親ガチャ
飛烏龍Fei Oolong
娘のこと
ママと喧嘩した。
理由はほんとに些細な事、最近夜更かしして友達と電話してたのを怒られた。別に迷惑かけてないのに、うざい。
昨日も帰ってきたら「最近帰りが遅い」とか文句言われてすごいムカついた。
パパは私が怒られてるときはいつも知らん顔。あとから携帯でフォロー入れてくる。ママも言い過ぎだよな、パパからママに言っておくから———どうせ実際には何にも言ってくれないくせに。パパはママが怖いから、ママに言い返すなんてできない。ヘタレで鬱陶しい。
「ちょっと! 話聞いてるの!?」
ママの顔がさらに怖くなった。まだお説教が続くのか、と思うとうんざりする。
「この前のテストも点数落ちてたじゃない! 先生から言われてたでしょ?」
ママは怒るとこうやってすぐに前の事をむしかえして、その事でさらに怒ってくる。そんな前の事言われても私にはどうしようもないのに。それをわかってるくせに。ママの怒り方はずるい。
私は面倒くさくなって、わざと大きな足音を自分の部屋へ向かった。足音を立てたのはもちろん、わざと。私のイラつきの表れだ。
「ちょっと! まだ話終わってないわよ!」
背中からママの声が聞こえたが、これも無視。
私はこれまたわざと大きな音を立てて扉を閉め、二階にある自分の部屋へ向かった。
部屋に戻ってもイライラは全然収まらなかった。
ベッドで足をバタバタさせたり、部屋中歩き回ったり、髪の毛をかきむしったりした。でもやっぱり私の心は晴れない。
なんてわからず屋な親! なんて面倒くさい親! ——こうなったら、アレしかない。
私はベッドに寝転がると、携帯を操作してあるサイトに向かった。
画面には、可愛らしい天使のキャラクターと共にこう書かれている。
——親ガチャ——
画面の下の方にはハート形のボタンマークがあり「ここを押してね♪」というピンク色の文字がふわふわと動いている。
私はハートのボタンをおした。すると少しの間の後、画面に赤字でこう書かれた。
——このまま続けると、現在使用している親は破棄されます。よろしいですか?——
そしてその文字の下に、「YES」のボタンと「NO」のボタンが並んでいる。
私はさっきのママの鬼のような顔を思い出しながら、迷わず「YES」のボタンをタップした。
すると画面は天使と神様のキャラクターが描かれた、綺麗な庭園みたいな画面になった。庭園の真ん中には池があり、その池からぽこぽこと泡が出ている。私が画面をタップするとその泡がだんだん大きくなっていき、池が光りはじめた。そして、池から七色の光の帯が飛び出たのだ。
「やった! 確定じゃん…!」
私は興奮しながら呟いた。私は今までSRしか引いた事なかったから、これは胸アツだ。この前ユカがSSR引いて、かなり良いって言ってたから期待できそう。
やがて光の帯が画面全体を包み込んで、ぱあっと白く光った。そしてまた画面が戻ると、そこには二人の男女が立っていた。その二人の足元にはSSRという文字が輝いている。
男性の方は細身ですごいイケメン。白衣を着ているからお医者さんだろうか?女性のほうも若くて美人で、なによりすごく優しそう。手にフライパン持ってるのは、料理が得意って意味だったはず。ますますラッキー。
——私達があなたの新しい親です。よろしくね——
画面の向こうで、私の新しいパパとママが微笑んだ。
「こちらこそよろしくね、パパ、ママ」
私はベッドに寝ころびながら、画面の向こうに微笑みかけた。
夜中、下の階で物音がして目が覚めた。なんだか大きな物を運んでるみたいな音だ。
私は眠い目をこすりながら、暗い階段を降り、リビングの扉を開けた。
部屋は電気が消されて暗かったが、月明りのお陰で部屋の様子を見ることくらいはできた。部屋は寝る前とまったく変わらず、綺麗に整頓されている。部屋のあちこちにうさぎのぬいぐるみが置いてあり、部屋の隅には観葉植物がある。全てママだったモノの趣味だ。
そこに、大きな黒い袋を2つ、数人がかりで抱える人達がいた。皆黒い服に黒い覆面マスクをしている。まるで泥棒か悪の組織の戦闘員みたい。私に気がつくと、その中の一人が言った。
「すみません、うるさかったですか? もう少しかかりますので、気にせずお休みください」
それだけ言うと、彼らは手早く袋を抱えて家から出ていった。
破棄された親は、街の何なかにある黒い大きな建物に運ばれるそうだ。そこで処理されて、また新しい親として再利用されるらしい。あくまで噂だから本当かどうかわからないけど。
私はまた眠くなって、リビングの扉を閉めて部屋へ帰った。
次の日、私はリビングの扉を開けた。
「おはよう、今朝は早いのね」
昨日画面で見た美人なママが、優しい笑顔でこちらを向く。そしてダイニングテーブルでは、あのイケメンのパパが、おしゃれな朝食食べている。
「おはよう、ママ、パパ!」
私は嬉しくなって、とびっきりの笑顔で二人に挨拶した。私が席に座ると、ママはすぐに私の目の前にもホテルに出てきそうなおしゃれな朝食を出してくれた。食べてみると、どれもすごく美味しい。
「こらこら、慌てて食べたらダメだよ」パパに優しい笑顔で叱られる。それもなんだか嬉しくて、私はお行儀よく朝食を食べた。うさぎのぬいぐるみも観葉植物もなくなっていた。
「じゃあ、僕はそろそろ行くよ」
「ええ、いってらっしゃい、あなた」
パパとママは私の目の前でキスをする。その様子を私はにやにやしながら眺める。二人は私の視線に気づくと、恥ずかしそうに離れてしまった。
「じゃあ、いってきます」パパが恥ずかしそうに部屋を出ようとしたので、私は慌てて「待って私も良く!」と言って、鞄を持って後を追った。
玄関で振り返ると、ママは最高の笑顔で「いってらっしゃい」と言ってくれた。私もそれに応えるように「いってきます」と元気に言った。
ああ、やっぱり私は、この両親が大好きだ。
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