第127話 従軍

-数分後

@モルデミール軍基地 第1ハンガー


 モルデミール軍の基地に併設された兵器用ハンガーでは、黒焦げになったAMを前に、汚れた白衣を着た高齢の男と、その部下と見られる男が会話していた。

 そのAMは、先日ヴィクターにより炎上させられた機体であった。


「クソ、狂犬王子め! 機体をぞんざいに扱いおってッ!」

「は、博士ッ!? 不味いですよ、憲兵にでも聞かれたら……」

「はっ、奴等ならさっき総出で出て行ったじゃろ! 悪態つくなら今の内じゃわい!」


 白衣の男は、モルデミール軍技術部の幹部……グウェル・アイゼンメッサー技術大佐である。彼は、皆から“博士”と呼び慕われており、整備兵達の実質的なトップであった。

 彼は長年、旧連合軍基地から発掘された兵器を研究・解析することで、その修理やレストアを担い、モルデミールの軍事力増強に関与してきた天才だ。そんな彼が許せない事はただ一つ……自分達の手が入った機械を粗末に扱われることだった。


「それにしても、何があったんですかね? 火炎放射器の燃料タンクが爆発するなんて……。タンクも、そこらの銃器じゃ穴が開かないように、頑丈に補強してるのに……」

「さあな、どうせ日頃のバチでも当たったんじゃろ」

「そういえば燃料で思い出しましたけど、この機体、例の特殊な奴ですよね? 一体どうやって動いてるんですかね?」

「うん、何の話じゃ?」

「ほら、他の機体はエンジン積んでるじゃないですか? だから燃料が必要だけど、コイツにはそんな物は無いですよね? 俺達だって飯食べなきゃ生きていけないのに、この機体は何を動力に動いてるのか……考えただけでゾッとします」

「今さら何を怖がっとるんじゃ。そんなもん、考えるだけ無駄じゃ。今は失われた、未知の技術の産物じゃよ」

「噂じゃ乗った人間の命を喰らってるとか……」

「馬鹿かお主は!? もうちょっと、科学的に考えんか!」

「科学的に……ですか? た、例えば?」

「ワシは、コイツには発電装置が積んであると見た」

「発電装置……って、あの基地の電力を供給してる、あの謎の機械ですか?」

「そうじゃ。きっとこの機体にも、同じ様な機械が積まれていて、そこから動力を得ている。そう考えると、納得できんか? きっと、あの内部の謎の機械がそうだと思うんじゃが……」

