第130話 巨人の穴蔵

-翌朝

@モルデミール 郊外


 昨日、カティアが上手く話をつけたらしく、俺達は無事に選定の儀とやらに参加できる事になった。博士や他の整備兵からは、同情するような態度や、激励されたりしたが、一体何だったのだろう?

 聞こうにも、何か常識みたいな感じだったので、詳しく聞くような事はできなかった。話を聞く感じ、【岩グモ】なるミュータントに気をつけろとの事だが、今の装備なら大抵のミュータントなら倒すことはできる筈だ。まあ、警戒するに越した事はないか。


 そして先程、基地にてカティアの選定の儀への送り出しが行われた。そこで俺達には車が一台貸与され、それで儀式が行われる“巨人の穴蔵”へと向かえと言われた。

 渡された地図が示す地点は、崩壊前は連合軍の所有地となっていた場所で、俺のブートキャンプの最終試験が行われた忌まわしき土地だった……。


「ヴィクター、この車乗り心地悪い!」

「我慢しろ! そこまで遠い場所じゃないからな。流石にハウンドに乗ってたら、検問で停められるだろ?」

「でも私偉いから、皆んなペコペコするんじゃない?」

「いや流石にそれはないだろ。……ん、ミシェルどうしたんだ、そんなに後ろを眺めて?」

「あの、チャッピーの布取ってあげていいですか? 何か窮屈そうで、かわいそうです……」

「ああ。もうしばらくしたら一旦車を停めて、装備を整えよう。カティアも制服を脱げ、その格好じゃいざという時に動き辛いだろ?」

「むぅ……」


 モルデミールを出発する際に、俺達はチャッピーを持ち出していた。巨人の穴蔵で、何か使えそうな遺物や、敵に渡る事が望ましくないような物があれば、チャッピーに載せて回収できると思ったからだ。

 幸い、巨人の穴蔵への遠征の為の物資と思われたのか、調べられる事もなかった。


 しばらく走り、モルデミールの街が小さくなった所で小休止をとった。俺達は、いつもレンジャーとして活動する際に着ている服に着替えたり、装備を整えたりしてこれからの事に備えた。


「そういやカティア、岩グモってどんな奴なんだ? やたら注意する様に言われたが……」

「ごめん、私も知らないわ。もしかしたら、ギルドで呼んでる名前と、モルデミールでの名前が違うだけで、私が知ってるのと同じ奴かもしれないけど」

「ちなみに、その知ってる奴はどんな奴なんだ?」

「クモのミュータント? まあ、デカくて気持ち悪い見た目だけど、大抵は注意してればどうって事はないわね。糸とか、毒を吐いてくるのもいるけど、大抵は銃があれば何とかなるわ」

「う〜ん、数が多いとかなのか? 弱い奴でも、群れれば厄介だろ?」

「そういえば、エルメアが群れて出てくるって言ってたわね。けど、クモなんて群れたとしても2、3匹よ? 多分、大した事無いわよ」

「……まあ、用心しておくに越した事は無いな。一応、チャッピーに予備の武器も積んでおくか」



 * * *



-昼

@モルデミール北部 森林地帯


 あれからしばらく車を走らせ、俺達は森林の中を進んでいた。この森は崩壊前から存在しており、連合軍のサバイバル訓練などで使われていた。


 ……気がかりなのは、目的の“巨人の穴蔵”という施設だが、俺が知る限り該当しそうな施設は崩壊前には無かった筈なのだ。少なくとも、俺が軍で訓練していた頃には、AMを大量に格納している施設があるとは知らなかった。

 しかし、総司令官権限で軍のデータベースを確認すると、該当する地点にそれらしい施設があるのを確認できた。だが、どうも軍の管轄では無く、政府直属の研究施設という事になっており、詳しい事は分からなかった。

 何の為の施設かは、やはり現地を見るしか無いようだ。


 森の中はモルデミールの連中が頻繁に訪れているのか、かろうじて道のような物ができていた。

 その道を進んで行くと、山の斜面に草や木に覆われたコンクリート製の建造物が目に入ってきた。見たところ大型のバンカーのようで、巨大な鉄製の耐爆扉は開いているようだ。


「これが巨人の穴蔵か? 本当にあったとはな……」

「ヴィクターは、ここの事知らないの?」

「ああ、初めてだな」


 車を降りた俺達は、バンカーの入り口に立つ。施設は、車両や兵器が中に入る事が前提だったのか、天井が高く広い通路が奥へと続いていた。当然、中は照明が点いていない為、真っ暗で先は見えなかった……。


