Chapter 5

[変更済]MISSION 0 :今は昔のお話







<傭兵1>

『───敵勢力、3割削った!!全滅判定だ!!』


<傭兵2>

『調子乗らない方がいいよ!奴ら、最後の一体までやる気だ!!』


<傭兵3>

『ったく、雇われにボロ負けしておいてまだやる気かぁ!?根性あるねぇ!』







 今から50年前、火星。


 ────『火星新政府解体戦争』、終盤



 アスクレウス山付近、『人類生存圏外』。



 当時から、人類生存圏と呼ばれるエネルギーバリアで覆われている場所の外に位置する中で、人類が生活基盤を築いている外円部の最も離れた場所だった。



 そこは今、火星統一を目論む活動家たちが勝手に発足した『火星新政府』の首都であり、


 今、多数の企業連合『トラスト』に雇われた傭兵スワン達が操る機動兵器『EXCEED-WARRIORエクシードウォーリア、略称eX-Wエクスダブル飛び交う大戦場だった。



<新政府軍MW1>

『クソッ!!通常兵器では太刀打ちできない!!』


<新政府MW2>

『こちら側のeX-Wは!?まだか!!』



 数こそ多いが、殆どが通常型の歩行兵器『マシンウォーカーMW』である


 この時、頼みの綱の新政府軍のeX-W部隊は‪……‬










「────今日、20の誕生日なのだけど。

 こんなところでいつもの仕事か‪……‬」


<アオ>

《まぁ頑張れ、アンジェちゃん!お金貯まるしさ!》



 深いため息と共に放たれたレーザースナイパーライフルの光。

 対レーザー加工盾を持つレイシュトローム製『フェンリルフレーム』の機体は、その盾との合間の部位を撃ち抜かれ、片脚を失い倒れる。



「まぁ、いつか結婚した時のために稼ぐのも良いけど」


 狭いコックピットの中、片目隠れな美人の傭兵スワンが呟きつつ、凄まじい操縦を見せる。



 扱い白銀の機体、右肩に長いライフルを携えた天使が投げキッスをするエンブレムの軽量2脚。


 敵の構えるレーザーライフルが放たれるより速く上昇し、斜め上からレーザースナイパーでコアを撃ち貫く。

 eX-Wの防御方式の一つにして、フェンリルフレームの最大の特徴である高出力Eシールドの弱点である同社製レーザーの特性を利用していた。


 そして撃った直後に左肩のブースターを起動。

 eX-Wが機動兵器と呼ばれる所以のアサルトブーストを行い、真横へ攻撃を回避する。


 その動作自体の機敏さもあるが、敵も同じくレーザーライフル。

 光の速度のはずの攻撃を、避け続ける。

 つまりは、相手の攻撃をこの白銀の機体の中の人間は全て予測して動いているということだ。



<新政府軍eX-W1>

『なぜ当たらない!?2次ロックはされているのか!?』


<新政府軍eX-W2>

『ロックが外れる!!なんで向こうは‪……‬!!』




 それは化け物と言われても仕方ない技量だった。


 軽量2脚という、低燃費かつ最高の運動性能と速度を持つ機体をフルに生かしている。

 一方的な蹂躙。

 撃ち落とされるのは本来なら高水準なバランスの高性能なフェンリルフレームであるのがあり得ないほどだ。



「‪……‬‪……‬楽だな‪……‬フェンリルフレーム、もっと動くはずなのになんでみんな脚止めてるのかな?」


<アオ>

《あー、あれね?フェンリルフレームってカタログスペック上は何でもできる機体だから勘違いしてるんだ。

 そもそも機動兵器だよeX-Wは!