「なるほど、面白い考えですね。しかし、その発電装置にしても、どうやって電力を生み出しているのやら……。やはり、周囲の人間の命を……」

「はっ、それだったらワシは今頃土の中じゃな!」


 彼らの目の前にあるAM……アルビオンは、衛星で発電された電力を無線給電されて動いている。同様の装置は、崩壊後の世界でも残されており、未だに稼働している物もある。

 だが、彼らはその原理が全く分からないまま利用しており、不気味に感じる者もいるようだ。


「装置の謎が解明出来るのは、エルメアの代か……はたまたもっと次の世代になるじゃろうて。できれば、ワシの代で解明したかったがの」

「確かに、エルメアちゃんならもしかしたら……。でも、博士もまだまだ死にそうには見えませんけどね」

「当たり前じゃ、ワシはエルメアの孫を見るまで生きる予定じゃからの!」

「いや、どんだけ生きる気ですか……」

「さて、お喋りはこれくらいにして、コイツの整備計画でも練るか……」

「ジャミル様にも、修理を急ぐ様に言われましたしね……」


 彼らが、ジャミルのAMの整備計画を練っていると、彼らの元に募集所の兵士がやって来て、一人の青年を紹介してきた。


「博士! 整備兵に志願した者を連れて参りました!」

「ヴィクターです! よろしくお願いします!」

「なんじゃと? 募集はもういいと言ったはずじゃが……」

「いや、博士……エルメアちゃんが親衛隊に引き抜かれたからって、勝手に募集止めないで下さいよ! 俺が改めて募集を出しておきましたよ」

「なんじゃと……貴様、仮にもワシは上官じゃぞ!? 勝手に何をしとるんじゃ!? それに、孫の事は関係ないわい!」

「勝手なのは博士ですよ! 整備兵だって、遠征部隊に人を取られてから人手不足なんですよ? せめて、エルメアちゃんが抜けた穴を埋めてもらわないと!」

「ぬぐぐ……ふん! あの娘に匹敵する者など、いるはずがないじゃろう! 何せあの娘は天才じゃからの!」


 博士達は、何やら口喧嘩を始めてしまい、募集所から来た兵士がどうしていいか分からず、オロオロしている。


「あ、あの〜……私は募集所に帰らせて貰いますね? じゃあ、頑張るんだぞ若いの!」

「はい! ありがとうございましたッ!」


 そして、兵士は志願者……ヴィクターを置いてさっさと帰って行った。


「ほら、見てみなきゃ分からないでしょう? もしかしたら、凄腕かもしれないし……」

「この若造がか? ふん、まあいいわい。おいそこの若いの、お前さんは整備兵希望という事じゃが、何ができる?」

「はい、整備に関する、基本的な事は出来ると自負しております!」

「ほう、面白い……なら早速、その腕前見せて貰おうか。ほれ、そこに停まってる車があるじゃろ? あれを直してみろ。道具はその辺のを好きに使え」

「はい、了解しました!」

(ちょっと、博士!? あの車をいきなり一人でやらせるなんて、鬼畜ですか!?)

(ふん。何も分かっとらん癖に、基本的な事はできるなどとふざけた事を抜かしおる……。基本を蔑ろにするようでは、整備兵として失格じゃ! ああいう思い上がりには丁度良いじゃろ?)


 ヴィクターは、指定された車の元へと向かうと、ボンネットを開いた……。



 * * *



-数時間後

@モルデミール軍基地 第1ハンガー


 あれから数時間……恐らく試験なのだろうが、俺はモルデミール軍の故障車両の修理を行っていた。

 この車両だが、ガフランク防衛戦時に敵が使用していた物と同じだった。つまり、あの時戦った連中は、やはりモルデミール軍だったという訳だ。

 カナルティアの街だけでなく、遠く離れたガフランクにまでその魔の手をのばすとは……。やはり、潰しておくべきだな。


 それはそうと、車両の修理は大体終わった。車の構成は、以前ガラルドが乗っていた車と似ていたので、一度バラした事がある俺には、特に苦労する様な事も無かった。

 しかし碌な部品が揃って無く、廃品置き場から使えそうな物を取ってきたり、似たような廃部品を削って整形したりと、色々と手間がかかった。だが、何とか車を動かせる位にはなった。とりあえず、純正の部品が手に入るまでの応急処置は出来ただろう。


「ああ、ごめんね君! えっと、ヴィクター君だっけ? ちょっと立て込んでて、構ってられなかったよ」

「どうじゃ若いの、そろそろ降参じゃろ?」


 俺が一通りの作業を終えて、一息ついていると、先程の博士とか言う奴と、その部下がこちらにやって来た。演技モードに戻らなければ……。


「いえ、修理……とまではいきませんが、応急処置は済ませました。とりあえず自走はできます」

「そうじゃろう、そうじゃろう。まあ、無理なのは最初から……ってなんじゃとぉ!?」

「自走って、君……これ動かせるのかいッ!?」

「はい、今エンジンを入れます!」


──キュキュドルンッ!


 車は、錆びて軋んだ音を上げると、エンジンに火を灯した。


「そ、そんな馬鹿な!? 本当にあの車なんじゃろうな!?」

「は、はい……ナンバーも合ってます! 凄いね君、この車直すの手間がかかりそうだったのに……」

「はい。足りない部品もありましたが、廃品を改造して何とか間に合わせました!」

「何じゃと!? ……う〜む、確かに完璧とは言い難いが、これなら実用に耐えるレベルじゃ。」


 博士達は、俺が修理した車を隅から隅まで眺めると、肩を組んで何やらヒソヒソと話し出した。


(博士、凄い新人ですよ!? もしかしたら、エルメアちゃん以上の……)

(な、何を言うか!? あの娘は、機械だけじゃなく銃器にも強かったんじゃ! それができなきゃ採用はせんわい!)

(いい加減にして下さいよ! あんな天才、他にはいませんって!)

(とにかく! エルメア並みの腕前が無いと、ワシは認めんぞ!)