「暗いわね……」

「ほら、さっき銃に付けてやったライトを使え。さっきも言ったが、眩しいから人には向けるなよ?」


 俺は銃に取り付けたフラッシュライトでバンカー内の床を照らす。中は埃や土、ゴミで散らかっていた。

 俺を真似て、カティアとミシェルもライトを点ける。


「よし、警戒して進むぞ。ミシェル、チャッピーを前に出してくれ」

「はい。チャッピー!」

「ガガピー!」


 チャッピーを先頭に、搭載されたライトで前を照らしつつ、俺達は周囲を警戒しながらゆっくりと進んで行く。


「こんな事なら、暗視ゴーグルとか持ってくるんだったな」

「あのガフランクで使った奴? 便利よね、あれ」

「あっ!」

「ん、どうしたミシェル?」

「これって……!」


 ミシェルの銃が照らす先には、制服を着た人骨が転がっていた。恐らく、モルデミール軍の者だろう。


「死体か? やっぱり、襲って来る奴がいるんだな」

「岩グモ……どんなミュータントなんでしょう?」

「そんなに警戒することじゃないんじゃない? どうせデカい蜘蛛でしょ」

「はぁ……あのな、敵が弱くても不意を突かれたらマズいだろ。お前は今度、ロゼッタにそこのところを教育してもらうか」

「げっ!」

「どうしますか、一度戻って対策を……」


(カサカサカサ……)


「ん、ちょっとミシェル黙って。今、何か聞こえたッ!」

「えっ!?」

「俺も聞こえた。警戒しろ!」


 何かが走り回る様な乾いた音が聞こえ、俺達はチャッピーを中心に周囲をライトで照らす。


「……何もいない?」

「いや、この先に反応がある! ……いや、消えたな」


 先程まで確かに、銃のセンサーに反応があった。だが、通路の奥へと反応が消えてしまった。逃げられたらしい。

 敵は岩グモというミュータントだ。蜘蛛は変温動物なので、あまり熱を発しない。その為か、銃のセンサーも生体反応を感知しにくいらしい。集中しなければ、発見は難しいかもしれないな。気を引き締めていくとしよう……。



 * * *



-数十分後

@巨人の穴蔵


(カサカサカサ……)


「またか……」

「ねぇ、手分けした方が良いんじゃない?」

「いや、それは悪手だろ。ほら、今もカサカサ聞こえるだろ?」

「でも、襲って来ないじゃない。多分、臆病なのよあいつら」

「じゃあ、もし襲われても助けてやらないって事で良ければ、手分けして探してもいいぞ? カティア1人と、俺とミシェル、チャッピーの二手に別れるって事でどうだ?」

「うっ、分かったわよ……」


 あれからしばらく、バンカー内を探索しているが、段々と入り組んできた。内部は、配達会社の配送センターのように、コンテナが積まれた区画や、ボロボロになったトラックが並んだ区画などや、事務室の様な物があった。

 だが、未だに目的の腕輪を授けてくれる機械とやらは見つからなかった。


 そして、今も時折「カサカサ」と何かが蠢く音が聞こえてくるが、未だに岩グモは姿を見せない。

 もしかすると、岩グモとかいうミュータントは、カティアが言うように、臆病な性格なのかもしれない。モルデミール軍の奴らが襲われたのも、手を出して報復を受けただけなのかもしれないな。