 ましてフェンリルは中量2脚でも機動性の高いやつだし、足止めて撃つ物じゃないよ。


 私の元になった人格データの傭兵スワンも、地球時代はああいった間違った使い方する『お嬢様方』を的当てしたもんさ!》


「ふーん、高性能だから適当にか。

 私の初期機体もそうだったらよかったのにな」



 あまり表情を変えず、淡々と処理していく。


 そのような表現の似合う戦闘。いや、一方的な殺戮とも言える。



<新政府軍eX-W>

『クソォ!!何なんだお前は!?!』


「ただの傭兵スワン


 ようやく近づいて反撃しようとした相手を静かに撃ち落とす。



<アオ>

《ただの傭兵スワン

 ランク1のアンジェちゃんが何言ってんだか!》


「知らない人は知らないんだし、ただの傭兵だと思うけど」



 彼女───傭兵スワンランク1、アンジェはため息混じりに愛機である『エンジェルキッス』を左右にジグザグとした軌道を描き、まだまだいる敵のレーザーライフルによる攻撃を完璧に回避する。




<ウォースパイト>

『───『オールドレディ』より戦場の全傭兵へ!!!

 気をつけて、デカいのが出ます!!!』



「あ、ウォスパ先輩だ」


 ふと、そんな無線と共に、少し離れた起伏のある地形の先から何かが上昇するのをカメラが捉え、神経接続を通してアンジェへの視界に映し出される。



「おー‪……‬おっきい‪……‬!」


 手足が肥大化した誇張カリカチュアされた人型のようなもの、


 脚部はブースター、左右の手は巨大な兵装、身体につけられたような四角く巨大な頭部はおそらく操縦ブリッジ。


<火星新政府軍eX-W6>

『起動したのか‪……‬上層部はアレを!!』





「あの巨大兵器‪……‬!

 前に見たやつだ」


<アオ>

《洞窟潜った任務のやつ!

 たしか名前は‪……‬『ブラックスカイ』!!》



 名前の通り、空に巨大な黒い影を落とす超巨大兵器が、その胴体の背中からミサイルを無数に発射した。



<アオ>

《爆撃くるぞ!!》



 言われずとも、とアンジェはミサイルを着弾寸前でアサルトブーストで左右に機体を揺らすよう移動して避ける。

 軽量2脚の速度なら近接爆発信管VTFが起動しても、既に爆発範囲外かつ破片程度は防げる装甲はある。



 だが、直撃コースが2発やってきた。



「あっ‪……‬」


<ウォースパイト>

『油断しないでアンジェ!!』


 しかし、直後に横から散弾が放たれ、ミサイルを蜂の巣にして落とす。



「ウォスパ先輩‪……‬!」



 アンジェの操るエンジェルキッスの隣に、右肩にキツツキのエンブレムを輝かせたゴツゴツした対実体弾防御重視の重量2脚フレームが重そうな身体をブースター全開で動かしてやってくる。



<ウォースパイト>

『相変わらずおとぼけですね!

 でもアンジェ、私達はあなた以上にしくじりました。

 ブラックスカイは複数あった‪……‬!』


「破壊はできたんだ先輩。

 で、一機逃した」


<ウォースパイト>

『複数と言いましたよ、残念ですが!』



 直後に、また別の巨大兵器ブラックスカイが浮上していく。



「わー、すごい光景だなぁ‪……‬」


<ウォースパイト>

『言ってる場合ですか!まったく‪このおとぼけは‪……‬


 ‪……‬アンジェ、地上の敵は私が引き受けます。

 ブラックスカイを落とせますか?』


「3機はキツイんですけど‪……‬」


<ウォースパイト>

『ご安心を。僚機はかのフォックスファイアですから!』



 カァオッ!!

 そんな音と共に、一機のブラックスカイの一部が爆発する。


 見れば、白と青の機体がプラズマライフルを片手に戦っている。



「クオンおバアが一緒なら大丈夫か。

 じゃ、先輩こっちはよろしく」


<ウォースパイト>

『頼みましたよ、アンジェ!ランク1の実力を見せてあげなさい!!』


 ふぅ、とため息と面倒くさそうな顔を見せ、

 直後にアンジェは真剣な顔に切り替えて、愛機のエンジェルキッスを上空へと羽ばたかせた。






          ***




 ────現在






「へぇー、これがタマコのお母さん‪……‬おねえちゃんのおばあちゃんなのね。なんかどこかで見たことあるような‪……‬タマコに似ているからかしら?」


「美魔女でしょ、婆ちゃん?