「あの〜?」

「むっ……ゴホン! よし若いの、ひとまずは良く出来た様じゃな」

「ありがとうございます!」

「次の試験は、銃の修理をやって貰う!」

「ええっ、何も知らずにそれは流石に……」

「うるさいわ! ほら若いの、ついて来い」


 俺は博士達にハンガー内の作業スペースに連れて行かれた。そこには、壊れた銃器が数丁並べられていた。


「さて、とりあえずその台の上に並んだ銃を、全て直して貰おうかの?」

「は、はぁ……」


 台の上に並んだ銃を見ると、錆が酷かったり、銃身が曲がっている物もある。とても修理した所で、使える物になるとは思えないが──。

 ……いや、待てよ。これは試験だ。つまり、相手は俺が現場でどう動くかを見たい訳だ。そうなると、やる事は一つだな。


 俺は、並んだ銃を一つ一つ良く観察する。全てボロボロではあるが、よく見ればそれぞれまだ使えそうな部品やパーツが付いている。

 俺は、一つずつ銃をバラバラにしていき、使えそうな物を選別すると、それで一丁の銃を組み上げた。いわゆる、共食い整備という奴だ。


「出来ました!」

「……若いの、ワシは全て直せと言ったはずじゃが?」

「はい。……ですが、それはできません。仮に、稼働できるまで修理したとして、それが兵士に渡ったら、必ず事故が起こるでしょう。それは、整備する身としては絶対に避けるべきだと考えます」

「ほう……!」

「ですが、この壊れた物の中にも、まだ使える部品が含まれておりました。それを廃棄するのも勿体ないと考え、こうして寄せ集めではありますが、1丁組み上げたという次第です!」


 俺がさっき適当に考えた言い訳を、周りの整備兵達も手を止めて聞いていたようだ。そのせいで、しばしの静寂がハンガー内を支配する。

 ……あれ、何かまずかったかな?


「か、完璧だ……!」

「……う〜む、気に入ったッ! 若いの、名前は?」

「はい、ヴィクターです!」

「ヴィクターか、歓迎するぞい!」

「えと、試験の方は……?」

「んなもん、合格に決まっとるわッ! お前さんのような奴を待っとんたんじゃ! お前達、新人に色々と教えてやれ、ワシは早速人事課に行って来るぞい! ワハハハハッ!」


 そう言うと、博士は笑いながらハンガーを出て行った。


「おいおい、すげぇな新人!? あの偏屈爺さんが気にいるなんて!」

「よろしくな、新人!」

「ここじゃ、上下関係は気にしなくていいからな。あの人の事も、アイゼンメッサー技術大佐とか仰々しい呼び名じゃなくて、博士とか爺さんって呼んでいいからな?」

「は、はぁ……。でも上官ですよね? いいんですか、それ?」

「いいのいいの、あの人根っからの技術屋だし。それに、俺達は普通の兵士と違って整備兵だからな。堅苦しいといけねぇや! まあ、ともかくよろしくな!」

「よろしくお願いします!」

「ハハハッ、硬い硬い!」

「もっと気楽にしろよ!」

「……よろしく」


 博士が去った後、俺は整備兵達に囲まれて、歓迎された。……なんだろう、スパイしに来ているのに、この雰囲気は悪くない。やっぱり、俺にスパイは向いてないんだろうな。


「それにしても凄いね君、よくあの試験を突破できたね?」

「そういえば、あれってどんな意味があったんですか?」

「ああ、あれはね。使える部品を見定める目があるかと、銃を組み上げる腕があるか……それと、無茶な要求にちゃんと反論できるかを見たかったんだと思うよ? 博士も上から、色々と無茶な事言われてて頭に来てるしね」