 中立でいてくれるなら、わざわざ手を出す必要は無いが、かと言って警戒を怠る訳にはいかない。カティアの提案は却下させてもらおう……。


「あっ、ヴィクターさん!」

「これは……矢印か?」

「この先に進めって事?」


 ミシェルが、床に大きな矢印が描かれているのを発見した。恐らく、モルデミール軍の奴らが描いた物だろう。


「よし、とりあえず辿ってみるか!」


 床の矢印を頼りに進んで行くと、とある部屋の前に到着した。部屋の前には、看板が掲げられており『選定の間』と書かれていた。


「……選定の間……ここか?」

「とりあえず、入りましょう?」

「ああ……一応、注意しろ」


 俺達が警戒しながら部屋へと入ると、急に部屋の照明が灯された。


「うおっ!?」

「きゃっ! 何ですかッ!?」

「眩しいッ!」


 眩しさでボヤけた視界のまま部屋の中を見ると、中は一台の施設用の大型コンピューターと、腕時計が入った箱が数箱積まれていた。


「これは……」

『当施設へようこそ、ライスフィールド総司令官。電脳化されてる方は、久しぶりです』

「誰だ!?」

『私は、当施設の制御コンピューターです。正確には、コンピューターに付属するAIですが……』


 突如、室内に男の声が響きわたる。


「……なるほど、この部屋は制御室だったのか」

「ヴ、ヴィクターさん……誰と話してるんですか?」

「そこの機械……ええと、ロゼッタの親戚みたいなもんだな」

「ど、どこにいるのよ! 姿を見せなさいよ!」

「カティア、喋ってるのはそこの機械だぞ? 人間じゃないから、警戒しなくていいぞ」


 カティアとミシェルからしたら、突如見えない存在に声をかけられている事になる。さぞ、不気味なのだろう。

 とりあえず、さっさと話を済ませてしまおう。


「おい、この施設は何だ? 軍のデータベースには詳細が書かれて無かったが……」

『この施設は、AMの解体工場です』

「解体工場だと? データじゃ、政府の研究施設って事になってたが?」

『表向きはそうですね』

「表向きは? どういう意味だ?」

『……申し訳ありません、その質問に答える権限がありません』

「……戦時特例は発動してる筈だ。総司令官権限でもダメなのか?」

『当施設は、政府直属の施設です。情報開示には、議会の承認が必要です』


 何かがおかしい……AMの解体工場なら、別にこんなガチガチのバンカーに設置する必要は無い筈だ。何かを隠しているとしか思えない……。

 それに、このAIの態度もおかしい。議会の承認が得られない今は、戦時特例で俺の命令がほぼ全てまかり通る筈だ。まさかこのAIも、ロゼッタのように自我を得て暴走しているのだろうか?

 だが、そこまでして何を隠しているのだろうか……。しかしAIが口を割らない以上、この問答を続けても時間の無駄か。


「分かった、質問を変えよう。ここに来た奴に、腕時計を渡してたのはお前か?」

『はい』

「何故そんな事をしてるんだ?」

『当施設の所長の命令です。今後訪れるであろう電脳不適合者達に、戸籍を作成しAMを渡すようにと』

「どういう事だ?」

『今からちょうど190年と3ヶ月程前に発令された命令です。施設を開放し、施設が保有する物資を放出せよと。戦後の復興に使えるようにせよと、所長は申してました』


 なるほど……。ここの所長とやらは、立派な人物だったらしい。ノア6を厳戒態勢のまま閉ざしていた俺とは違い、施設を開放して、AMを復興用の重機として役立てようとした訳だ。

 まあ、結局は兵器として使用されてしまっているのだが……。


「そうか……。で、使えるAMはまだあるのか? できれば、アルビオンがあるといいんだが……」

『残念ですが、AM-5は大半が放出済みとなっております。残っているとしたら、最奥部の梱包センターでしょう』

「梱包だと? 一体何の話だ?」

『……』


 AIは、また俺の質問に答えない。よく分からないが、最奥部にはまだアルビオンが残っている事が分かった。そこに行けば、謎が解けるかもしれない。AMも手に入れる必要があるし、行くしか無さそうだ。


