」


「怒った?」


 こちらの機嫌を伺うようなメッセージを見て少しおかしくなった。


「いや、少し困っただけだ」


「ごめんね」


 手を合わせて頭を下げる少女のスタンプ。


「返事は都合のいい時にしてもろていーから」


「わかった。それなら構わない」


 「ありがと」と書かれた満面の笑みを浮かべて飛び跳ねる少女のスタンプ。

 俺はスタンプなるものはほとんど使ったことがないが、こうやってみるとなかなかに便利かもしれない。


「それじゃまた」


 今度は「おやすみ」と書かれた布団にくるまった少女のスタンプが送られてきた、


「おやすみ」


 俺もデフォルトで入っていたスタンプを押してみる。こうしてみると、LINEでの会話も悪くはない。

 この日は少しだけ良い気分で眠りにつくことができた。

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