[変更済]MISSION 2 : eX-Wは『人型機動兵器』にあらず
傭兵系美少女、私こと大鳥ホノカちゃんは、
今、ちょっとこの広いけど狭い潜水輸送艦のガレージの中、3つ吊り下げられたパーツを見ていたのでしたー……
それは、腕の代わりに武器がついた、
まさに『武器腕』って名前の物だった。
「うぉ……腕っぽいの肩の接続部だけじゃん……!」
《あれ?よく接続部が分かったね?》
「なんだよーコトリちゃんその言い方ー!
ユナさんの6か7本目の腕として整備手伝ってんだぞー?見たやつは覚えてるよー!」
《それもそうか……》
「……にしたってこれすっごいな……
へー……マジで砲だったり……こっちは翼?
あれ、こっちには腕生えてるけど……」
3つの武器腕は、3つとも不思議な形だった。
どう見ても大砲!
サーフボードというか翼!
なんかごちゃごちゃしたやつに腕生えてるのまで!!
「……考えても見れば、こうやって武器腕単体は初めて眺めるな……
コトリ、だったか?これらはどういうパーツなんだ?」
《フィリアさんも気になるよね。
後ろの新兵達もめっちゃ気になってるみたいな反応が初々しいし。
はい注目。
武器腕の解説を先にしようか。
ホノカちゃん、私を持ち上げて?》
ほいほい、とコトリちゃん先生の30cmデフォルメロボボディを持ち上げる。
《武器腕。文字通り武器が腕になった物。
ただし、一口に武器腕と言っても、実は『エンフィールド式』と『アヤナミ式』にの2種類に分けられる》
と言いながら、3つの武器腕のうち、渡した適当なレンチでコトリちゃんが指すのは、見るからに腕が砲になってるやつ。
《まず、この見るからに腕が大砲なやつと、こっちの薄い翼みたいなのが『エンフィールド式』武器腕。
本来腕パーツのある部分が完全に武器になっているタイプだね。
エンフィールド式の特徴は、完全に腕部が武器になっているからこそ、本来の積載量計算で『武器+腕部重量』とするところを、腕部の重量だけで済むこと。
それも腕の重さだけで、重量腕でもないと持てないようなこのクラスの武装が装着できる。
見なよこれ、エンフールド製『WFA-01 オーロックス・ラピッドファイア』、いわゆる『速射砲腕』だ。
口径120mm、発射レートはバトルライフルより遅いかなって程度。
発射機構は当然半電動の反動利用型。
火薬で撃ち出す信頼性と、何より低エネルギー消費。
装甲に関しても余計な可動部がほぼないからこそ、1001B腕と大して変わらない重量で装甲も硬い。
私の趣味じゃないってだけで、カタログスペックは優秀だよ》
「へー……良い感じじゃん……」
《でしょ?
で、もう一個の方式が、『アヤナミ式』のこっち。
まぁ、これ自体はデプス社製の『AW-1 エラスモサウルス』っていうけど》
「アヤナミ式?」
《元は、アヤナミマテリアルの技術でね。
腕がついてるのは見えるね……これは武器を保持したまま、》
と、ヒナちゃんが何か信号を送ると、妙な塊から生えていた腕がばんざいする様に後ろにスライドする。
塊の部分の右腕側が、背中側にある筒が上を向いたかと思ったら後ろに倒れて、塊の中を突き破る様に出てくる。
左腕側の塊が、パカッと割れて中からでっかいカメラのレンズがこんにちわ。
そして右腕は突き破った筒の先端のカバーが開いて、銃口をのぞかせる。
気がつけば、変形した腕はまるでスナイパーライフルの様なすんごい長い砲身が伸びていた。
「えー!?カッコ良すぎぃ!!」
《そう、あの腕に武器を保持したまま、強力な武器を展開出来るんだ。
ただ、見ての通りちょっと干渉するパーツもあって、場合によっては背中の武器とか肩の武器が積めない弱点はあるけど》
「なるほど……」
そしてまた、目の前でスナイパーライフルだった腕は、複雑な変形をまた経て元の姿に戻るのだった……ルービックキューブ思い出しちゃった。
《アヤナミ式は、本来最初に開発したアヤナミマテリアルの技術がベースで、最大火力の底上げで言えばその腕より強力だ。
ただ、この見た目通り若干重い割に変形機構のせいで防御も薄い。
まさに、火力と引き換えに防御性能を捨てる腕だよ》
「へー…………」
「…………改めて見ると本当……なにこれ、異形すぎる……」
あの目つきの鋭い新兵ちゃん (名前まだ覚えてない)のいう通り……ロボットってもっと人型じゃなかったっけ??
