第3話

 馬車の中は俺の想像した物とは全く違っていた。四人乗り……頑張れば六人乗りのサイズ感。

 俺の横にはアルバートさんが腕、足を組んで座り、目を閉じていた。多分寝てはないと思う。

 ちなみに正面にはシスターが座っており、窓の向こう側の風景を静かに眺めていた。

 まぁこれが本来の馬車のあるべき姿なので、自分が今まで乗ってきた馬車が普通じゃないんだなと改めて実感した。

 しばらくすると、チリーンと馬車の天井に吊り下げられた小さな鐘が鳴り響く。

 鐘の音を聞いたアルバートさんが背伸びをする。

 シスター、リラさんも椅子下に置いていた四角い大きめのバッグを膝上に置いて身支度を始めていた。

 各々おのおのが降りる準備をしていると、馬車の壁に埋め込まれた簡素な魔字まじが刻まれた巻貝まきがい殻口かくこうからロブさんの声が聞こえてきた。

 「もうすぐ着きます。ロイくん、馬車は奥でいいんだよね?」

 「はい、奥です。一応、自分はこのまま乗っておきます」

 「ありがとう」

 無事にモーテルに到着し、アルバートさん、リラさん、シスターは馬車から降りて、モーテルのフロントへと入っていった。俺とロブさんは奥にある厩舎きゅうしゃに向かった。

 厩舎に向かった俺は、今まで馬車を引いていた焦茶色の毛並みをした馬にブラッシングをさせてもらっていた。

 馬に触れたのはいつぶりだろう。子供の頃にオリヴィア団長の馬を触った時ぶりだろうか。大人になり、馬を触るどころか厩舎に立ち寄ることもなくなった。

 「ロイくんって、カリメアのところの人だよね?」

 俺はドキッとした。急に話しかけられ、ビックリしたからじゃない。カリメアという単語が出てきたことにビックリをしたのだ。

 普通に肯定するべきか、濁すべきなのか、二秒から四秒くらい考えていると、当然沈黙の時間が発生する。

 そうした時間が発生し、最初に口を開いたのはまたしてもロブさんだった。

 「あー、触れちゃいけなかった?王族を辞めて、自分探しの旅に出るって見てさ、なんでなんだろ?って思って、訊いてみたかったんだ」

 俺は瞬時に思考を巡らせた。

 ロブさんは聞き間違いでなければ「見た」と言った。それはつまり、情報屋の紙面を見たということだろう。だが肝心なのはそこではなかった。

 今、俺は自分探しの旅に出るから王族を辞めたことになっているみたいだ。

 オリヴィアさんが対応したのか、父が対応したかは分からないが、凄く助かる。

 何かしら対応してもらえなかったら、殺人者になっていたのかもしれないのだから。

 ロブさんの疑問になんて答えるか迷った末に返答した。

 「他国をもっと見たいと思いまして……。俺は……次男で王位継承者ではないので、伸び伸びと動き回ることが出来るんですよ」

 「そうなんだ。答えてくれてありがとう。王族も王族で大変そうだね」

 「あの……この事、アルバートさん達にも伝えたほうがいいですか?」

 「アルバート団長やリラには僕から伝えておくよ」

 「ありがとうございます」

 国から出て、気になっていた一つが解消され、気持ちが楽になった。

 自分は一体、何者になっているかが不安だった。だからこの村に来て、真っ先に村に回ってくる情報屋の紙面を見たが、俺のことは何も書かれていなかったし、カリメアの事件すら書かれていなかった。

 俺の後のことを考えて行動したであろう父やオリヴィアさんには絶対に感謝を伝えるべきだろう。

 あの後、ロブさんと別れた俺は、アルバートさん達も泊まるモーテルの自室に戻っていた。

 いつもとは違う活動をしてなのか、とても眠くてボーっと仰向けになり、天井を眺めていた。

 朝から起きたことを思い出して、耽っていると段々と睡魔が襲ってきた。

 まだ太陽は昇っている時間帯だが、俺は睡魔に身を委ね、目を瞑った。

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