第11話 交易の街、ジェロマッカ
乾いた峡谷と川の流れる峡谷の合流点に位置するジェロマッカは、水運と陸運の中継地点として多くの商人や旅人に利用されている。様々な品物で溢れる豊かで賑わいのある街だが、王国内ではかなり珍しい、開けた地表面に家が立ち並んでいることこそがこの街の何よりの特徴だった。街の付近には
チコはジェロマッカに着くなりすぐに宿を抑えると、幾らかのお金だけを持って真昼の商店街へと繰り出した。
そこには岩をくり抜いて作られた家や赤みがかったレンガ造りの家が混在しており、濁った色をした硝子窓たちが痛いくらいに日光を反射させている。しかし眩しいのは大通りだけで、一つ脇道に入るとそこはまるで別世界のように暗かった。所狭しと建ち並んだ家々に日光が遮られ、深く掘り下げられた道は細く狭く薄暗い。そんな薄暗い小道にまで多くの店が立ち並んでいる景色が、この街の活気の良さを物語っていた。
チコがまず向かったのは、この街に一つしかない鍛冶場だった。鍛冶場に到着するなり、チコは外から丸見えになっている作業場を覗き込む。
「お兄さん、売り物はあっちだよ」
チコに気がついた鍛冶師がチコを追いやるように手を払ったが、チコは気にせず作業場を舐めるように見回した。
ぱっと見たところ、この鍛冶場では街の人が使う消耗品を作っているようだった。おそらく壊れた農具や汚れた調理具を回収し、溶かしてまた何かを作り上げているのだろう。出来上がるものは粗悪だが、庶民にとってその安さはさぞ魅力的に違いなかった。
「大したもの作ってないな」
チコは思ったままに呟いた。
「酷えやつだな。今来たばっかりで何がわかるんだ。あっちへ行け」
チコの声を聞いた鍛冶師は腹を立ててそう言うと、手にした鉄クズをカンカンと打ち鳴らして威嚇した。
まるで獣じゃないかと鼻で笑いながら、チコは言われた通りその場を後にした。
鍛冶場に併設された売り場にはやはり屑鉄の再利用品がずらりと並んでいた。しかし、中には随分と質の良いものが混じって置かれている。
「オーレンで作られた鉄鍋だ。値段は高いが長持ちするぞ」
店番の男が鼻高々に言った。
「鉄鍋に興味は無いんだ。武具はないのか?」
チコはオーレンの外の人間がどんなものをどんな値段で買っているのか、調べておきたかった。
「おっと失礼、あんた
そう言って案内された部屋には、大小様々なナイフ、槍、斧、出刃包丁のようなもの、ありとあらゆる武具が所狭しと並べられていた。弓とボウガン、それと矢も少ないながらに置かれているが、この店のメインは銀色に輝く刃物たちのようだ。
その中でも一際目立つように置かれているのは黒い刀身の大ナイフ、チコ自身が作った物だ。チコは自分の品が看板商品のように置かれていることに心を震わせたが、その値札を見て途端に顔を曇らせた。
「これがたったの銀貨十九枚? 冬用のコートと同じ値段だなんて、そんなわけあるか」
「これが安いってバカ言うな。これでもだいぶ値を下げて、仕入れ値より安くまでしてるんだぞ。それに普通のナイフで銀貨十枚、冬毛のコートなんてせいぜい銀貨五枚かそこらだろう?」
店番は驚いてそう言うと、チコの服装をじろじろと見つめた。
「あんたそんなに金持ちなんか?」
「そう見えなくて悪かったな」
チコは店番を冷たくあしらうと、銀貨十七枚のサーベルを手に取った。刀身に派手に模様が彫られているだけで、その他ははっきり言って凡作だった。刃のしなりは悪く、おそらく強度もたいしてなさそうだ。柄は持ちやすくはそれなりにしっかりと造られているが、柄と刃の繋ぎ目には僅かだか隙間がある。