《まぁ言いたいことはわかるよ。
コイツは、エンフィールド・ラボラトリーの『思想が間違っている』ってだけで、まぁ私は趣味じゃないけど優秀な腕なのは本当。
アヤナミ式は最初からそうだけど、エンフィールド式で言えば珍しいAI社製ASミサイルポッド型の『AIE-01A/W ローカストダメージ』の方が、武器腕の本当の価値がわかって造られた物だし》
「本当の価値ってなんだいコトリちゃんや?」
《そもそも、武器腕はエンフィールドラボラトリーが生み出したんだ。
彼ら曰く『人型に囚われない』という発想の元、自らの生み出したタンク脚と組み合わせることで、
言わば『eX-Wの技術で作られた戦車』を作ろうとしたんだ。
古臭い枯れた発想だね》
へぇー……
私含めて、みんなその武器腕の歴史に思わず感心しちゃった。
《ただ実は、このエンフィールドの願いは一撃で砕かれてしまった。
エンフィールド式の武器腕には、地味に実際戦ってみないと気づかない弱点があったんだ》
「え?何?」
《武器腕は、カタログスペック以上に脆いんだよ。
カタログスペック上は、とか極所は間違いなく稼働部分が少ないから硬く出来るけど、どうやっても砲や武器自体は装甲で覆いきれない。
エンフィールドの誤算は、マニピュレーターなどの稼働部が多く隙間が多いと思われた人型腕が、その実装甲は薄く見えてもかなり満遍なく装甲化できているところだよ。
特に正面や背面なんか、当たりやすいところは当然硬いし、そのマニピュレーターで保持した武器自体が敵の攻撃に対して『
そうなると相対的に武器腕の方が脆いし、いざって時そこら辺の武器を拾えない、簡単に換装できないことの方がデメリット大きいよやっぱり」
なるほど……!
言われてみれば、結構武器丸出しだ!
《反面これのおかげで、火力に対する重量比が良いからエンフィールドは長年ここを無視して開発していたんだ。
でも、
自然と
いわゆる『ガチタン』が生まれる様になったんだ。
エンフィールド側としては大変不服だったらしいけど》
あらまー…………
いや確かに、ガチタン使いですんで、あの重装甲っぷりの安心を考えると、装甲を落としてまで今の火力上げるつもりがない……というかティタニスは両腕重量腕だけど、十分火力高いよね……十分だー。
《そこにさらにエンフィールドの誤算が出てきたんだよ。
それが、今回の1番のミソ。
この武器腕を軽量機体の火力の底上げに使う人間が増えたってところ》
あ、と私も新兵ちゃん達も納得する。
「そっか、重量に対して火力が高いというか、腕の重さだけ考えれば良いし」
《そうだぞホノカちゃん。
軽量機体が火力とか攻撃力が欲しいってなる場合、武器腕の登場前まではエネルギー武器に頼るしかなかったんだ。
重量に対して凄まじい火力だったけど、エネルギー兵器はどうしても機体のエネルギーを食うから、軽量機体の強みである『運動性能』に回せるエネルギーが喰われてたんだ。
かと言って、グレネードなんて背負った日には重量過多まっしぐら。今でも軽量脚でグレ使える脚はハードレインのだけだしね。
単発火力じゃなければ良いっていうなら、マシンガンとショットガンで敵のEシールドなど引き剥がす手段でいいけど、それだけしかできない軽量機っていう需要が薄くなっちゃうしね。
あるいは遠距離でスナイパーライフルでチマチマ削るかだ。
基本的に軽量機は敵にピッタリ張り付くか、絶対に近づかないかのどれかだからなのは変わらない。
あ、余談だけどレーザーブレードとかとっつきって言う、ハイリスクハイリターン戦術も実は軽量機向きなんだ。
ほら、あのキリィちゃんも散弾バズーカととっつきって言う組み合わせで戦ってるし》
言われてみれば……そっか。
早くて当たったらおしまいなら、当たらない位置にいるのが吉か。
《そういう意味でも武器腕はあまりにも軽量機と相性がいいんだ。
120mmクラスの砲を乗せたまま軽快に動ける様になるし、
同じエネルギー消費なら圧倒的に強力なレーザーキャノンも積める低燃費さもある。実弾キャノンなんて普通の腕とライフルより低消費だよ。
弱点は防御力とか、咄嗟にその場に落ちてる武器を使っちゃりができないぐらいだ。
でも、私は趣味じゃないってだけで、コイツが強いのは変わらない》
なるほどなぁ……
つまり、人っぽさを止め、防御と引き換えの火力を手に入れられる。
それが武器腕……か……
「…………ペラゴルニス君の火力上げ、武器腕に頼るしかないかな?」
《地味にフロート脚もエンフィールドが発祥だしね。
やっぱり相性はいいよ。
ちょうど全部、実弾型だし良いんじゃないかな?》
「よし!
