[祝16万PV突破]MERCENARY GIRLs/EXCEED-WARRIOR

来賀 玲

Chapter 0

MISSION 0 :身体を売って得たお仕事







 ────ろくに会ったことのないお母さんの借金のせいで、ずっと苦労してきたお婆ちゃんは死んだ。

 死因は、やっぱり過労だった。


 高校に行けないで働き始めた矢先の私は、家も家族も一度にみんな無くしてしまった。


 それでも、返しきれない借金は、気がつけば期限になっていた。


 お母さんに恨みはない。誰よりも恨んでいたお婆ちゃんが私の恨みごと天国に持っていってくれたから。

 どこにいるかも知らない人に何の恨みをぶつければ良いのだろう。


 私はお父さんは知らない。お婆ちゃんも知らなかった。

 親戚もいない。

 頼る相手もいないから、怖い人に『身体を売る仕事』を紹介されて、それに従うしかなかった。

 もう、未来も何もかもどうでもよかった私は、アホな子の私は何も考えないで同意書にサインも自分の指紋を印鑑がわりに押した。


 もう良いや。



 そして私は‪、その仕事を始めることになった。










 ────ここまでは、まだ良かった。





 ここからは、私が思っていた事と違っていた。
















< . >



<システム構築:0‪…78,100>






《メインシステム、パイロットデータ認証開始》

 ‪……‬

 パイロットデータ認証、確認。

 通常モード、起動》







<モニター:オンライン>

<無線システム同期完了>

<データリンク。以後、モニターに無線相手名が自動表示>




 映画館の映画が始まる時って、こうやって明るくなるよなー。

 今座っている私の顔の周りが、窮屈だけど結構高級なテレビの画面みたいなので覆われていて、外の様子を映し始めていた。


 そう窮屈なんだ。

 私は、今、

 窮屈でぴっちりした黒と黄色のなんか薄くて伸びる素材のスーツと、その上から鎧みたいなアーマーに全身を包んで、めっちゃ窮屈な空間の中、座っていた。


 なんだっけ‪……‬この妙に胸元とかキツい服?

 パイロットスーツ?っていうんだっけ?


 まぁそんな感じの姿で、そんな感じの姿に似合う『乗り物』の中で、真上にあるヘリコプターに吊るされてゆらゆらお空を飛んでいましたとさ‪……‬




<僚機1>

『今日で傭兵二日目かー。

 昨日乗り方だけ教えてくれたけどさー、全然覚えらんないよなー?』


<僚機2>

『ちょっと不真面目ですよ!

 今日は恐らく昨日のおさらいと実弾での戦いの練習になるはずです!

 まだピクニック気分だと、怪我をするわよ!』



<僚機3>

『なんだって良い。早いところ訓練なんて終わらせてやるさ。

 そして、史上最強の傭兵になる私の伝説が始まる!』




 なんか和気藹々わきあいあいだね、周りの方々は。

 目の前のモニターには綺麗な青空と太陽燦々な景色。今日はのどかな絶好のお出かけ日和だなぁ。



 そういや、私たちってどこへ行くんだろうっけ?

 まぁ多分訓練か、昨日操縦を覚えたばっかりだし。




<オペレーター>

『みにくいアヒルの子の皆様、聞こえ‪……‬

 おっと‪……‬ごめんなさい。慣習で呼んでいる名称です、侮蔑の意味はありません、ごめんなさい‪……‬』



 無線の表示とオドオドした声の女の人が話しかけてきた。


 オペレーター。たしか、こう‪……‬お仕事の時に補佐してくれる人の事らしい。

 ちょっと腰が低そうで、ホッとしたかな‪……‬




<オペレーター>

『そろそろ、『作戦領域』に到達いたします。

 改めて、本作戦の概要と、皆様の試験内容を確認させていただきます』




 さて、なんか話し始めたぞ?


 ‪……‬ん?

 ‪……‬待って?試験は分かるよ?

 作戦領域‪……‬?え?まって混乱しちゃう。え?



