借金返済まで、あと365日~才色兼備艦長が最強の地球宇宙軍の職権を乱用し始める~

ムーンシャイン

35億からソラに逃げるシャロン准将

001: さらば、地球よ。35億の旅立ち

…LIVE 第1機動艦隊観艦式『Earth Salf Defance Force』


 雄叫びにも似たハツラツな声を上げた広報担当官が

全宇宙ネットでの放送開始を告げる。


『はーい。全宇宙の皆様、こんにちはーっ』


 テンション高め広報官のエンタメ要素と。

 お偉い方々のありがたき演説のシリアスをごちゃ混ぜにした

 闇鍋みたいな地球軌道コロニーの観艦式典では。

 金の匂いを嗅ぎつけた数千名の招待客たちが目をギラギラさせながら集い。

 その上空を宇宙を多数の白の艦影が埋め尽くしていた。


『『おはよう』から『おやすみ』まで。アナタを見守る防諜監査委員EDF-NETの提供で…』


 第一種軍服で美しく着飾ったシャロン准将は、スピーチ壇上の第一貴賓きひん席の2列目で、軍用携帯情報端末P D Aを繋ぎ地球圏株価相場の点と線の推移を隠し見している。


『…広報局。わたくし、シャリー少尉が第一艦隊観艦式の様子をお送りしておりまーす』


 エンジン不良の急降下爆撃機のような乱高下を繰り返す株価相場の光線の行く末は、この式典の出来にかかっている。

 シャロン准将はじっとりとした嫌な手汗を、お隣さんにいる軍服の裾でこっそり拭った。


『…のように、新型巡洋艦の紹介もぜひ、ご期待下さい!』


 この新型巡洋艦が全宇宙ネットで紹介されれば、この艦で採用されている革新的な気密ドアを制作している会社の株価がバク上がりする。

 未公開情報を全宇宙に公表する絶好の晴れ舞台として仕組まれたに等しい観艦式典だ。

 こんなの知ってたら、守銭奴の鬼シャロン准将が見逃すわけもなく。

 私は、晴れて大金持ちだ。こんな、ブラック軍隊なんてやめてやる…!そう呟き、不気味な笑みを浮かべ将来の安定収支プランを夢見てた。


 軍国主義バンザイのこの地球においても汚職や腐敗はたしかに広がっていたが。

 それに輪にかけてシャロン准将は、今や内部者取引インサイダーは実況時代の幕開けぞ。と言わんばかりに、この醜態しゅうたいを刻々と全宇宙ネットで放送し続けている。


 そう言っている間に壇上では、式典ではスピーチが始まり首相に始まり政治家、高官たちが代わる代わる演説していく。


『…はーい。とても、素敵な話でしたねー。最後はEDF第一宇宙軍総監ヤマモ大将の演説でーす』


 シャロン准将は、この株式取引にすでに35億もの借金を注ぎ込んでいる。もうあとには引けない。嫌な時間が続き思わず生唾を飲み込む。


『我々、地球市民は…、いま、危機にさらされている』

 早く終わらせろ。じゃないと危険にさらされているのはお前だ。シャロン准将の手が、株価が下落を始めた苛立ちからかすかに震えは始めていた。

 この時間配分だと新型艦のライブはされない可能性が出てきて界隈かいわい関係者が売り注文に走り始めたのだ。

 だがさらに、これに焼け石に石炭のごとく。シャロン准将は追買い注文を連打しまくる。


 ヤマモ大将の長いスピーチが終わりを告げ、軍用携帯情報端末P D Aの株価下落が持ち直し。その光る線が不死鳥のごとく、遥か空へと頭をもたげる。


『あー、時間になっちゃいましたー。えーん、えーん。じゃあまたの…』


 会社の株価は地に堕ち。35億だけがシャロンの残高から飛んでいった。


 ヤマモ大将は、大満足の笑みを浮かべ席に戻ろうとすると同時に、顔面に頑強な軍用携帯情報端末P D Aがのめり込む。

 大の字になって床へとノックアウトされた。


 大きく肩を揺らし息を切らして、シャロン准将は激怒した。壇上のマイクにも届くような怒鳴り声を上げる。


「…口先だけの出来損ないがぁ…ッ!」


『…口先だけの出来損ないがぁ…ッ!』


 ライブと壇上のシャロン准将の声がシンクロし、式典全体どころか宇宙全体に配信されていった。


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