じゃあ、マッコイさんカタログ見せてー?
買うやつ選ぶー」
はいはい、と渡してくれるマッコイさんの持ってたカタログを見ながら、さて何を選ぶかな……
「……ちなみに、新兵達!
お前達ならそこのフロートに何を付ける?」
と、なにやらそんな事をフィリアさんが言い出し始めた。
あらら、私ったらすっかり新兵ちゃんたちの教材的扱い?
ま、私が選ぶのは、実はカタログパラ見してもう一個だけって決めてるけど。
「……私なら、ASミサイル腕にするわ」
と、後ろであの目つきの悪い新兵ちゃんがそう真面目に手を上げて言う。
「ほう?
アウローラ、理由は?」
「高速移動するフロートなら、発射後ミサイル自体が敵を自動で識別して誘導する
……どうなの、
…………ファイナルアンサー?無言で聞いてみる。
ファイナルアンサー。そんな目。
………………
…………
……
「いや、あれだけは絶対無理」
私の答え、それはまさかのインペリアルの方々は上官のフィリアさんまで意外だった様で、全員どよめいていた。
「いやいや、なにそんなに驚いてるの?」
「おま……なにがダメなんだ!?
まさか、スナイパー故にあっちの……」
「あれも重量的に腕が死荷重になっちゃうんだよねぇ……
私はあっちの速射砲にするよ」
「一体なにがダメなの!?
ASミサイルは強力なのに!!」
「では教えてあげようか」
タブレットでカタログスペックページをオープン。
注目すべきは……ここだ。
ここが一番重要なパラメーターなのは傭兵やってればすぐに分かる。
そう……!
「ASミサイルは弾代がアホみたいに高い」
…………あら、みんななにフリーズしてるの?
「……は?」
「いや『は?』ってなにさ!!
見なよコレェ!この無残な3桁弾代をよぉ!?
速射砲もスナも、1桁だぞ弾代!!cn換算で!!しかも×20で!!
クソ安いじゃん!!」
「弾代…………」
「傭兵にとっちゃ火力も重要だけど、弾代も重要なの!
ケチって死にたくはないけど、死なない程度にケチらないと!」
《そうだぞ!
ここも結構重要な要素だぞ?
正規軍って言ったって、弾代は会計監査とか入ったらぐちぐち言われる要素なんだし》
まるで考えもしなかった、って感じの顔の新兵達に、思い出した様な感じの青い顔のフィリアさん。
なんか言われたことあるのかな?
「……世知辛い話なのね」
「
そう……なので要求性能とお金を天秤にかけて、マッコイさんにこっちのエンフールド製『WFA-01 オーロックス・ラピッドファイア』……速射砲腕を購入する!
数分と経たずに、ペラゴルニスは新しい姿になった。
肘から下、その腕の代わりに伸びる、長い筒!
《エンフールド製『WFA-01 オーロックス・ラピッドファイア』。
120mm速射砲、元は戦車砲で、速射砲っていうのはつまり装填装置が機械化されてるって言うタイプのこと。
言ったはずだけどなかなかいい発射レートだし、砲弾自体すっごい普及型で安めなんだ》
「空飛ぶ戦車砲……怖くない?」
《怖いに決まってるじゃん。
しかも、戦車砲は下手なスナイパーライフル並みに射程も長いし弾速が良いからね。
結構、君値段で選んだ割には正解だよ。
ちょっと、ますます異形な形になったけど》
まぁ、下半身が戦闘機で、両腕が戦車砲なんてすごい見た目だしねペラゴルニス……
人型の面影が、アルゲンタヴィスだったころの頭とコアだけだ……
「────騒がしいと思ってきてみれば、どうやらタイミングに恵まれていたらしいな?」
あれ?
私達の雇い主の褐色イケメン公爵さんだ。
えっと……たしか、ぐぃんぐぃん……じゃなくて、
「グウィンドリン公爵閣下に敬礼!」
それそれ、と思っている間に、新兵ちゃんもフィリアさんもびっしり敬礼を決めて迎える。
「楽にしたまえ。
大鳥ホノカ、単刀直入ですまんが、フロート持ちのお前に頼みたい任務がある」
「あらら、なんですか?」
「もう、目的地は目と鼻の先だ。
すまないが、停泊できる場所を探しすべく偵察に飛んでくれるか?」
「オッケーでーす!
ペラゴルニスの修理代分は働きますとも!」
そう言うことなら、新しいペラゴルニスの慣らしに行っちゃいますか!!
***
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