<オペレーター>

『依頼主は、『オーダー』第6区画管轄端末。

 目標は、第6新ツクバシティ管理局、『ユニオン』駐留基地部分。

 目的は、威力偵察です。

 当該とうがい基地に先日、『ユニオン』本国より多数の戦闘メカ並びに、不明の物資が搬入されております。

 管理局は基本的に全勢力の間では中立の立場でありますが、その隣になんの連絡もなく戦闘準備と思われる物質を搬入されては管理局側のメンツが立ちません。

 故に、『ユニオン』対抗勢力である『オーダー』並びに『インペリアル』への調査と警告を実施し、これに答えた『オーダー』側から、我々『トラスト』に依頼が持ち込まれました』



<僚機1>

『‪……‬は?』


<僚機2>

『へ?』


<僚機3>

『??』



 ざわつく無線。

 なんだろう、空気が変わった。


 それは分かるけど、待って‪……‬待って、ちょっと何言っているのか分からない。

 ユニオン‪……‬はこの世界というかここら辺を統治してる勢力の名前。私が住んでたところもユニオンの中。それは分かるよ。


 オーダーとインペリアルは別のところ、トラストっていうのは、要するに私が身体ごと売られた会社‪……‬だよね??



<オペレーター>

『皆様への依頼は、この基地へ襲撃をかけ、どういった物資が搬入されたのかを調査するのが目的の、『威力偵察』です。


 基地侵入後は、配備されたマシンウォーカーMWや戦闘車両をはじめとした戦闘メカ多数を破壊して、何を隠しているのかを炙り出してほしいのだそうです。

 帰還の指示は、追ってこちらから通信を入れます。

 それまでは基地を襲撃し、戦闘を続けていただきます』



<僚機1>

『ちょっと待ってよ!!

 それ‪……‬それって‪……‬!!



 『実戦』じゃん!?!』




 あ、ようやく私が言いたかった事を誰かが言ってくれた。

 でも機体のコンピュータや、そんな人の無線名が僚機1ってなんだよ、失礼だろ。


 そんなことよりこのオペレーターさんの通信の意味はつまり、『戦え』ってことらしい。


 昨日今日で操縦法も覚えたばかりなのに、

 実際の、戦場で、戦え、と。



 嘘でしょ‪……‬??



<僚機2>

『私達、まだこの機体に乗って1日ですよ!?

 乗り方覚えても戦うに速すぎじゃないですか!?』



 ────私の周りを囲むモニターとものすごく狭い座席の外、


 私を囲む鋼鉄の壁は、胴体の形。コアパーツって名前。

 乗る前に、その姿は格納庫で見ていたんだ。

 ガトリング法が付いた前後に長い胴体に、左右に両手という感じに機械の腕が垂れ下がってて、真下には2つの脚が生えている。

 目の代わりに上下二つ並んだカメラ、そんな顔を模した鋼鉄の頭部。



 私は、今、

 人型兵器に乗っている。



 今まで、テレビのニュースでしか見たことがない、街中のアヒルさんみたいな脚に丸い身体のお巡りさんシティガードのロボットじゃない。


 そのニュースでお巡りさんの鳥みたいな脚のロボットを破壊して、爆発しまくる街中を飛び回っている方の人型兵器!!



 お巡りさんのが、マシンウォーカーMW

 いっぱいいる普通のロボット。

 じゃあ‪……‬この乗っているのはなんだっけ?



<オペレーター>

『誠に申し訳ございません。


 失礼ながら‪……‬これが、皆様の『スワン認定試験』です。

 与えられた機体‪……‬機動兵器『エクシードウォーリア』、略称『eX-Wエクスダブル』を使い、


 それができて初めて、あなた達はeX-Wを操る傭兵である『スワン』と認められます』



 ‪……‬言っている意味はわかるけど、意味がわからない。



 つまり、私たちは、


 昨日、ある程度レバーとペダルの位置を覚えたばかりのこれで、今から戦いに行くのだ。




「嘘でしょ‪……‬!?」





<僚機1>

『ふざけんなッ!!

 死んだらどうするんだよ!?!』



<オペレーター>

『‪……‬‪……‬申し訳ありません。

 その時は、脳だけが無事ならば強化手術にて生き残れます。

 ですが、言いにくいのですが‪……‬その、その時は、そのまま死んでもらう以外にありません‪……‬』



「‪……‬冗談、ですよね‪……‬???

 だって、だって私達、初めて乗ったのと変わらないのに‪……‬!!

 もう、戦うなんて‪……‬無理ですよ!!

 無理、無理ぃ!!!」



 当たり前だ。このえくなんとかっていうロボの銃の撃ち方だっておぼつかないのに!!


