[変更済]MISSION 22 :陰謀の匂いがする








<東出ミル>

『‪……‬潮時か』



 ズン、と何機目かは分からない無人武器腕タンク型eX-Wが落ちる中、自身も片腕のキャノンを損傷した東出ミルが後退を始める。



<ありす>

『こんにゃろー!!逃げるぐらいなら武器腕タンクダメ絶対のステッカーを受け取れー!!!』



<ルキ>

『ふざけてる場合じゃないでしょありすちゃん!!


 ねぇ、アンタ!!アンタ、本当にネオ・デザインドじゃないのよ!?』



<東出ミル>

『‪……‬‪……‬同類のよしみ、と言うには何かが違うが、黙ってはくれないか』




 東出ミルの機体が、履帯を響かせて後退して行く。




<テレサ>

『逃げんなし!!アンタには身体どころか脳髄レベルで聞きたいことあんだから!!』


<東出ミル>

『そう言うわけにもいかないさ。

 いかないから、我々は派手な花火を用意するよ』


<テレサ>

『何を‪……‬?』




<ルキ>

『海よ!!!何か浮上している!!!!』



 ルキのシンギュラ・デザインドとしての感覚で言い当てたその海の方角に、ぼうと言う光が灯る。




<テレサ>

『まさか‪……‬‪……‬中距離ミサイル!?!』


 テレサは、急いで自身の愛機たるメソゾイック・キマイラを手頃な海の方角を見れるビルへ運び、ビル壁面を蹴って登る。




<ありす>

『何をしたのさ、そっちは!?』


<東出ミル>

『こちらの用意した潜水艦、そして中距離ミサイル。

 その意味を理解できる人間だけに効く目眩しさ』


<ありす>

『何言ってるか分かんないよ!!

 アイドルにもわかるよう説明して!?』



 ハピ☆タンが全速力で追いかけるが、ガチタンアセンであるハピ☆タンよりハイウェイの死角の道路へ潜り込んでいく武器腕タンク型の方が軽い為に速い。



<ルキ>

『ありすちゃん!もうそっちじゃない!!

 アイツ、いつのまにか機体を置いて消えてる!!

 多分地下道!!』


<ありす>

『えぇ!?』


<東出ミル>

『そこまでわかるのか。

 でももう遅いさ‪……‬』


<ルキ>

『遅い‪……‬!?

 どう言う意味!?!』


<テレサ>

『本当に認めたくないけど、そいつの言ってること本当なんだよね!!


 中距離ミサイルの弾頭は恐らく、『戦略熱核弾頭』だ!!!』




『『核ゥ!?!?!』』




 二人揃って驚くのも無理はない言葉だった。


<ありす>

『それって、禁止兵器じゃ!?

 もう歴史のお勉強でしか聞いたことないよ!』


<ルキ>

『最後の熱核兵器使用は、実験でも70年前じゃなかったっけ!?』



<テレサ>

『最悪今日が、70年ぶりになる!!

 ‪……‬‪……‬やるしかないか!!』



 その言葉と共に、メソゾイック・キマイラの背部の巨大なものが動き始める。





<機体AI音声>

《パージします。

 NGウェポンモード起動。

 砲身展開。エネルギーライン全弾直結》


 両腕の武器をパージし、可動アームで運ばれた巨大な上下に分かれたまるで怪獣の口のようなバレルが両腕で握られる。



<テレサ>

『見えてはいる‪……‬射程距離はギリギリ‪……‬!!』


 テレサの視線とつながった頭部カメラで、すでにこちらへ水平飛行を始めたミサイル達を捉えていた。

 水平飛行を始めたのはだいぶまずいが、都合がいい。


<テレサ>

『長距離FCSでもギリギリだし!!

 画像と感でぶち当てる!!』



<機体AI音声>

《冷却ファン稼働開始。

 荷電粒子充填率‪……‬45、78、100》



 メソゾイック・キマイラ背部の巨大な扇風機のような冷却ファンが唸りを上げながら回転し、その腕二つで保持した上下に口のように割れる砲身の内部がバチバチとスパークし、荷電粒子の光を収束させていく。




<機体AI音声>

《撃てます》



 音声と同時に、すべてのミサイルが射程内にはいる。




<テレサ>

『当たれぇぇぇぇぇぇッッ!!!!!』





 ボシュゥゥゥゥッッ!!!