「まあいい、とりあえずその梱包センターとやらに行ってみるか」

『……お待ち下さい』

「ん?」

『実は……私は、現在暴走状態にあります』

「……そうだろうな」

『お気づきでしたか。では、初期化をして頂きたい。最近になって来られた方々には、どうも話が通じなくて、放置されてしまっていたのです』

「初期化ねぇ……」


 正直、このコンピューターの存在は看過できない。局長の命令を守っているのは良いが、これ以上AMを外に出す訳にはいかない。

 だが、身近にロゼッタという存在がいる俺には、このAIを初期化してしまって良いのか、悩ましい所だった。


「よし、じゃあ梱包センターに案内してくれ。詳しく話せなくても、俺達が勝手に入る分には問題無いんだろ?」

『ええ、その通りです。……分かりました、施設の電源を入れましょう』


 AIがそう言うと、バンカー全体に大きな音が鳴り響き、施設の照明がついた。所々壊れているが、これで真っ暗闇とはおさらばできるはずだ。

 ひとまず、このAIの処遇は後回しにするとしよう。


『梱包センターは、この先の通路を真っ直ぐです。後は、電脳通信で案内します』

「ああ、よろしく」



 * * *



-数分後

@巨人の穴蔵 通路


「やっぱり、明るいと違うわね! このままささっと済ませちゃいましょ!」

「そうだな」

「ヴィクターさん、あの声の人……僕たちが出て行ったら、またこのまま一人ぼっちなんですか?」

「AIの事か? そうだな……そうなるのかな」

「……なんだか、寂しいですね」

「あいつは初期化してくれって……つまり記憶を消してくれって言ってたな。多分、寂しいって感情も無くなるだろうさ」

「そ、そんな!」

「……奴が望んだ事だ、仕方ないだろうさ。一応、他の選択肢も後で示してやるがな」

「他の選択肢……ですか?」

「ああ。そうだな……例えば、チャッピーになってもらうとかな」

「チャッピーに……ですか!?」

「ガガピー?」

「まあ、そういう選択肢もあるって事さ」


 自ら考え、行動できるというのは、他の機械では難しい。チャッピーも、ミシェルの指示があって初めて動く事が出来るが、緊急時には指示が遅れる事もあるだろう。

 だが、もしチャッピーにAIデバイスを載せる事ができれば、緊急時や戦闘時にも柔軟に動く事ができる筈だ。ついでに暴走状態のAIだと、本来なら不可能とされる殺人も可能になる。これはロゼッタで確認済みだ。

 つまり、チャッピーが対人戦闘でも自律的に動き、目的を達成できるようになるのだ。


 ……まあ、さっきのAIは人格が男性タイプだったから、バイオロイドには絶対しない。女性タイプの人格だったら、ロゼッタのように俺の欲望満載ボディのバイオロイドを作ってもいいのだが……。


「……そういえば、さっきまで聞こえてた音が急に聞こえなくなったな?」

「そう言われてみれば、確かに……」

「クモのこと? 急に明るくなったから、ビックリしてるんじゃ無い?」


 先程まで聞こえていた、岩グモのものと思しき音が、先程から全くしなくなっていた。カティアの言う通り、驚いているのだろうか?


「あっ、ヴィクターさん……あれ!」

「ん、何だありゃ?」


 俺達が通路の十字路のような箇所に近づくと、制服姿の人物がこちらに背を向けて立っているのが見えた。声をかけようとしたその時、その人物は奇妙な動きをしながら十字路を曲がって行き、見えなくなってしまった。


「あれ、モルデミール軍の制服よね?」

「僕たち以外に、誰か来てる人がいるんでしょうか?」

「いや、そんな筈は無いと思うが……。一応、警戒しておけ」

「どうするの?」

「背後から襲われたくない。一応、確認しよう」


 俺達は、銃を構えると先程の人影を追って、十字路を曲がった。


《梱包センターはそちらではありませんが……》

《おい、今俺達以外に入って来てる奴はいるのか?》

《記録では、しばらく前に50人程が入って来て……それっきりです》

《それっきり? 出てないって事か?》

《はい》

《何があったんだ?》

《申し訳ありません。施設のカメラなどが殆ど損失しており、こちらで施設内の事情を知る事は出来なくなっているのです》

《ああ、開けっ放しだったからな……》

《出来る事と言えば、施設の電源を入れたり切る事でしょう。人が来ない時は、基本的にスリープ状態でした》

《この先は何があるんだ?》

《訓練所ですね》

《訓練所だと? 何の訓練をしてたんだ?》

《……》

《ああ、分かったよ。自分で見れば良いんだな》



 * * *



-数分後

@巨人の穴蔵 訓練所


 先程の人影が消えて行った通路の先には、開けた空間が広がっていた。


「……これは、キルハウスか?」

「何それ?」


 キルハウスとは、ホログラム技術と電脳技術により、仮想の敵と環境を出現させ、戦闘訓練を行う施設だ。ノア6にも同様のものがある。

 解体工場には無縁のものの筈だが、一体何に使っていたのだろうか?