 私は思わず、なんかちょっと考えるだけで開けた無線通信で相手のオペレーターに向かって叫んでいた。



<オペレーター>

『重ねて申し訳ございません。

 我々トラスト、その傘下にいるあなた方傭兵は、基本的に習熟訓練のような一番費用がかかることは省かれます。

 故に、どの陣営の正規軍を動かすより遥かに安く、

 決して正規軍には出来ない作戦行動を依頼することができる。


 ‪……‬‪……‬失礼ながら、傭兵スワンとはそういう物です。


 ごめんなさい。ここで下手に生存率を上げるよりは‪……‬その後を考えれば、ここで死んでしまう程度ならば、皆さまは死んでしまった方が幸せなのです‪……‬』



「え‪……‬?」



 なにそれ‪……‬!?


 思っていた答えと違った。

 いや‪……‬いやちょっと待ってよ‪……‬!?


 そんなの絶対おかしいよ‪……‬!

 これじゃ‪……‬私達‪……‬アレだよ、えっと‪……‬!



<僚機2>

『私達‪……‬『捨て駒』、ってコト‪……‬?』



 捨て駒。捨て駒。

 詳しい意味は忘れたけど、たしか、一番近いのは、使い捨てのカイロだとか、後は紙コップとかティッシュみたいに扱われる事。



 ‪……‬おばあちゃん、あんまり覚えていなかったけど、教えてくれてありがとう。

 でもね、今は知りたくなかった。思い出したくなかった。




「う‪……‬うぅぅぅ‪……‬‪……‬ひっく‪……‬うぅぅぅぅ‪……‬!」



 おばあちゃんが死んだ時も、怖い人に借金の事を怒鳴られたときも泣かなかった。泣けなかった私を捨てたお母さんと同じぐらい薄情な私は、今初めて泣いてしまった。

 昔からそうだよね、自分のことだと泣いちゃう私。

 そんな私が嫌いだった。


 でも、でもね、

 いくらなんでもコレは酷すぎると思うんだ。


 なんで?なんでこんな目に遭うの?

 私が、私が顔も思い出せないお母さんの借金を背負ったから?

 ちゃんと返すよ、返すから辞めてよ!!


<僚機2>

『依頼の撤回を!!こんなの私達の手に負える物じゃない!!

 もっと簡単なものに変更はできないの!??』



<オペレーター>

『変更は不可能です』



<僚機1>

『し、失敗したら‪……‬どうすんだよ‪……‬?』




<オペレーター>

『‪……‬『飛べる白鳥もいれば、飛べない白鳥もいる。最悪は、飛んだ瞬間撃たれるカモになること』』



 何言ってんの、この人。急に何を?



<オペレーター>

『捨て駒となって死ぬか、それともこの戦いを生き延びてスワンとなって過酷な戦場に繰り出し、莫大な報酬を得て生きるか、

 今、皆様に存在する選択肢はそれだけです。



 この試験にキャンセルも2度目も存在しません。



 重ねて申し訳ありませんが、あなた達にとってこの戦場が、選定の為のものとなります。

 選定されなければ、死ぬだけとなりますのでご覚悟を。


 ‪……‬それも無情とは思っております。

 どうか、生き残る事を祈り、せめてその戦闘に対しオペレーターとして依頼遂行のサポートを全身全霊でさせていただきます』



 ─────息が出来ない。

 別に、このクソ狭い場所、コックピットに酸素がないとかじゃない。

 吊り下げられて揺られるここは、


 たった今、この場にいる人間達の棺桶に‪……‬


 いや、お墓に変わった。




 まだ、死んだおばあちゃんのお墓も建ててないのに!!

 こんな話ないでしょ!?!なんで私が死んだおばあちゃんより先にお墓にいるんだよッ!?!!

 なんで‪……‬!!


「あ、う、あ‪……‬!!!」


 カチカチ、って音にようやく気づいた。

 私の、歯が鳴る音だった。

 震えてる。私が気づかない内に、震えていた。



「はーっ‪……‬!はーっ‪……‬!!」




<僚機1>

『ふざけんなッ!!!わけわかんねぇッ!!!

 意味がわかんねぇ!!!なんでだよ、なんでこうなってんだよッッ!?!?!」



<僚機2>

『サポートがあるなら死なないって言うの!?!

 ここにいる人間は!!このロボット歩かせられるかどうかも分かんないぐらいのど素人なのに!!!』



<僚機3>

『‪……‬‪……‬クククク‪……‬あははははッ!!!

 良いじゃないか!!最高だ!!!

 これで私の力を見せつけることができる!!!』



 なんか言ってる。なんか言ってるけど‪……‬意味が理解できない。

 全部が全部、遠く聞こえる。


 どうしてこうなったの?