「これ、折れやすいし刃こぼれもしやすい。繋ぎ目が緩いから力が伝わりにくい。間違っても狩人に売っちゃあ駄目な代物だ。こんなやつと銀貨二枚しか違わないなんて、甚だおかしい話だよ」
チコはサーベルを棚に戻すと、今度は別のナイフを手に取った。
「見た目にセンスはないが作りは十分しっかりしてる。俺なら銅貨五枚をプラスしても買う」
またまたチコはナイフを棚に戻すと、今度は槍を手に取った。
「こんなのはっきり言って使い物にならない。銀貨二枚がせいぜいだろ」
「何でそんなすぐに分かるんだ、振りもしないで――」
店番は目を丸くして言った。
「俺は鍛冶師だ。商売をするならもっと品物のことを勉強したほうがいいんじゃないか?」
チコは呆れた声で言った。
「俺ならその大ナイフに銀貨二十七枚の値を付ける。分かってるやつの目に留まればすぐ買い手がつくだろうが、安いままじゃ貴族にも貧乏人にも相手にされないぞ」
チコは商品棚を物色しながらペラペラと言葉を並べた。それから手頃な護身用ナイフを手に取ると、値札を見ずに銀貨七枚を店番の手に押し付けた。
「な……、これ銀貨五枚……」
「銀貨七枚が相応だ」
困惑する店番に見向きもせず、チコはその店を後にした。
もっとましな商売をしてくれないと、俺の作品がいつまでたっても評価されないじゃないか。
自分のナイフが過小評価されていたことは腹立たしかった。だが、そもそも値段の付け方を分かっていない様子だったことは、少しだけだが救いだった。
チコはすぐに気を取り直すと、再びジェロマッカの商店街を練り歩いた。
さすがは貿易の拠点なだけあって、この街はいくら歩いても退屈することはなかった。服飾品はどれも見た事のない模様と作りをしているし、オーレンには無い鮮やかな色味をしている。珍しい鉱石をあてがったブレスレットやネックレスはどれも値が張っていたが魅力的だった。普段はお目にかかれないような珍しい品々は、チコの足を幾度となく止めては時間を浪費させていた。
日が少し落ち始めた頃、チコは薄暗く細い道から枝別れした先の地下へと続く階段を見つけた。地上から十メートルは下るだろうか、ランプのほの明るい光がぼんやりと照らす石の壁が、何とも言えない怪しげな雰囲気を醸している。身体の奥底の探究心のようなものがくすぐられたチコは、吸い込まれるようにその道を下って行った。
ふと、チコはある店の前で足を止めた。窓のないその店の木の扉には、ドラゴンにナイフを突き立てたような、紋章のような絵が描かれている。
武具屋か何かかな⋯⋯?
チコは木の扉を押し開けると、中の様子を伺った。
「へいらっしゃい。扉開けたんなら一杯飲んでいってくれや」
間髪入れず、店主のような人間が声をかけてきた。どうやらこの店は飲み屋だったらしく、昼間には似つかわしくないほどにアルコールの匂いが漂っていた。
チコは飲む気など更々無かったのだが、店員が手際よく席を準備する姿が見えた手前でただ引き返すのを気まずく思い、仕方なく立ち寄ることにしたのだった。
店内は意外にも広く、チコの他に数名ほどの客がテーブルで酒を飲んでいた。
「兄ちゃんどちらから?」
歳の割に疲れた声で、初老の店主が声をかけてきた。
「オーレン、兵士たちと共に下ってきた」
通されたカウンター席に座りながら、チコは答える。
「ああ、そうかい。王都のお金がたくさん回ってくるからありがたいよ」
「兵士がそんなに金を払うのか? たいして持ってないだろ」
「奴ら、金の使い所が酒くらいしか無いからねぇ、俺らには上客なんだ。ほいこれ、ロボグリートのビール」
チコが注文しようとする間もなく、店主は一杯のビールをカウンターに置いた。
チコは多少戸惑いながらも、ビールの入った木のジョッキを受け取った。
「美味いぞ。北のビールだ。苦味が強いが雑味は少ない、洗練された味だ」
