準備の準備

そうざ

Ready to Prepare

 結婚七年目、念願の子供を授かった。根気良く不妊治療を続けた甲斐があった。

 夫の喜び様は大変なもので、妊娠が判ったその日にはもうベビー用品を買い漁って来た。おむつは勿論の事、ベビー服、ベビーベッド、ベビーカー、歩行器、ガラガラ、おしゃぶり――と、一週間も経たない内に2LDKの部屋は幼児グッズでいっぱいになってしまった。

「居ても立っても居られなくてさぁ〜。あっ、哺乳壜を忘れた。直ぐ買って来るっ」

 妊娠五ヶ月目、定期検診で赤ちゃんは女の子だと判った。夫は早速、女の子が喜びそうな色合いのランドセルを購入して来た。

「それから、お人形と縫い包みと、パンティーとブラジャーも買わないと。それから成人式用の晴れ着、化粧品も要るだろうな……あ、その前に生理用品が必要かっ」

 出産は予定日より二週間、早かった。娘はパパのせっかちな性格をしっかり受け継いでいるらしい。

 ところが、夫は娘の顔をちらっと見ただけで直ぐに病室を飛び出してしまった。あれだけ我が子の誕生を心待ちにしていた癖に――少し腹立たしく思っていたら、程なく大量の品物と共に戻って来た。 おむつ、ベビー服、ベビーベッド、ベビーカー、歩行器、ガラガラ、おしゃぶり、哺乳瓶――。

「もう全部、買い揃えてるじゃない」

 ぽかんとする私を余所に、夫は満面の笑みで娘に語り掛けた。

「初孫は男の子かな〜、女の子かな〜」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

準備の準備 そうざ @so-za

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