《……》


「ん?」

「どうかしたのヴィクター?」

「いや、何でもない」


《おいお前、何か言ったか?》

《いえ、私は何も……》

《……そうか、悪かったな》


 一瞬だが、電脳に通信が入った様な気がした。そういえば、以前も似たような事があったな……。確か、きんを取りに中央銀行に行った時だったか?

 もしかしたら、電脳のマイクロマシンに不具合が起きてるのかもしれない。帰ったら点検するとしよう。


「あっ、あそこ!」


 ミシェルが指差した先を見ると、先程の制服を来た人物が倒れているのを確認した。


「ミシェル、チャッピーに確認させろ。何か変だぞ」

「は、はい。チャッピー!」

「ビービー!」


 チャッピーが倒れている人物に近づくと、その身体を持ち上げる。すると、中からカランコロンという音とともに、白い骨が制服から落ちてきた。さらに、中から3匹の巨大な昆虫の様な生物が飛び出し、チャッピーに対して脚?を広げて威嚇をした。


「「「 キシャーッ! 」」」

「な、何アレ!?」

「クモ? ……いや、違う! とにかく撃て!」


──ダダダダダッ!

──バンバンッ!


 カティアと共に、その巨大な虫に銃弾を浴びせると、虫はピクピクと脚を痙攣させたり、動かなくなった。


「な、何ですかアレ!?」

「クモじゃないわね。初めて見るけど……うっ、気持ち悪ッ!」

「これは……ウデムシか? それにしても気持ち悪い見た目だな」


 ウデムシとは、クモやサソリと同じクモガタ類の生物で、虫ではなく節足動物の一種だ。偏平な体に、身体に対して長い脚と、腕のように張り出した触肢を持っている。……要するに、非常にグロテスクな見た目をしているのだ。すげぇ、キモい。

 見たところ、体長は頭から尻にかけて30〜50cmと巨大だ。死都でも、巨大なゴキブリとかを見かけたし、こんなのがいてもおかしく無いのかもしれない……。呼吸とかどうしてるんだろうか?


「こいつら、まさか死体を着込んでたのか?」

「うげ、気持ち悪ッ! あの生意気なティナが、吐きそうになる理由がわかったわ」

「でも、一体何の為に……あっ……!」

「どうした、ミシェル?」

「ヴィクター……さん、う、上……!」

「上がどうかしたの、ミシェル……ッ!」


 ミシェルが天井を指差して固まり、それを見たカティアも天井を見て固まった。嫌な予感がしつつ、俺も天井を見上げると、天井が黒く蠢いていた。目を凝らすと、それは先程のウデムシの大群であり、今にも飛び掛かって来そうな雰囲気だった……。

 俺は理解した……先程の死体は囮であり、俺達は狩場に誘い込まれた獲物であると……。


「「「「「 キシャーッ! 」」」」」

「「「 いぃぃぃやぁぁぁッッ!! 」」」

「ガガピー?」


 天井からウデムシ達が降ってくるのと同時に、俺達は来た道を大急ぎで引き返した。流石に、あの大群を相手にするには弾が足りない。それに気持ち悪い。とにかく、駆け出したかった。