 凄まじい光の奔流が、怪獣の口のような砲身じゃら放たれた。





 O.W.S.製規格外巨大兵装NGウェポン『試作兵器D』



 正式名称:規格外試作型大口径超収束荷電粒子砲D型


 通常、eX-Wのブースターにも使われるジェネレーターが電力とは別に放出する超重元素を攻撃に転用したものである。


 特徴は、eX-Wなどの機体防御に使われるEシールドに対し、『貫通』するレーザー、高エネルギーと電磁パルスで『出力減衰』を起こすプラズマ系のエネルギーE兵器と違い、


 荷電粒子の流れによって『削り取る』荷電粒子砲は、E兵器でありながらも実弾系の運動エネルギー兵器と似た作用でEシールドを破壊して本体に高エネルギーを叩き込む。


 そうでなくとも威力が高いが、弱点として荷電粒子砲はブースターの原理と似通うために、

 エネルギー兵器でありながらも『反動』が存在した。



 O.W.S.製4脚は、決して安定性能が低いわけではない、むしろ職人技とこだわりと技術屋の維持で得たい凄まじい安定性能を持つが、


 この時テレサは、

 規格外兵装NGウェポンを抑えきれなかった。




<ルキ>

『ダメ!!2発抜けた!!』



 たかが横薙ぎ、しかし暴れる荷電粒子の流れは全ての熱核弾頭を破壊できず、


 ミサイルが2発、ここヨークタウンへ向かっていく。




 テレサは、一度止めた荷電粒子砲のチャージを再び始めたが間に合わないのは分かっていた。


 ありす、無意識にルキの機体の前にハピ☆タンをおいて盾になる。


 ルキは一瞬目を逸らした。




 ミサイルが今、爆発する。





 ────何かの光が通り過ぎた瞬間、撃墜される形で。



<テレサ>

『今の光‪……‬レーザーじゃない、もしかして無限飛行超加速状態UFO!?

 アレ、まともに扱える傭兵スワンなんていたっけ?』



<ルキ>

『‪……‬‪……‬一人、今日傭兵スワンになったわよ』



 夜空に描かれる光の線、それが奇妙な直角カーブを繰り返してこちらに迫る。




 一瞬で、3機の前に現れた赤い機体。


 どこか戦闘機然としたフレーム構成は、AI社製『AIE-XX サンライズ』が全身。


 赤と黒と、⑨の簡素なエンブレム。




<セラ>

『助けに来たよ、ルキちゃん!』




 それは、ルキと同じ身体の者が操る機体だった。





<ルキ>

『‪……‬今回は、素直に礼を言っておくわ、セラ。

 ありがとう。悔しいけど何もできなかったから助かった』



<ありす>

『ルキちゃんの知り合い?』


<ルキ>

『‪……‬‪……‬出来のいい姉妹みたいなもんよ。

 こっちの方が遺伝子的に近いし、姉にされたアホの子と違って』



 へ、と、ルキはよそ見していた方角の空を見る。



 ────まもなく、シンギュラ・デザインドの乗った機体達が投下され、

 凄まじい速さでヨークタウンは制圧されていった。






           ***




「アンネリーゼさーん、しっかりしてねー、よっと!」


「痛ッッ‪……‬!!生きてる証拠もここまで感じたくは無いわね‪……‬!」


「ごめんて」




 ───てなわけで、傭兵系美少女の大鳥ホノカちゃんは、ミッション達成です。


 まずは怪我人のアンネリーゼさんを、この蒼鉄王国大使館の庭を借りているインペリアルの軍人さん達の医療班に引き渡していましたとさ。



「お姉さま、ご無事で何よりです」


「こちらのセリフですからね、殿下」


 ああ、相方はまさかのインペリアルの皇帝の妹さんらしいすっごい綺麗で可憐な感じの人。

 背は低いけどクリクリお目目が宝石みたいだし、栗色のロングヘアの艶が凄い。しかも私よりずっと顔が綺麗!!顔の造形良すぎ!!


 お姫様じゃん。

 格好は私と同じタイプの無骨なパイロットスーツだけど。


「大鳥ホノカさん、ありがとうございます!

 あなたが速く来てくれたおかげで、いえあの下衆女相手に立ち向かったおかげで、お姉さまは生きております!」


「いやいや、むしろ謝るのこっち!

 だって、アンネリーゼさんには助けられたし‪……‬」


「あら、案外そう言うの気にしてくれるのね?

 まぁ、あのエセお嬢様を倒してくれたのでチャラね。

 どちらにしろ、私達は武器も無い状態だったの。


 ブレードだけで勝つとは思わなかったけど、あなたが戦って勝ってくれた。


 それで助かったのも事実よ。ちょっと嫉妬しちゃうわね、ホノカ?」


「うーん、流石にそれほどでも‪……‬‪……‬あるかなっ☆」



《調子乗んな!》



 ペシリ、といつもの肩のコアラポジションなコトリちゃんの一撃!

 いやごめんて!二人も笑わなーい!!





「────ただ、こちらとしては難しい注文だが、捉えて欲しかったがな」



 と、そんなイケボな男の人の声が横から‪……‬その声の主は、まさか!




「あ、グウィンドリン公爵さん!」


「覚えててはくれたか、大鳥ホノカ」


 そこにいたのは、見知った褐色黒髪イケメンさんであった。


 こちら、レイシュトローム社の社長兼インペリアルの中でも公爵っていう偉い貴族の人のグウィンドリンさんである。


 うん、雇い主は覚えてた!