「は、はぁ……」


 ともかく、試験は突破できた。この後、俺は無事にモルデミール軍の整備兵として潜入する事に成功したのだった。



 * * *



ーヴィクターが車の修理を始めた頃

@モルデミール軍基地 厨房


 時を少し遡り、ヴィクターが車の修理を始めた頃、同じく炊事兵に志願したミシェルが、基地の厨房に案内され、そこのトップと対面していた。

 彼は鉄人と呼ばれており、基地の厨房の料理長を務めていた。


「……」

「あの……よろしくお願いします!」

「……」

「あの……えっと……?」

「……坊主、包丁を握った事はあるのか?」

「は、はい! 殆ど毎日握ってます!」

「ウチは半端者は求めてない。皿洗いも要らない、間に合ってる。必要なのは、相応の腕前だ」

「は、はい……!」

「……よし、ついて来い。見てやる」


 ミシェルは、鉄人に案内され、サイズが合わずに若干ぶかぶかのエプロンを着せられると、調理台に立たされた。


「そこの台にあるのは、食材の切れっ端やら、廃棄予定の物だ。それを使って、調理場のまかないを作れ。いきなり、兵士達の食事を作らせたりはしない」

「はい、頑張ります!」


 ミシェルは、食材を眺めると早速調理に取り掛かった……。



 * * *



ー夕方前

@モルデミール軍基地 食堂


 モルデミール軍基地の調理要員達は、仕事が忙しくなる前に、早めの食事を取る。この日も、夕飯の仕込みを終えた彼らが、いつも通りに食堂のテーブルで、夕飯の用意をする。


 彼らの食事は、兵士達に用意される物とは違い、食材の端材などの、いわゆる余り物を使った物だ。兵士が優先されるモルデミールでは、調理員が兵士と同じ物を食べる事は許されていなかった。

 大したものは口にできないが、それでも食費は免除されるので、誰も文句は言わなかった。……言うとすれば、その賄いがあまりに不味かった時ぐらいか。


「おい聞いたかよ、今日の賄い?」

「ああ、あれだろ。志願者の……」

「前回は酷かったからな、採用しなくて正解だぜ」

「おい、今回は勘弁してくれよ? 今日はクソ腹減ってるんだから」

「で、その志願者ってどいつよ?」

「ほら、あの前にいる金髪の奴だ」

「ケッ、まだガキじゃねぇか。今回も外れかもな」


(ど、どうしよう……もし口に合わなかったら……)


 ミシェルは、他の炊事兵達の好奇の目に萎縮してしまい、不安に陥っていた。そんな不安をよそに、次々と皿にミシェルの作った料理がよそわれていき、炊事兵達が自分のトレーに乗せていく。


「何だこりゃ? おい坊主、何作ったんだ?」

「ひゃい!? え……えと、端材のポトフと、肉の切れ端で作った炒め物です!」

「へ〜、美味そうじゃん!」

「おい、鉄人が来たぞ。早く席につけ!」


 炊事兵達は全員席につくと、鉄人が皆の前に立つ。


「これより、志願者の選考をはじめる! 今日の賄いは、この志願者が作った物だ。いつも通り、食った後に挙手を求める。美味いと思った奴は手を挙げろ。では、食事始め!」


 鉄人が合図をすると、炊事兵達は一斉に食べ始める。そして、しばらくの間皆無言で黙々と食事を食べ、その様子をミシェルは緊張した面持ちで見つめていた。




「……よし、そろそろいいな。美味いと思った奴は手を挙げろ!」

「「「「「 …… 」」」」」


 鉄人がそう言うと、鉄人を含め、炊事兵の殆どが手を挙げた。


「……文句無しだ。合格だ!」

「あ、ありがとうございますッ!」


 食堂内は、拍手や歓声で響き渡るが、すぐに鉄人がそれを諫める。


「おい、静かにしろ! 新入りが怖がるし、憲兵が来るだろうが! ……よし新入り、挨拶しろ」

「は、はい! えと……ミシェルといいます、どうぞよろしくお願いしますッ!」

「ミシェルには、明日から夜の賄いを任せる予定だ! 全員仲良くしてやれよ?」

「「「「 イエッサー! 」」」」

「俺は人事に行ってくる。全員、ミシェルと顔合わせしたら、兵士達の夕飯の用意にかかれ! ミシェルは、今日は帰れ。明日からまってるぞ」

「はい、よろしくお願いします!」


 その後、無事に炊事兵になったミシェルは、炊事兵全員からの挨拶攻撃の後、基地から出る事ができた……。



 * * *



-数時間後

@モルデミール軍基地 入り口


 一通りの仕事の説明と、整備兵としての身分を得た俺は、基地の入り口にてカティアとミシェルを待っていた。


「あっ、ヴィクターさん!」

「ようミシェル、どうだった?」

「はい! 無事に炊事兵になれました!」

「良くやった! これでいざと言う時に、仕掛けやすくなるな」


 先に来たのはミシェルだった。ミシェルも無事に炊事兵になれたらしい。これで、いざと言う時に、兵士達の食事に薬剤を混入させるなどして眠らせて、敵の戦力を奪う事ができる。名付けるなら“飯テロ作戦”だろうか?

