Ch. 05 ドラムとベースは屋台骨

 ベースが入ったら、わたしの場合は改めてドラムのフィルを追加したり、ハイハットの強弱を細かく調整していったりします。

 それだけでなく、場合によってはタイミングも微妙にヒューマナイズ(人間っぽいタイミングのずれを自動的に演出してくれる機能)をかけたりする場合もあります。普通は必要に思う箇所だけ人力でやってます。


 ドラムとベースが揃ったところで、改めてベースの音作りをします。

 普通は録りの段階である程度音作りするのかもしれませんが、わたしの場合はここでじっくりやる感じです。主にEQとコンプですが、ベースの場合はチャンネルストリップのコンプのみでなく、別途専用にコンプを挿して音作りしてます。

 

 わたしの場合はFairchild670というヴィンテージコンプレッサーのエミュレータプラグインを使うことが多いです。

 このコンプは効き味がマイルドなので、いかにもコンプかけてます感がそんなにしないのに、音は太くなるのが魅力です。

 

 EQでは、この辺りの周波数が出てると他の音に埋もれないでちゃんと聞こえるなという、まあ言わばその楽器らしさが分かる周波数帯を若干持ち上げて、他の楽器と被っちゃうなっていう帯域は削る感じでかけます。


 よく言われることですが、EQは原則下げる方向で使う方がうまくいきます。

 つまり、ここが欲しいっていう帯域以外を下げることで、相対的に欲しい帯域が持ち上がる状態ですね。


 注意点として、EQで帯域をやたら弄ると位相が狂うという問題も発生します。

 音は空気の振動です。基音と倍音はその振動の周波数の違いです。

 基音と倍音は異なる周波数で振動しながら周期的にその波がぴたりと会うタイミングがあるわけなんですが、EQによってそのタイミングがずれてしまうんですね。そのことを位相がずれるとか狂うとか崩れるとか言うわけです。

 

 それの何がダメかっていうと、音が埋もれて抜けてこなくなったりするんですね。

 あれだけ音が抜けてくることに執着しているのに、EQで音抜けが悪くなるのでは本末転倒です。基本はあくまでEQの目的は余分を削ることと考えて取り組んでいます。


 ここでは大まかに音を作っておいて、ミックスの最終段階で再調整することにしてます。


 ベースとドラムは音楽の屋台骨のようなものです。

 ミックスにおいても中心的な存在で、ここでこの二つのパートのバランスを大体決めてしまいます。

 特にキックとベースは互いに最重低音を担うので、この二つのEQと音量バランスには注意を払って音作りします。互いに補い合う感じを心がけます。


 また曲のイメージによっては、ベースアンプシミュレーターを通して音作りすることもあります。うちはGuirar Rigというプラグインソフトのベースアンプを使ってリアンプすることが多いです。


 あとは必要な楽器を録音していきますが、ストリングスやホーンセクションなどは自分では演奏できないので、サンプル音源を利用することとなります。

 サンプラーソフトにもいろんなものがあります。Logicにも元々サンプラーが用意されています。


 わたしが使っているのはNative Instruments社のKontaktという定番のサンプラーです。

 サードパーティーによる音源の豊富さと基本性能の良さから広く使われている定番ソフトです。


 ストリングス音源は今まで結構色々試しているのですが、良い音源はお値段が高いのであまり手軽にお試し感覚で購入することはできません。

 わたしが今のところ気に入って使っているストリングス音源は、Spitfire Audio社製のものを使っています。


 ストリングスは奏法が非常に多いのですが、大方使いそうな奏法は網羅されているので必要にして十分かと思っています。


 あ、サンプラーと言えば、Logicに付加されたアーティキュレーションID機能は絶対使った方が便利だと思います。Cubaseにも似たような機能があったはず。

 この機能は、演奏の様々なアーティキュレーション(奏法を含む譜面上に記号で記されるような様々な演奏上の指示)にIDを振って割り当てておくというものです。

 

 Kontakt上では通常、アーティキュレーションの変更にはキースイッチと言ってその楽器で使われない音域の各鍵盤を押した際に発動するよう設定されていたり、鍵盤を押す強さに応じて切り替わるようになってたり、はたまたMIDIのCC(Control Change)と呼ばれるチャンネルで切り替えたりといった様々な方法が音源ごとにメーカー設定されています。

 

 これらを、自分の環境に合わせてアーティキュレーションIDに登録してしまえば、打ち込みがものすごく楽になります。


 サンプル音源って、ただベタ打ちしただけではあまり生っぽい演奏にはならないんですよね。

 

 ストリングスだと例えばデタシェという奏法がありますが、これはギターで言うところのオルタネイト・ピッキング。ボウのストロークのアップとダウンが交互に繰り返されるのですが、それによる音の微妙な違いがあります。

 スタッカートとスピッカートは似ていますが、音色や音の余韻に違いがあります。


 そうした細かなアーティキュレーションの使い分けが違いを生むのが打ち込みの世界なんです。

 もちろん生のストリングスでやれたら最高なんですが、素人音楽家にゃどう頑張っても無理な話ですからね。


 また一般的なポップスにおけるストリングスセッションは、向かって左から1stバイオリン、2ndバイオリン、ビオラ、チェロという構成になっているので、一応それに倣ってトラックを割り当てます。

 Kontaktはマルチ音源として設定できるので、一つのコンタクト上でMIDIチャンネルを変えた各パートを立ち上げる感じですね。


 アーティキュレーションで奏法を細かく切り替えながら、演奏の強弱も細やかに打ち込んでいきます。

 かなり手間暇かかりますね。


 わたしのTwitterアカウント(@NonHoshika)の固定ツイートに、星野源さんの「うちで踊ろう」動画の星加アレンジ版を貼ってあるのですが、それにもストリングス入ってるのでよかったら参考までにお聞きになってみてください。わたしのヘタクソなコーラスも入ってるレア音源笑笑。


 わたしには何の得もないけど、ストリングスの各パートがどういうふうに分かれていて、どんな奏法で奏でられているのか短いけど参考になるかも。細かな聞き取りにはヘッドホンかイヤホン推奨。

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