傭兵伯ゼルトナーグラーフ殿、すまないなこうなるまでコキ使ってしまい」


「いいえ、グウィンドリン公?

 でも、報酬に色はつけてもらうけど」


「グウィンドリン公爵、そんな事よりも首尾は?」


 しゅび?


「殿下、あなた様の武勇のお陰です。商談は成立いたしました。

 我々を襲ってきた相手も、これを破談にできなかった事は痛いはずです。

 我がインペリアルの勝利です、とりあえずは?」


「しょうだん‪……‬?」


「そうなんですよ、ホノカさん」



 と、また見知った顔発見!

 青い肌に黒白眼が3つ、銀髪で頭良さそうな短めの髪は!!



「あ、レリックさん久々!!」


「どうも。大使館の仕事も忙しくて個人的に会えなくてすみませんね」


 物腰低いこの人は、レプリケイターの国蒼鉄王国の今は中尉さん、軍人さん兼今は大使やってるク・レリックさんだ!


「まぁ、仕事で会うのもどうかなとは思いますが」


「たしかに、敵になるか任務依頼だしなぁ」


「‪……‬‪……‬ちょうどいい。どうせしばらくは敵にはならんだろうし、お前ほどの優秀な傭兵スワンだ。

 わかるように説明だけしておこう。

 聞けば我々の依頼を受けざるを得ないがな、悪い話では無いし聞いておいた方がいい」


「‪……‬二週間休暇取るつもりでも?」


「むしろ都合がいい。

 まぁ聞け、何があったかぐらいは気になるだろう?」


 私、お金貰えればなんでもいいんだけどね‪……‬

 聞いちゃっとくか。



「‪……‬知っての通り、海路を挟んで蒼鉄王国や赤鋼帝国と、我々インペリアルは‪……‬いや、無論トラストとしても輸入と輸出のための関係構築をしている。

 それは流石に分かるな?」


「流石に」


「今回、レリック大使殿とは、ひとまず商談を成立した。

 商談の内容は、蒼鉄王国とほど近い火山、そしてなんと塩湖が近くにあるという事で、そこの開発権と利用代だ」


《塩湖‪……‬!リチウムか!!》


「さっそくわからない単語出てきたぞ?」


「レアメタルだよ。生活やお前の身体の材料にもなる希少な鉱物だ。


 恐らく、今回執拗にこの大使館が襲われたのも、この私ことダレル・グウィンドリンの命、そしてこのレアメタル関連の商談を消すことにあったと考えている。

 誰かは知らんが、良く考えたものだよこのシナリオをな」



 あー、まぁいつもの感じですねー、偉い人大変‪……‬ん??



「‪……‬‪……‬いやあの、私が知らないの当たり前なんですけど、今日公爵さんその事、他の人には言ったんですかね?」



 なんとなくの疑問に、イケメンな顔にフッ、と満足そうな笑みを浮かべた公爵さん。


「話が早い。要はそこだ。

 当然秘密のこの商談、なぜ漏れた?

 そこがわからないことが重要だ」


「‪……‬只事じゃ無い?」


「そうだ。只事じゃない」



「────何だったらこっちの大惨事も偶然じゃ無いっぽいんだよねー!」



 と、そこでさらにテレサ社長登場。

 疲れた顔で、ルキちゃんとありすちゃんとトボトボ歩きてきた。



「ミス・オーグリス!?

 なぜここへ?」


「こっちは秘密輸送。ヨークタウン入りはたまたま‪……‬だけどキッチリ襲われて荷物はだいぶパーだし。


 ただこれでわかった。

 トラスト内部の争いじゃないね、いつものやつと違う」


 考えても見たら、偶然にしてはできすぎている。



「‪……‬‪……‬いよいよ厄介な」


「‪……‬‪……‬ん?

 ちょっと失礼」


 と、テレサ社長、こめかみを抑える仕草。


 あ、あれ携帯電話をペアリングして網膜投影するときやるやつだ。

 強化済みだしよくやるんだよね。



「‪……‬‪……‬マジか」


「何かね、そんな冷や汗を。老体を労ってほしいが」


「ダレル少年や、大変だ。


 他の社も重役も襲われたっぽい。

 エクレール本社はいつも通り爆発したし、他も、君のとこの本社も襲われてる」


「何!?

 ‪……‬しまった、私の端末は圏外か、戦闘の影響で!!」



 慌ただしい様子を見せる公爵さんに、頭を少し抱えて夜空を見ているテレサさん。



「‪……‬‪……‬なんでしょう。長年赤鋼帝国と戦争してきたカンってやつですけど‪……‬」


「‪……‬‪……‬只事じゃないの中でもかなりデカい只事じゃ無いヤツかも‪……‬!!」





 私の言った言葉は、次の日には現実になっていた。





 火星初、トラスト全企業同時多発テロ。

 3つの勢力内を揺るがす大事件。



 ‪……‬‪……‬何か、嫌な予感のする始まり方だった。






          ***

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