第91話 北辰、化身


 神楽が行われる前日に伯父さんが大きな猪を奥山から採取してきたので、僕も神楽の神事のために拝謁することになった。


 大きな荒々しい猪の四本の脚は刺すように、虚空を突き刺していた。


 猪の体形の大きさはだいたい、子供用の自転車くらいの大きさで、大の大人が三人がかりで持ち上げない、と持ってこられないほどの仰天するほどの大きさだった。



「こりゃあ、大収穫だな」


 伯父さんは僕が大事な祝子だから、これから、悠久の御代から受け継がれた、神聖な儀式を見てごらん、と述べた。


 僕は世にも珍しい、狩猟を主とする神事の形式である、猪を解体する現場を垣間見ることになった。


 解体した猪の肉片である御贄は、銀鏡川の中州の石製の祠で榊と御幣とともに奉納され、その神事を機に神楽は始まる。


 


 修験道と狩猟信仰が合わさった神事だから、大山津見神の化身であられる、猛々しい猪と北辰を捧げる神楽は密接だった。


 猪を解体する現場を僕は初めて見た。


 当たり前だけれども、大振りの猪を解体するって意外に力がいるのだな、と妙なところで感心する。


 


 伯父さんは猪の血を抜くために下にシートを引いた。


 大きな猪は最初に頭を切るのだという。


 その頭である御贄は銀鏡神楽で天照大神、と示された神籬の前に奉納されるから神聖なのだとか。


 猪の前には榊や御幣がたくさん奉納され、解体現場は伯父さんの家の裏側の車庫なのだけれども、いつもとは様相が違った。


 

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