デイジーにささやいて
いすみ 静江
✿1 中一の四角関係
後ろから、頭にぽふんとその最新刊を受け取った。
ふんわりといいかおりに包まれて、顔がぽーっとなった。
羽生は、こんなことをするのはあの人ではないかと、本を胸にだきながらふり向く。
「ま、また変なことをして。神くん。だれか見ているわ。それに、ここは中高いっかん
羽生の短い前がみ、高く結ったこしまであるお人形のようなつやつやの黒かみ、グレーにピンクリボンのセーラー服までもが、教室の窓からふく風にふゆりふゆりとゆれていた。
赤いふちのメガネが羽生のヒトミをかくしている。
「志澄香さんよ、だいじょうぶ。オレみたいにハンサムなのかんげいされるから」
神は、耳にかかるサラサラの茶のかみを無造作にかき上げ、学ランのえりをゆるめ、羽生の机に片手をつきながらそのヒトミを見つめる。
羽生は、神のヒトミにうつるのがこわいけれども、気持ちを知られるのはもっとこわいからと、ガマンした。
ぷるぷるとかたをふるわせ、虫歯が傷むようなポーズで、困ったわーとため息をつく。
「そんなにオレを愛している?」
ジョークでいじめられてると思い、ほおを赤らめてうつむくしかなかった。
「なあ、志澄香さん。『デイジーにささやいて』、この四巻を読んだ? 何だかこわくなかった?」
「ん? こわいって……。私は、最新刊をおうちに帰ってから読むから」
「ああ、まだ買ってなかったのか」
「これ、借りてもいいかしら?」
OKサインを神からもらった。
羽生は、ふふっと笑みをこぼした。
「よかった、やっと笑ってくれて」
「泣いたりもおこったりもしていないもん」
羽生と神の二人っきりで窓の外を見ると、愛中学校の文化祭、
「あかね色がきれいね……。神くん、いっしょに帰ろうね」
愛おしい時からはなれようとした時、神は、黒板側からかたをたたかれた。
「ここ、ジュリの席なんだけど!」
「ああ、悪い」
神が、そのまま席を返した。
「帰るなら、ジュリと帰ってよ!」
「同じマンガ部での
神は、かたをすくめた。
「
愛原は、語気をあらくしながらもどこかさみしそうだと、羽生は感じた。
「三人で、帰りましょうよ、ジュリさん。空くんは、今度の文化祭用の台本でいそがしいみたいだわ」
中一四人のグループ、『デイジー!』のために、一人でこもって台本を書いている南条の背中を知っているのは、羽生だけだった。
「あの、『デイジーにささやいて』の
放課後は、中一梅を『デイジー!』の活動場所にしんせいしてある。
教室の前に立ち止まると、ジャンガリアンハムスターがいるかのようなカリカリとした音が小さく続いていた。
南条だ。
羽生と神がノックをためらっていると、愛原は、けたたましく入って行った。
「空っちー! 今日も愛しているかーい?」
「おおおお、おう。ジュリちゃんじゃないか」
「何、びくついているの? 他に二人いるから、今日は交かん日記とかしないよ!」
「ああああ、ジュリちゃん、そういうの言わないで」
南条は、あわてて、シャープペンシルを置いた。
「交かん日記って、まるで、『デイジーにささやいて』の
羽生が手をぱちっと合わせて喜んだ。
「だー。ぼくは、そんなのやっていないって」
「毎日、交かん中でーす!」
照れる南条に愛原がぴとっとつくと、羽生が照れてしまい、くるっと後ろを向いてしまった。
「わ、私、先に帰るね……」
「待って、志澄香さん。オレも」
神は、机に置いたカバンをさっと取って追いかけた。
◇◆◇
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