 実は、ミシェルを炊事兵にしたのは、年齢不問という事もあるが、この飯テロ要員の確保が目的だった。ミシェルには悪いかもしれないが、取れる手段は多い方がいい。


「後はカティアだが……大丈夫かな?」

「正直、心配してないって言うと嘘になります……」

「まあ、出て来なかったら後でスカウトバグで偵察させるか」

「腕時計、外してきちゃいましたしね」

「ああ。だが、明日からは付けないでも、身につけておいてくれ。いざと言う時に、連絡できた方がいいし、チャッピーも呼べるからな」

「はい、そうします!」


 基地に入るに当たって、ミシェル達は俺が渡した腕時計を外していた。ガフランクで遭遇したチャッピーの元の主人も、この腕時計をしていた。

 クランプ准将によれば、モルデミールはこの腕時計の事を“支配者の腕輪”と呼んでいるらしく、AMの操縦者などの選ばれし人間がつける物だという認識らしいのだ。


 どうやって腕時計を調達しているかは、未だに分からないが、下手にモルデミールの人間に見せる訳にもいかないので、今日の所は隠れ家に置いて来ていたのだ。

 その為、カティアとの連絡が取れなかった。


「……仕方ない、もうちょっと待ってみて、来なかったら帰ろう。もしかしたら、先に帰ってるかもしれないしな」

「そうですね」

「んな〜っはっはっは! 上官様のお通りよ!」

「……えっ、カティアさん!?」

「……何してんだ、あいつ?」


 俺達が先に帰るかと話していると、基地の方からモルデミール軍の制服姿のカティアが、高笑いしながら歩いて来た。

 ちなみに、モルデミール軍の制服は、かつての連合軍が使用していた物と大差がない。カティアが着てる物は、女性士官用の礼服で、タイトスカートにネクタイ、制帽まで被っていた。昔と違う所は、ハイヒールでは無くブーツを履いている所だろうか……。

 カティアとすれ違う兵士達が、彼女に対して敬礼し、彼女はそれに片手を挙げて応えている。


「おい、随分と偉そうだな? って事は、合格したんだな?」

「お陰様でね。とりあえず、明日から来いってさ。この服は貰っちゃった!」

「カティアさん、何かカッコいいですね!」

「まあいい、とりあえず目立つからさっさと帰るぞ!」

「いや〜、なんか私も偉くなった感じがして、気分が良いわ♪」

「……格好だけだろ?」


 カティアと合流した俺達は、隠れ家へと帰った。その後、俺達は隠れ家を拠点に、モルデミール軍での潜入活動を開始したのだった。





□◆ Tips ◆□

【モルデミール軍基地の待遇】

 モルデミール軍基地は、軍の中枢部であると同時に、モルデミールの政治中枢にもなっている。基地には、閣下ことデリック・エルステッド総司令官の官邸も存在している他、各地に展開している部隊と連絡を取る為の、通信施設などが存在している。

 そんなモルデミールにとって重要度の高いこの場所には、守備兵や訓練中の新兵の他、その他多くの職種が所属し、働いている。

 基地の職員の給与は基本的に週給制で、軍票が支給される。また、モルデミールの経済は軍が発行している軍票で成り立っており、軍票は軍の配給所にて食糧や物資と交換できる。

 その他にも、職種によって様々な待遇がある。以下に、待遇例を紹介。



●兵士(新兵)

 給与は安いが、衣食住が保障されている。……実際は、貸与される服は中古で修理を重ねたボロボロの物が多く、基地の兵舎で寝泊まりさせられているのが現実。食費が免除されているのが、唯一の救い。多くは下士官になるのを夢見ている。


●整備兵

 給与は、特技手当がついて兵士より高い。だが、食費は自腹なので、基地の食堂では料金を請求される。衣服は、整備用のつなぎが貸与される。また、兵舎の利用はできないので、自分の家から通う者が多い。だが当然、軍からの住宅手当てなどは一切無い。中には家がなく、ハンガー内で寝泊りしている者もいる。


●調理員(炊事兵)

 食費は免除(ただし、余り物を使った賄い料理)。給与は、兵士と大体同じか少し高い。調理用のコックコートや、エプロンなども貸与される。朝食の準備などをする為、交代で基地に寝泊りするが、基本的に実家通い。


●親衛隊

 基本的に士官になる為、給与は高い。制服も、士官用の礼服などが新品で支給される。食費は免除される上、兵士より上等な食事が食べられる。また、希望者は士官用兵舎の個室が充てがわれる。とってもホワイト?

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