こちらをほとんど見ることなく、店主はうんちくを垂れた。
「おまえさん、名前は」
「チコ。姓は無い」
そう言って、ビールを少し口に含む。
「あんたロドリコ・エインズワースの養子か」
身元がすぐ分かったことに、チコは少し驚いて目を丸くした。
「驚くことはねぇ。この地域は姓が無いやつの方が多いってのに、わざわざそれを言うやつは普段からいい身分に囲まれてるか、姓がないことを不服に思ってる奴が言うことだ。身なりもかなり良いもの着てるようだし、普通の人じゃないとは最初から思っていたさ」
やはりこちらを見ることなく、作業をしながら淡々と喋っていた。
「じーさん、ジャルレのワインをくれ!」
付近のテーブルから店主を呼ぶ男の声がした。返事ひとつもせず、店主はワインを樽からつぎ始める。
「聞いたか? あいつ、ロドリコ様のお荷物だってよ」
嘲笑するような喋り方をしたのは、ワインを頼んだ男だった。
「馬鹿、よせ。曲がりなりにもオーレンの領主の親類だぞ、お前の立場が無くなるぞ」
隣の男が小声で制したが、声を発した男は全く気にしていないようだった。
「俺はもうオーレンの家は捨てたんだ。関係ねぇよ」
そのテーブルには男が四人座っていたが、そのうち三人がチコを見てニヤニヤと不敵な笑みを浮かべていた。
チコは視線に気づくと、途端に胸焼けしたように息苦しくなり、それと同時に怒りが湧いてきた。
「なんだよ。俺がここにいて文句あんのか」
チコは眉間に皺を寄せて男達を睨んだ。その表情を見て、男達はまた更に愉快そうに笑った。
「おうおう、噂通りの好戦的な生意気坊主だな」
「知ってるぞ、あとを継げなくて辺りに威張り散らしてるって。どうしてこんな所にいる? まさか追い出されたのか?」
チコは男達の態度に困惑した。オーレンにいた時は、せいぜい小声で噂話や陰口を叩かれる程度の仕打ちしか受けてこなかった。義理であれ大親方の息子だもの、ここまで大っぴらに嫌味を言ってくることは有り得なかったのだ。
「追い出されてなんかない。貧乏人は低俗な噂話がお好きなようで」
チコはなるべく落ち着いた風を装ったが、怒りから声が僅かに震えてしまった。
「ははっ。怖いのか坊主」
「違う、図星なんだろ。ろくに議会に出席しないから困ってるって聞いたことがあるぜ。そうだろ坊主」
「違うって言ってんだろ。何がそんなに可笑しいんだ」
嘲笑的な笑いが収まらないことに、チコは語気を強めて放った。
――ダンッ!
カウンターから包丁を叩きつけたような鈍い音が聴こえたかと思うと、続けて宙を舞うワインの小ダルがチコの目に入った。
それは男達のテーブルめがけて飛んでいくと、激しい音を立てて男達にぶつかった。
「いってぇ! 何すんだじじい!」
椅子から転げ落ちた男達は、顔を手で抑えながら口々に声を荒らげた。
店主の男は特に声を荒らげるでもなく、静かに睨みをきかせた。
「気分が悪い。今すぐ出ていけ」
その眼からは、殺気のような只ならぬ雰囲気が感じられた。男達は店主の言葉に口を噤むと、銀貨を幾つかテーブルに置いてそそくさと店を出ていってしまった。残ったテーブルとその周りは、割れたグラスと皿、零れたワインで酷く荒れていた。
「おい、ここ片付けてくれ」
店主はカウンターの奥にいた青年に声をかけた。
「やり過ぎだよじいちゃん」
「こんぐらいしねぇと馬鹿には伝わらん」
「はいはい」
青年は嫌々ながらに返事をすると、テーブルの後片付けを始めた。店主はというと、何事も無かったかのように別の作業を黙々と行っていた。
チコが手際よく後片付けをする青年をじっと見ていると、青年と何度か目が合った。
「そのビール、美味いよ」
