第125話 モルデミール潜入作戦

-十数日後

@レンジャーズギルド 支部長室


「いや〜ヴィクター君にカティア君、ランクアップおめでとう!」

「いや、試験はいいのかよ?」

「ちょっとヴィクター、余計なこと言わないでよ! 支部長がボケてる内に、貰えるものは貰っとかないと!」

「それもそうだな」

「……いやいや、私はまだボケる歳じゃないですからね?」

「はい、どうぞヴィクターさん?」

「ありがとう、フェイさん……」


 フェイが、トレーに載ったドッグタグを持って来る。受け取ったドッグタグには、名前とBの文字が刻印されていた。


 内戦……7日間戦争と呼ぶ事になったらしいが、それが終わってから十数日、街は復興作業で賑わっていた。街自体には大したダメージは無かったのだが、壁に弾痕が刻まれたり、装甲車に壁をぶち抜かれたり、爆発や火事で家や店が焼失したりと、各地に戦闘の傷痕が遺されていた。

 街中を散歩すれば、至る所で街の人々が作業に明け暮れていた。警備隊長のおっさんが、調子に乗って全焼させた議会の再建も正式に決定したようで、捕虜達が瓦礫の撤去作業に駆り出されているらしい。


 ノア6にて車両の整備と、しばしの休暇を過ごした俺達は、カナルティアの街へと戻って来ていた。そして、戻って来るなり、ギルドへ呼び出された。

 内容は、俺とカティアのBランクへの昇格だった。新種ミュータントの討伐や、人喰い村の調査、ガフランク農園連合の救援、そして7日間戦争での活躍と、これまで色々と活躍してきたので、やっとかという気分ではあるが……。

 本来なら、こんなに早くランクアップする事は無いらしい。それだけ、俺はギルドに貢献しているのだろう。……カティアは、便乗できて運が良かったな。


 ちなみに、ジュディ達も7日間戦争での活躍を認められ、全員がD+ランクへと昇格したらしい。警備隊長のおっさんの依頼は、効果が大きかったようだ。


 ミシェルは、レンジャー登録時に年齢を詐称していた事がバレてしまった為、昇格はしたがE+ランク止まりとなった。バレたというか、フェイが嘘は良くないと忠告し、ミシェルもそれが原因で俺達に迷惑をかけないようにと、自首した感じなのだが……。

 本来なら、14歳は例外なくFランクなので、ミシェルは異例の存在と言えよう。特に罰則も無く、ランクアップさせてくれたあたり、この支部長も子供には甘いらしいな。


「よし、じゃあ帰るか……」

「そうね」

「ああ、ちょっと待って下さい、まだ用があるのです」

「何だ?」

「任務を引き受けて貰えませんか?」



 * * *



-2日後

@モルデミールへの道中


 ランクアップから数日後、俺達はモルデミールへと向かっていた。何故なら、支部長から任務を受けた為だ。

 任務の内容は、『敵性都市の偵察』及び『敵首領と関係者の抹殺』だ。要は敵情視察と共に、敵のトップとその周りを暗殺して来いと言う事だ。

 敵は、一人の権力者を中心に動いているらしい。その周囲を始末すれば、モルデミールの政治機能は麻痺し、戦争継続能力を失ってくれるかもしれない。


 任務の内容を聞いた時は驚いたが、俺は乗り気だった。

 敵は、AMを使用できるほどの技術力を持っている。それが平和利用されてるなら問題ないのだが、残念ながら軍事利用されていて、現に俺達の生活している街に攻め込んできた。高度な文明の産物は、容易に世界を壊し得るのだ、もはや看過出来る事態ではなかった。

 そんな時にこの任務は、正に渡りに船だった。どの道任務が無くても、いずれモルデミールへは敵の戦力を把握する為に行ってみる予定だったのだ。それに、脅威を合法的に潰せるときたら、潰しておくに限る。


