✿2 秘密のデイジー

 校舎を出ると、あかね色はうんと二人のかげをのばした。

 羽生が、一歩右足を出すと、かげも同じくついてくる。

 神が先に二歩行くと、とんとんとかげも行く。


 風が、二人にふゆりと語りかける。


 あなたは、どう想っているの?

 あなたは、どうこたえるの?

 あなたは、どうささやくの?


『去年まで、私達、小学生で全然周りの目なんか気にしていなかった……』


 風にささやいたのは、羽生だった。

 どこかへ気持ちが走っていた。

 胸がとくんっと波打ち始めた。


「お? それって、ひなぎくさんが、直くんに初めて気持ちを伝えようとした、二巻の真ん中、『幼なじみ』だよな。覚えているなんて、志澄香さんはすごい」


 二人で、校庭に立ち止まっていた。

 時よ止まれと目をつむっていたが、ぱっと笑顔をさかせて、羽生は心を伝えた。


「うううん、本当にそう思ったの。今、中学に入ってまだ二学期なのねって」

「小学三年から同じ組だったものな。オレがいつも追いかけていたみたいだったよ」


「あの『デイジーにささやいて』って、私のセリフをうばっているみたいだったのね。だから、気になって読んでいるの」

「それは、オレも同感。つらかったらごめん。オレは、直くんの一番気になっているセリフな」


 うほんとせきをして、神が学ランのえりをとめた。


『ぼくがオリーブの木にさそった時、ひなぎくさんと交かん日記を始められないことが分かった。ショックだったよ……。図書室にばかりいるのだもの……』


『目が見えていないなんて思わなかった』


 神のセリフに羽生がかぶせた。


 羽生は空をあおいで、ひなぎくのセリフをそらんじた。


『ごめんなさい……。今までだまっていて、ごめんなさい……。図書室では、デジタル録音図書DAISYデイジーを楽しんでいたの……』


 羽生は、主人公の気持ちになっていた。


『デジタル録音図書DAISY? そうか、ひなぎくさん、そうだったんだね……』


 羽生がどこかへ行ってしまいそうだと神が感じた。

 神が、羽生のかげをふんだ。

 羽生は足を止め、長いかみとスカートを風に任せると、小さくなみだを散らした。


「あっ。うん、私も視力が弱いの。だからかな、小さいころ読んだマンガを音で楽しめないかって『デイジー!』に入ったの。神くんもいてくれたしね」

「そうか……。志澄香さんの赤いふちのメガネは色々と言われたくないから?」


「そうね。地味子ちゃんだから、中学に入ったら、メガネだけでも可愛くしようと思ったの」

「似合ってるよ。な、なんてね!」


 神がダッシュして、校門で消えてしまった。

 羽生がぱたぱたと門のとびらまで行くと、ひょいと現れた神におどろいた。


「今日も電話しよう、志澄香さん」

「四巻を読んだら、私からお電話するね」


 ◇◆◇

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