吊った私の翼と、0と1の色

生焼け海鵜

第1話

 地面が2つある。そう私は思った。

 ただ、それは鏡のように模された物で、どちらが本物か全くと言って良いほど分からない。


 天井に居る私が笑った。同時に、自分の口元が緩んでいると気付く。

 彼女は前を向いて歩き出した。同様に私も。

「人生って軌跡みたいね。条件を集めないとエンドを迎えられない、アクションゲームでもノベルゲームでもある不思議な作品」

 そう私は言った。

「それってどういう意味?」

 と私は問いた。


 風景が変わった。それは夜空の星のもと街頭に照らされた道。

「全ての分岐点は、コンマ数パーセントの確率かもしれない。人はそれを"無い"と言っても差し支えないと言う。つまり未来は無い物って意味さ」

「ありえない。なら私達は何故歩いているの?」


 私が立ち止まった。同時に私の足も立ち止まる。

「だから不思議なのさ。私を照らしている街頭もいずれ壊れる。でも"今"壊れるとは思わないだろう?」

「そうね。外観も綺麗で真新しいもの」

私は空を見た。向こう側に居る私も同様に。そうして私は口を開く。

「でも、微塵な確率で、それは壊れるんだ。壊れると思うから壊れるんだ。思うと言う事は、それに理由があると言う事。再度、見てごらん」

「本当だわ。裏側の配線が今にも切れそう。これは今すぐにでも、壊れてしまいそう」

 そしてまた歩き出す。


「そう簡単に街頭は壊れたりしないよ」


 歩いているうちに、ビルが見えてきた。数多の光が灯ったビルの村は、夜を否定するかのように輝く。


「もしも街頭が壊れたとして、二つの言い方が出来る。"あの時は、壊れそうじゃなかったが、時間が経って壊れるにまで値した"それと、"あの時の、脆かった部分がやっぱり駄目になって壊れてしまった"と言える。君には些細な問題かもしれないが、少なからず人生干渉しているには変わりない」

「まるで分からない。もっと噛み砕いて話してくれる?」

 空からエンジン音が聞こえた。


「壊れたのを見た君は、トイレの電球が切れかけている事を思い出すかもしれない。つまり、それを買いに行くんだ。出かけると言う事は事故に遭う可能性を上げる事に繋がる」

「確かに、でも大きな事ではない気がする」


 爆発音が聞こえた。同時にサイレンも。

 それでも私は歩いている。


 私の世界は、火の海で硝子が降っていた。

 私の世界は、夜の海で星々が降っていた。


「バタフライエフェクト。その名は聴いたことはあるかい?」

「いいえ。ないわ。だって生活で使わないもの」


 私の世界は、変わらずの平和な世界。でも上の世界は朱く騒がしい。


「この話はね。蝶が羽撃いた風でサイクロンが出来るという話さ。極東では例えるならば「わらしべ長者」に似ている」

「ふーん、何だか壮大ね」


 私は足元の石を蹴って歩いていた。上の私もまた同様に。

「この言葉を聞いた君は、夢の言葉だと思うかもしれない。だが、君の発言1つで一つ以上の生命が消えるかもしれない」

「大丈夫。問題無いわ。私は凡人よ、為し得る事全て、凡人の枠組みに収まると思うの」


 上で大きな音が聞こえた。ビルが倒れているような轟音。でも私の足は止まらない。


「これでは、未来を見通せると思わないかい?」

「それは何故?」

また歩みを止めた。そして上を見上げ目が合う。


「全ては理由がある。だとするならば、未来も過去も殆ど正確に予想出来るのではないか?」

「確かにそうね。理由と原理と状況と感情は全て環境によって齎されるわ。確かに、全て辻褄の合う未来と過去になるわ」


 私は上を見ながら歩き始める。


「人はそれをラプラスの悪魔と呼んだ」

「ラプラスの悪魔?」


「そうさ。でも我々はそれを完全に否定した。万物を想像する粒が不確定なんだ」

「不確定?」


「つまり、分からないんだ」

「おかしな話ね」


 情景が変わる。そこは海の上。

 私には翼が生えた。上は黒。下は白。


「おかしな話だね。ならば始まりと終わりは何だい」

「難しい質問ね。エネルギーを全て消費したら終わりなの?」


「そうかも知れない。でも我々には証明が出来ないんだ。全ては諸説だ」

「面白そうね。話してくれる?」


「ああ、いいさ」


 私達は海を歩く。時折、海に潜ってその一本道を散歩した。


 上は、どよんだ黒い海。

 下は、透き通る青い海。


「どうだい? 面白いだろう?」

「ええ、とっても面白いわ!」


 始まり無き終わり。

 終わり無き始まり。


 白と黒。または、RGBとNull。

 終わりは始まりで、始まりは終わりだ。


 この無限とも思える時間は、黒を終わりとする、減算方式なのだろうか?


 または、白を終わりとする、加算方式なのだろうか?


 今この時を、五十パーセントだとするならば、文明は開化した白で終わるのだろうか? それとも、まっさらなNull色、黒か。


 君は反射なのかい? 発光なのかい?


 上の世界は白色で、文明が輝いた世界。

 下の世界は黒色で、文明が萎んだ世界。


 白色は幸せ、黒色は終り。

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吊った私の翼と、0と1の色 生焼け海鵜 @gazou_umiu

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