 そして任務を受けた俺達は、準備を済ませるとモルデミールへと出発した。

 任務は俺達のチームに極秘に課せられたものだったのと、潜入という関係で少人数で動きたかったので、今回ジュディ達はカナルティアの街に置いて来ている。


 また、潜入の為に“アポター”や“ビートル”といった目立つ車両は使えない。そこで出番が来たのが、ビートル導入前まで使っていた4輪駆動車だった。

 カイナに【ハウンド】と名付けられたこの車は、この前ロゼッタが街まで来る際に使った事で、まだ利用価値があると判断した。俺は、休暇中に改修を施して、街での移動用やロゼッタの足にでも使用しようと考えていた。まさか早速、使う場面が来るとは驚いたがな……。


「お〜いミシェル、そういや長いことチャッピーに乗ってるが、乗り心地はどうだ?」

「はい、前と比べると段違いです!」

「それは良かった、大事にしろよ?」

「はい! ね、チャッピー?」

「ガガピー♪」


 窓を開けて、チャッピーに乗るミシェルに話しかける。チャッピーは休暇中に、ノア6にてメンテナンスと改修を受けて、以前とは別物に生まれ変わっていた。

 例えば、不整地では不便だった球形スフィアタイヤから、小径のノビータイヤに変更した。その結果、戦術的な機動性は若干低下してしまったが、今の様に不整地で車に随行出来る位にはオフロード性能が向上し、乗り心地も改善されたようだ。


 他にも色々と弄ったのだが、音声機能を直した時、事務的な会話しか出来ない事が嫌だったのか、ミシェルから元に戻してくれと頼まれてしまった。そこで、ミシェルの声の抑揚などから感情を読み取り、それに対応した電子音が流れるように改造した。

 つまりチャッピーは、人格AIが非搭載のプログラム通りの行動をしている機械に過ぎず、感情は一切無い。だが、人間とは不思議なもので、電子音だけでも愛着が湧くようだ。ミシェルはこの状態のチャッピーを気に入って、良く話しかけるようになった。



 その後、雑談をしながらモルデミールへと車を走らせていると、ロゼッタから通信が入った。


《ヴィクター様、進路上にある居住地ですが……》

《ああ、確かモルデミールの勢力下って話だったな。それがどうかしたか?》

《はい。そちらに向けて、AMが1機と複数の車両から成る部隊が接近中です》

《AMか……。機種は?》

《AM-5 アルビオンです。IFF(敵味方識別装置)に反応があります》

《それは厄介だな……》

《どうされますか?》

《放っておけないだろ。様子を見に行く》

《セラフィムの支援は……》

《大丈夫だ。その為にロゼッタと訓練したんだからな。それに、敵はマニュアル操縦だ。動きは読みやすい》

《そうでしたね……》


 敵がAMを使ってくる以上、こちらも対策を講じる必要がある。俺はノア6にて、ロゼッタと対AM用の戦術を研究し、訓練していた。

 AMの装甲に、歩兵が持つ火器で対処するのはほぼ不可能だ。だが、中からならどうだろうか? 敵の機体に取り付いて、コックピットの中を直接攻撃できれば、AMを止める事は出来るはずだ。

 そういえば、あのボードンとか言う大男も鎧の中を直接攻撃して倒しているし、以前にアーマードホーンも飛び乗って倒している。肉薄攻撃の有効性は俺自身が実感していた。


 とは言うが、簡単な事ではない。訓練時、何度も失敗したり、ロゼッタのAMに捕まったりした。その結果、何とか良い感じに動けるようにはなったが、結局ロゼッタに勝利することはできなかった。

 ロゼッタの様に、最新機かつ電脳操縦だと勝ち目はないだろう。だが、敵は旧型機が中心の上にマニュアル操縦なので、動きが単調になるはずだ。敵がAM複数機なら無理だろうが、単機なら勝機はあるはずだ。


