第12話


 一度下した王命を覆すことは叶わず、次期国王にアシュトンが、そして王妃にティアナがその位に着くことになった。


 アシュトンは女王の命により、少し前から隣国に留学し王位就任のための帝王学を学んでいる。こうなることを見越していたのだろう。準備は着々と進んでいたのだ。

女王はまだまだ若く健在だ。死ぬまで王位は譲らぬと宣言し、それまでに二人が後継になれる人間になることを期待しているようだ。



 今、アシュトンとティアナは共に連れ立ち隣国に留学に来ている。

 すでに王子妃教育は終わっているが、アシュトンたっての願いで同じ時を過ごすことになった。


 ティアナは婚約者であるクリストファーを心から愛していた。

 たとえ愛されなくても、彼の横に並び支え続けたいと願うほどに。

 しかし、王命には逆らえない。あの日、あの部屋に集まった顔ぶれを見て戻れないことを知りつつ、それでもと心の内を言葉にしたのだ。

 

 幼い頃からの想いが儚く消えるには時間がかかるだろう。ひょっとしたら、生涯に渡りその想いは消えないかもしれない。

 それでもと、次期国王からその隣に立つことを願われたのだ。




 隣国との国境が見渡せる広い大地。そこに並び立つふたり。

隣国は広大で、何もかもが発展している。

 次期国王はそれらすべてを吸収し、自らの国の発展に繋げたいと考えていた。

 それにはティアナの優れた語学力と社交術、そして勇気が必要だった。

 そして、生涯をかけて愛せる者を妻に迎えたい。そんな夢物語はなにも娘たちのものだけではないのだから。国を背負う者にこそ、その心を支え拠り所とする場所が必要だ。

 それが、アシュトンにとってのティアナなのだ。



「ティアナ。僕の隣に立つ決心をしてくれて、ありがとう」

「答えが難しいところではあるけれど、今はあなたでよかったと思っているの」


「クリストファーのことは?」

「クリストファー様を忘れたわけではないのよ。そんな簡単に諦めきれるものではないもの。子供のころからずっとお慕いしていた想いを、そんな簡単に忘れることはできないわ。

 でも、のちの王妃にならなければいけないのなら、彼ではなくあなたとともに立ちたいと今は心から思っているわ」


「ティアナ、ありがとう。君が居てさえくれれば、僕は王として立っていられる。

 僕だって決して強いわけじゃない。王位継承権は持っていても王子教育を受けていたわけではないんだから。正直、怖くて心が折れそうになることもある。

 でも、ティアナが横にいてくれれば強くなれる。国を、民を導く勇気が湧いてくるんだ」


「アシュトンは弱くはないわ。彼とは違う。

あなたは決して逃げたりしない。人のせいにもしない。自分の役目を、責務をしっかりと認識して全うするだけの強さを持ち合わせているわ。

 私はあなたを尊敬しているの、あなたを支えることが私の矜持になる。

 私も強くなるわ、あなたの隣で。ともに、立つわ」



 留学期間を経てのち、ふたりは国に戻り婚姻を結ぶ運びになっている。

 


 女王の一人息子として次代を期待されていたクリストファーは、王子の地位を辞し、神官としてその身を神の元に預けることになった。

 そしてその横には今代の聖女ローズの姿があった。


 祈りを忘れ、若さゆえ自らの欲望が勝ってしまった聖女。

 国に災害を招いたことでその地位を下ろされると誰もが思ったが、神はローズを手放すことはなかった。

 間違いに気付かせ心を改めさせることが叶ったのか、彼女は未だ聖女のままである。


 しかし、以前の聖女ではない。

 今の彼女の横には、全てを捨ててそばにいることを選んでくれた、愛する人がいる。

 俗世間から切り離された暮らしの中で、二人は共に肩を並べ神に祈ることで、互いの愛を感じていた。

 

 

 時が来て、アシュトンとティアナの婚姻の時には、神官となったクリストファーと聖女ローズがともに並び、神の元でふたりを祝福することだろう。


 




 愛を信じ、手にした者たちが支える国の未来はきっと明るい。

若き者の思いは一途だ。まっすぐに伸びた先で、共に手を取り並び立つ愛しい人がいれば、道に迷う事もないだろう。

選んだ未来が正しいかどうかなど、誰にもわからない。真実はこれからの二人が決める事だから。



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