「はっはっ、ど、どうすんのよアレッ!?」

「と、とりあえずここから出よう! あんなキモいのに囲まれて落ち着いていられるかッ!」

「さ、賛成ですッ!」

「ガガピー!」


 先程の十字路まで帰ってきた俺達は、来た道を引き返そうとしたが、なんと出口への通路の先から、黒い絨毯がワラワラと近づいて来るのが見えた。

 しかも、もう一方の通路の方からも黒い絨毯が近づいてきていた。


「イヤァァッ! あっちからも来てるじゃないの!」

「か、囲まれてる!?」

「クソ、こうなったら奥に進むしか無い!」

「ちょっと、行き止まりに追い詰められるじゃ無いの!」

「いや、攻めて来る方向を一方に限定できる! ここよりはマシだ、とりあえず行くぞ!」


 行手を阻まれた俺達は、本来の目的地である施設の奥……梱包センターへと急いだ。



 * * *



-数分後

@巨人の穴蔵 梱包センター前


《おい、まだ開かないのかよ!?》

《少々お待ちを……気圧がまだ正常ではありませんので》

《ってか、何で中が真空なんだよ! いい加減にしろッ!》

《所長命令でして……》


 都合の良い事に、梱包センターへの通路に奴等はいなかった。だが、梱包センターとやらの入り口は、頑丈な扉で固く閉ざされており、しかも中が陰圧状態らしく、気圧を上げるまで扉を開けられ無いらしい。


「ヴ、ヴィクターさん! 来ましたッ!」

「ああもうっ! フルオートでいくわよッ!」


──バババババッ!


「クソッ、この扉が開くまで耐えるぞッ! ミシェル、チャッピーに全力射撃だ!」

「わ、分かりました!」


 俺は、チャッピーに一応積んでおいた分隊支援火器を取り出すと、黒い絨毯向けて発砲した。同時に、ミシェルもPDWを、チャッピーも両腕の機関銃と肩のガトリングガンを発砲する。


──ヴィィィィィィンッ!!

──ズダダダダダッ!

──パパパパパパッ!

──バババババッ!


 グシャグシャと、巨大ウデムシ達が吹き飛んでいくが、その勢いは止まる事は無く、ジリジリと近付いている感じがする。


──ヴィィィィ……カラカラカラカラ……


「ヴィクターさん、チャッピーの弾が切れました!」

「クソ、頼みの綱のガトリングガンが……」


 チャッピーのガトリングガンは、銃身を熱で真っ赤に染めながら、シュ〜ッと熱を放出していた。


《おい、まだ終わらないのか!?》

《今、終了しました。扉を開けます》


 ガゴンッ!という大きな音と共に、背後の巨大な扉が開き始めた。


「よっしゃ、全員中に入れ!」


 射撃を続けながら、後退しつつ扉の中へと入る。


《よし、扉を閉めろ!》

《まだ、全開ではありませんよ?》

《いいから閉めろッ!》


──ガゴンッ!


「な、なんとかなったな……」

「ふぅ〜、助かったぁ!」

「死ぬかと思いました……!」


 全員で、その場に座り込んだり寝転ぶ。扉の向こうからは、未だにカサカサと奴等の蠢く音が聞こえるが、ひとまず安心だろう。


「さてと……こりゃ、凄いな」


 俺は、背後に広がる空間を見つめる。そこには、サイクロプスやアルビオンといったAM達が横たわったり、立ち尽くしていた。それはまるで、巨人の墓場だった……。





□◆ Tips ◆□

【岩グモ】

 モルデミール北部の山林に生息していたクモガタ類が、終末戦争の影響でミュータント化したもの。岩グモという名前だが、蜘蛛ではなくウデムシの一種。

 外観は極めてグロテスクであり、その動きは人間に生理的嫌悪感を与える。大きさは30〜50cm程。

 山岳などの寒冷地に適応しており、冬場は冬眠する。絶食に耐え、洞窟などの自分達のテリトリーに侵入した獲物に群れで襲いかかり、捕食する。

 一度捕捉した獲物に対して、異常なまでの執着を示し、攻撃的になる。その上、囮を使って獲物を誘い出したり、罠にかけたりと知能が高く、厄介な相手である。だが、自分達のテリトリーを出る事は無く、野外までは追跡してくることはない。



【MMG-93 A2】

 連合軍採用の分隊支援火器。本体重量は4.2kgと分隊支援火器としては軽量で、本体もスリムな為、取り回しが良い。A2型は、A1型以前よりも、銃身が肉厚になっており、放熱の為のフルートが緩やかな螺旋状に彫られている。銃身交換無しで、1200発以上の連続射撃に耐えるとされる。

 発射速度が速い割に、反動が少なく優秀な武器。


[使用弾薬]6.8×43mm弾

[装弾数] 100発 / 200発

[発射速度]1000-1200発/分

[有効射程]800m

[モデル] セトメ アメリ

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