《まあ、あの訓練はいざという時の為のものだ。兵器の相手なんてゴメンだからな、無理はしないつもりだ》

《賢明かと。それでは、ご武運を……!》



 ロゼッタとの通信を終了すると、俺はアクセルを踏んで、車の速度を上げる。


「あれ、ヴィクターさん? チャッピー、速度上げて!」

「ガガピー!」

「ああ悪いミシェル、ちょっと急ぐぞ。一応、戦闘準備をしておいてくれ。カティアもな!」

「はい、分かりました!」

「待ってました! この車、映画観れないし暇だったのよね!」



 * * *



-数時間後

@モルデミール支配領域 辺境の村


 村の中心には、モルデミール軍の兵士達が村人達と揉めていた。突如村にやって来た兵士達は、村に食糧の供出と、村からの退去を要求して来たのだ。


「そ、そんなバカな!?」

「そんなに取られたら、我々の明日の食料すら無くなってしまうではないか!」

「モルデミールは我々を飢え死にさせるつもりか!」

「その上、この村を出て行けだって!?」


 村人達に詰め寄られた兵士達は、毅然とした態度で村人達に接する。


「今は非常時なのだ。諸君らの奉仕に、閣下もお喜びになるだろう」

「先程も言ったように、男は軍に入れば良かろう。そうすれば、飯にはありつけるぞ」

「見たところ、元気はあるみたいだしな?」

「ぬぐぐ……!」

「くそぉ……!」


 村人達は、兵士達の理不尽な要求を受け入れるしか無かった。何故なら、1機のAMが兵士達の背後に控えていたからである。


『はぁ、つまンねぇな……。よし、決めた! さっさと食糧を用意しないと村を焼くわ!』


 AMの外部スピーカーから聴こえてきたパイロットの声に、兵士達はギョッとして振り返り、村人達は驚いて後退あとずさる。


「む、村を焼く……だって!?」

「ま、待って下さい! すぐに用意しますから!」

「じゃ、ジャミル様! 脅しだからといって、そのような事を村人達に仰るのは……」

『脅しだぁ? なに言ってるンだ、お前? 親父は焦土作戦だって言ってただろうが……。焦土ってのは、焼けた土地って意味だ。だから、遅かれ早かれこの村は焼くンだよ、バカかお前?』

「そ、それは住民の移動が済んでからで……」

『あ!? 俺様に指図すンじゃねぇよ! 大体、食糧を徴発して終わりだぁ? つまンねぇだろ、それ』

「つ、つまらない!? 我々は、モルデミール全体の事を考えて、泣く泣くこの作戦を実施しているのです! 遊びじゃないんですよ!? それを……」

『あ〜うざ、お前反逆罪で死刑な?』

「えっ?」


──ジュボワァァァッ!


「ぎゃあああッ! アッアッアァァァァッ!!」

『ヒャハハハッ、よく燃えるじゃねぇか!』

「「「 ひぃぃ! 」」」


 パイロットを諫めようとAMの前に飛び出した兵士に対し、AMは腕を突き出すと、前腕から伸びるノズルから火炎放射を浴びせた。全身を燃え盛る炎に包まれた兵士は、地面を転げ回りながら絶命する。

 その様子に村人達は怯え、兵士達も信じられないという顔をしていた。


「な、仲間を殺したぁ!?」

「あ、あれが閣下の御子息なのか!? あれが後を継いだら……」

「やめろ、滅多な事は言うなッ!」

「く、狂ってやがる!」

「あれが、“狂犬王子”……!」


 AMのパイロットは、モルデミールの首領…デリック・エルステッド総司令官の息子、ジャミル・エルステッド少佐であった。……若くして“少佐”なのは、完全に親の七光りである。

 ジャミルは、今兵士達が陰口を叩いていたように、“狂犬王子”の渾名で恐れられていた。彼はサディストとして悪名高く、頻繁に罪もない者を反逆罪で甚振いたぶり、楽しんでいたのだ。


 兵士達も、まさか配下の兵士が犠牲になるとは思わず、酷く困惑していた。そんな中、ジャミルの残酷な言葉が告げられる。


『お、いい事思いついたぞ! お前達、後10数える間だけ待ってやる! さっさと食糧を出さないと、お前達を反逆者と見做し、この燃えカスと同じ目に合わせてやるッ!』

「わ、分かりましたッ!」

「い、急いで献上しますのでッ!」

『10……9……8……ヒャア、やっぱがまんできねぇ! ゼロだッ!』


──ジュボワァァァッ!