 背もシャキッとしてたしね、過労死しちゃう前まで」




 ヘリに揺られてゆらゆらと、空の旅する私は傭兵系美少女の大鳥ホノカちゃんです。


 今は、訳あって私の生き別れたお母さんと共に過ごしていた『シンギュラ・デザインドビーイング』の女の子、


 クッソスタイルのいい背の高い銀髪美人の9歳児、

 ルキちゃんにおばあちゃんの遺影を見せているところでしたー。



「‪……‬こう見比べると、そっくりね」


「‪……‬たしかにね」


 ルキちゃんが、私のおばあちゃんの遺影と共に並べるのは、案外そっくりなもう1人の黒髪美人さん。


 大鳥タマコ。私のお母さん。


 何故か、赤ちゃんの頃に私をおばあちゃんに預けて、私みたいな正規の傭兵スワンじゃない、裏の違法傭兵ブラックスワンをしていた人。


 ‪……‬‪……‬恨み言一つ言う前に死んじゃった人。


「‪……‬‪……‬骨だけでもあって良かったよ正直。

 お墓に入れれば、後は天国でおばあちゃんにしこたま叱られるだろうし」


「‪……‬地獄行きかもよ。タマコはそんな人生だったって言ってたもの」


「じゃ、私が天寿を全うした時に、地獄で色々言っておくよ。

 ろくな仕事じゃないしね、傭兵なんて裏表関係なくさ」


 ぽんぽん、とお母さんの骨壷を叩いておく。


「‪……‬‪……‬不思議なものね。あのタマコが、まともなお墓に入れてもらえるなんて」


「‪……‬‪……‬家ももう、死んだおばさんの方の借金で消えちゃったけど、お墓だけは私残しておいたんだ。

 ‪……‬‪……‬おばさんの方は骨もない死に方で、残ったの借金だけだったから入ってないんだ。

 でも、おばあちゃんの遺言だったみたいで‪……‬家族は一緒のお墓って」


「‪……‬‪……‬タマコも親不孝ね。そんな人の元を離れるだなんて‪……‬

 何があったのか‪……‬‪……‬考えても見れば何も話してくれなかった‪……‬‪……‬なにも。

 ‪……‬‪……‬寝言で何度もクソうるさいぐらいお母さんって呟いてたけど」


「‪……‬‪……‬我が母ながら最低だな。顔ぐらい出せばいいのに、恨まれたって家族なんだからさ」


「‪……‬‪……‬そういえば、おばあさんの名前って?」


 ふと、ルキちゃんがそんな質問をしてきた。


「ああ、おばあちゃん?

 結構面白い名前だよ。本人はキラキラネームすぎるから、ぜったい自分の子にも孫にも純日本って感じな名前にしたいって言ってたぐらいだし」


「ふーん‪……‬で、どんなの?」




「アンジェ。大鳥アンジェ。天使って意味なんだって。

 考えても見たら、おばあちゃんも謎が多くてさ?

 若い頃はなんかヤンチャしてたんだっておじいちゃんとかが言ってたけど、昔のこと何も話さない人で」




「は?アンジェって言った今!?」


 ん?どうした?


「なんか、変?」


「‪……‬‪……‬私のこと作った、浅見クルス、博士がファンだった昔の傭兵スワンとおんなじ名前なのよ‪……‬!」


「え!?おばあちゃんが元傭兵!?」


 あのおばあちゃんが‪……‬??




「‪……‬‪……‬流石にないでしょー!

 おばあちゃん普段はただのおとぼけ可愛いお婆ちゃんだったし」



 いくら何でもそれはないでしょー。

 おばあちゃんが元傭兵って、3代ずっと傭兵業?

 いやいや〜。



「うーん、でもアンジェなんて名前の人そんないる‪……‬?」


「傭兵名が自分の本名なの私とかエーネちゃんぐらいだって!

 きっとそのアンジェさんは本名じゃないよー」


「アンタが本名そのまんまって例の一つじゃないのよ」


「まぁまぁ、そんなことよりそろそろ私の育った町だよ!

 納骨式の準備もしないと!」



 そんな訳で、まぁ仕事も終わったので、今はヘリに揺られて要塞から降りて、住んでるヨークタウン近くの墓地へと向かってまーす!




 今回は、傭兵業はお休み。

 死んだお母さん達の弔いのためのお休みだー!




           ***

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