青年はチコの前に置かれたロボグリートのビールを指さした。
チコは気まずそうに頷くと、ビールをぐっと煽った。突然の出来事に、怒りはすっかりどこかへ行ってしまっていた。
「美味い。でもオーレンのやつとは全然違う味だ」
「そりゃ原料も製法も違うからね」
青年は床に散らばった皿の破片を拾いながら言った。
「なぁ、気を悪くしたら言わなくて良いんだけど、なんであんなことを言われてるんだ? キミ、オーレンの大親方の息子なんだろ? そんな身分なのにどうして……」
青年は興味深そうに尋ねてきた。純粋な眼差し、悪気はないようだった。
「オーレンの大親方の嫁さんが難産だったのは知ってるか? 二度子供を産もうとしたが上手くいかなかった。それで、オーレンの跡取りは大家方の側近かその家族になるって噂がたったんだ」
幼少期に聞いた話だ。喋りながら過去の嫌な思いが蘇り、チコは眉間に皺を寄せながら喋った。
「それで、側近同士で小競り合いが始まったらしい。皆が跡取りになろうと躍起になっていたんだけど、……オーレンでは現当主が生前のうちに後継者を決めるんだが、その後継者を決める儀式を行う直前に俺が養子として引き取られちまった。で、みんなの努力はパー。孤児でなんの縁もない俺に突然跡取りの場を奪われたから、オーレンの皆が俺を妬んだ」
「そんなことで、今の今まで陰口を叩かれているのか? 君は全く悪くないじゃないか」
「まぁ、ここまで経っても言われるのは俺の態度が悪かったからだろ。でも、俺が継いだ直後にパウロ――息子が無事に産まれてすぐに後継権が移ったから、もう関係ない話なんだけどな」
「跡取りが産まれるまでの時間稼ぎ。そう聞いたことがある。オーレンの跡継ぎの儀式は当主が三十六歳になったら必ず行われる決まりだったな」
店主が不意に口を挟んだ。
「その通り。大親方は時間稼ぎのことを否定してるけどな」
チコはそう言って、ビールをぐびぐびと腹に流し込んだ。酔っていなければ口にしたくない話題だった。
「そんな不条理な事があっていいもんか。それなら悪いのは大親方だ。大親方は君を庇ったりしなかったのか?」
「それをしてくれていたら、俺は今こんなにひねくれちゃいないよ」
チコは深くため息をつくと、ビールジョッキを高く掲げた。店主はわかってたかのように、新しいビールをカウンター上にどんと置いた。さっきのジョッキよりも一回り大きく、心無しか多めに注がれているようだった。
「そうか、嫌なことを聞いてごめん。ありがとう」
青年はそう言うと、割れたグラス類を抱えてカウンターの奥へと消えていった。
それから暫く、チコはビールを勢いよく口に運んだ。
思えば、自分のこの境遇について誰かに話したことがなかった。全く知らない土地だからこそ話せたことで、それがチコの気持ちを少しだけ軽くさせてくれたようだった。
――王都に行けば、もう俺の事を悪く言うやつはいなくなる。
チコはそう自分に言い聞かせながらビールを飲み続けた。
「そういえば、あんたはドラゴンを見たのかい? 二体も出たって聴いたぞ」
暫くして、店主が不意に尋ねてきた。
「サーペントなら目の前で見た。あんな奴もう二度と見たくないね」
酒で頬を赤らめながら、チコは答えた。チコはこの時すでに五杯は飲んでいた。
「オーレンには行ったことはあるが、あんなところにサーペントが出るとはな。信じられん話だ。あんたは闘ったのか」
「弓矢で少しだけ」
「ほう、弓が上手いのか?」
「いや、俺は鍛冶師だから全然。自作のナイフを使おうとしたけど、相手が大きすぎてそもそも近付けなかったし」
「はは、大きすぎるサーペントか。ドラゴンにナイフで挑むなんて、大きさ関係なしに無理なことだろう」