 俯いて考えるのはそれだけ。

 おばあちゃんのせい?顔も知らない親の借金のせい?

 落ち着こう。落ち着いて。


 もう帰れない。帰れないなら深呼吸。うん、ちゃんと両手で操縦桿?ってヤツを握ろう。



<僚機1>

『素人だけで戦えるかよ!?』


<僚機3>

『素人も玄人も関係ない!!

 勝てば良いのだ!!勝ったものが強者!!

 この世の真理よ!!』


<僚機2>

『路上の喧嘩じゃない!!

 そんな理屈が通じるわけない!!』



「お、落ち着こうよ、みんな‪……‬?

 ほら、素人出しても良い戦場だよ?

 きっと、そんな危険な場所じゃな─────」





 ズドォォォォン!!!


 爆音。真っ白な景色、聞こえない‪……‬アレ?

 世界が斜めだ‪……‬ぐわーんって、ブランコみたいに揺れてるなぁ‪……‬左右に、私が‪……‬機体が?




<オペレーター>

『対空砲の射程圏内です!

 みなさん、作戦領域に到達いたしました』



 ハッとなって、外の光景を見てみる。

 本当にブランコみたいに揺れてるじゃん!!

 なんかうるさいブザーなってるし!!

 周りの広いモニターには、なんだか基地っぽい場所がもう‪……‬今空だから、足元あたりに滑走路みたいなのが見えてる感じの位置って分かるよう映っている。



<僚機3>

『ははははッ!!

 良い状況だ!!

 私の機体を投下しろ!!一番槍はわ』




 ズドォォォォン!!!


 爆音の正体が、今隣で炸裂したロボのおかげで分かった。

 花火みたいに打ち上がった、砲弾が爆発したんだ。


 そっか、私はなんか運が良かったんだ。


 砲弾が当たると、あの人のロボの上半身みたいにパッカーンと弾けてしまうんだなって。


 あはは‪……‬死体、あるのかな‪……‬あんなはじけちゃって‪……‬!



<オペレーター>

『作戦を開始します。

 全機投下準備』



 なんでこの人、

 こんな機械みたいに淡々と、そんな指示を言えるの?



<僚機1>

『ふざけんな‪……‬ふざけんなよ、こんなの!』


<僚機2>

『ありえない‪……‬もっと文明的な場所でしょ、ここは!?』


「‪……‬‪……‬あはは‪……‬もう選択肢って無いんだ、私‪……‬」


 乾いた笑いが込み上げてくる。

 けど、そんな私をよそに、何か端の方でボタンか何か光ったと思えば、周りに映る外の光景が変わり始めた。


 いっぱいの線、変な数字、目の前に円とバッテン、銃とかなんかの絵にまた数字‪……‬何これ?

 あ、コレって確か‪……‬!




<機体AI音声>

《システム、起動》




「ああ、これ戦うモードになるやつだ‪……‬!!」



 思い出したのはいいけど、コレってつまり‪……‬!



<オペレーター>

『各機、機体降下開始。


 ご武運を』



 フワッと、足元が消えたみたいな感覚。

 落ちたね。うん。落ちてる。




「あ、まだ心の、

 準備まだだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?!?!??」




 こうして、私は戦場に落とされた。

 周りにはさっき会ったばっかりで名前も知らない人たち。



 走馬灯で思い出したな、今乗ってる『棺桶』の形。


 右腕にはライフル、左腕になんか分からない小さい武器、

 右肩がたしかレーダー、左肩にミサイル、


 武器覚えてて偉いぞ私。

 そんな人型兵器、2速歩行のロボット‪……‬


 エクシードウォーリア、eX-Wエクスダブルに乗って、戦場へ落ちていった。



 始まってしまうんだ、借金のせいで売った身体で、

 売ってしまった私自身を、

 大鳥おおとりホノカっていう、おバカで何も取り柄もない人間を使って、戦場でお金を稼ぐ仕事が。



 ねぇ、でもね?

 ごめんねおばあちゃん、私、数秒後には、また会ってしまいそう!



「やだぁ‪……‬助けて‪……‬勘弁してよぉぉぉぉぉぉ!!」



 真下には地面だけじゃなくて、

 あの、マシンウォーカーMWとかいう人型じゃないやつが、両脇の銃を向けてた。



「冗談でしょ、操縦方法忘れたんだけど、いやぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?!?」





           ***

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