「まぁね⋯⋯。普段から獣を狩っていれば違ったかもな」
「なんだい、その腰に据えたナイフは飾りかい」
「いちおう武術と剣術は習ってる。そこらの兵士くらいには闘えるさ」
「いい度胸だな。謙遜しても一人前の兵士と同等か」
店主は笑うことも馬鹿にすることもなく、相変わらず淡々と喋った。
「ところで、龍の遣い魔ってのをあんたは見たのか?」
チコはアンリについて咄嗟に聞かれたことに動揺しつつも、落ち着いて答えを返した。
「俺は見てない。ただの噂じゃないのか」
ほとんど声色を変えることなく嘘をついた。
「ほう……、箝口令ってやつかい。律儀だねぇ、君は」
まるで顔の横に目がついているのかと思うほどに、チコの感情は読み取られていた。
「オーレンの長の息子であり、サーペントと戦ったお前さんが奴を見ていないわけがないだろう。悪魔を見たうえ、それを口止めをされていると俺は受け取っておくよ」
店主の言葉からして、アンリがサーペントを操ったことを既に知っているようだった。果たして彼がたまたま知っているのか、既に噂が広まっているのかは分からない。ただ、アンリを見たことがないフリをしたのは、流石に悪手だったようだ。
「ああそれに、悪魔は今この街にいるんだろう?」
続けて店主が放った言葉に、チコは動揺を隠せなかった。アンリを王都に運んでいることは、兵士とごく僅かしか知り得ていない情報のはずだった。
「正解か。やはり君は分かりやすい」
そういうと、店主は少しだけ笑みを浮かべたように見えた。
「奴は北部の要塞に連れていかれた。ここには来ていない」
「嘘は付かなくていい。さっき来た兵士が酔っ払って話してたのさ」
「兵士が喋った? まさか、誰がそんなことを」
「はは、箝口令なんて所詮そんなものよ」
店主はそのとき初めて楽しそうに笑った。
「箝口令など、効果ははじめのうちしかないさ。人の口に戸は立てられない。まさに、今の君のようにね」
店主の無感情のジョークは、チコの心に少しキツく響いた。チコの言葉は、暗に店主の言ったことが正しいと伝えてしまったようだ。
「まだ青いあんたにアドバイスをやろう。きっかり嘘を突き通すのは無理だ。真実と嘘を織り交ぜて話せば、誰だって自然に嘘がつけるもんだ」
そう言って、店主は他の客と話を始めてしまった。
「おっさん、お代は?」
少ししてから、チコは店主に尋ねた。
「銀貨一枚と銅貨六枚だ」
「意外だ、もっとするかと思った」
「うちは見ての通りなもんだから、新規の客より常連さんが欲しいのさ。それに、少し騒がしくしてしまったからな」
チコが銀貨二枚を渡すと、店主はロクに確認もせずにお釣りを渡してきた。チコはお釣りが足りているかどうかぼやけた頭で確認する。
「余分だったら貰ってってくれ、勘定は苦手だ」
そう言うと、店主は背を向けてそそくさと作業に戻ろうとした。
「おじさん、この店の名前は?」
チコは去り際にそう聞いた。
「この店に名前なんてないよ」
店主はこちらを振り向かずに、相変わらず淡々とそう言った。
チコが店を出てすぐ、店主は青年を呼びつけた。
「なんだよじいちゃん。もうテーブルは片付けたぞ」
店主は他の客に聞こえぬよう、小声でその言葉を発した。
「奴はこの街にいると伝えるんだ。鳥は使うな、足で行け」
「嫌な仕事。もっと時間をかけて片付ければ良かった」
青年のその言葉に、店主は眉間に皺を寄せた。ちょうどワイン樽を投げつけた時と同じ顔だった。
「軽口を叩くな。今すぐに、日が変わる前に伝えるんだ。明日には奴らは居なくなる」
あまりの形相に、青年はただ黙ってこくりと頷いた。
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