「「 ギャアァァァァッ!! 」」

「な、何故ッ!? 今すぐに献上すると……!」

『ああん!? 俺様が0って言ったらゼロなンだよ!』


 ジャミルは、家へと走り出した村人達に火炎放射を浴びせると、村に向けて宣言する。


『今からこの村にいる奴等は、我がモルデミールの反逆者だ! 反逆は重罪だよなぁ? よって村は焼き払う、人間も含めてなぁ! 皆殺しだぁッ!!』


 そう言うと、ジャミルは近くの家に火炎を放ちながら、未だに茫然自失となっている兵士達に言い放つ。


「な、何という……こ、これは悪い夢だ……」

「そ、そんな……こんな事って……」

『あん? お前ら何ボサっと突っ立ってるンだ? 皆殺しだって言ってンだろうが! お前らが握ってるソレは何だ、あぁ!?』


 兵士達はそれぞれ唾を飲み込むと、銃口を村人達へと向け、発砲を始めた。村人達は逃げ惑い、命乞いをしながら次々と死んでいく……。


「これだよコレ! やっぱ、こうじゃなくちゃなぁ!」


 その様子を、ジャミルはAMのコックピットのモニター越しに眺めながら、悦に浸っていた。

 その時、コックピット内に今まで聞いたことがない警報が鳴り響いた。


──ピピピ……ブーッ! ブーッ!


『警告! ミサイル接近』

「あ? 何だこりゃ?」


 ジャミルがそう呟いた瞬間、突如機体に向けて何かが飛んできた。その刹那、大きな衝撃が走り、火炎放射器の燃料タンクが爆発し、大きな火柱が上がった。


──ドンッ、ズガンッ!!


「な、何だぁ!? 何なンだよこれぇッ!?」


 突如飛来した何かが、ジャミルのAMの背中についていた燃料タンクを撃ち抜き、誘爆させたのだ。ジャミルのAMは未だ健在だが、火のついた燃料を浴びて炎上していた。

 周りの兵士達も、爆風で転倒したり、ジャミルのAMが火に包まれているのを見て、どうすればいいのか分からず、オロオロしている。


「な、何だ!?」

「鉄巨人が……燃えている……!?」

『何やってる! さっさと火を消せよッ!!』

「「「 は、はい! 」」」


 ジャミルは、兵士達に火を消すように命じる。


「クソッ、火炎放射器もブッ壊れちまったし、一体何が起きてるんだぁ!? ……チッ仕方ねぇ、一度退却するか」

『おいお前ら、戻るぞ! さっさと準備しろ!!』


 ジャミル達は、何が起きたか理解できないまま、大急ぎでモルデミールへと帰還して行った。



 * * *



ー同時刻

@村近郊の林


 本来なら敵のAMが到達する前に到着したかったが、残念ながら間に合わなかった。村は、敵のAMの装備した火炎放射器により、数軒の家が燃やされ、黒煙を上げていた。

 本来、AMの装備に火炎放射器など存在しない。恐らく崩壊後に作られた物なのだろう。


 俺は、車から携行式ミサイルランチャーを取り出すと、剥き出しになっていた火炎放射器のタンク目掛けて発射した。その結果タンクは誘爆し、大きな火柱が上がった。

 流石にそれだけではAMは撃破できないし、発射したミサイルも有効打は与えられない。だが、敵にとっては想定外の出来事だったらしく、何やら急いだ様子で撤退して行った。

 ……AMとの直接対決は避けられたようだな。


「……行ったか」

「何て奴らなの! 村に火をつけるなんてッ!」

「酷すぎますッ!」

「よし、村の様子を見に行くぞ。ミシェル、チャッピーに布を掛けろ」

「はい! ……チャッピー、少し我慢してね?」

「ガガピー……」


 人に見られて怖がられないように、チャッピーに布を掛けて、低姿勢で車の後ろを走らせる。こうすれば、荷物を牽引している様に見えるだろう。



 * * *



-数時間後

@村長の家


 あの後、旅人を装って村に入った俺達は、怪我をした人の介抱や消火の手伝いをした。知らない内に、ミシェルが応急処置の手技をロゼッタから習っていたようで、怪我や火傷を負った人達に手当てを施していたのには驚いた。お陰で、村人達の警戒心を解く事ができた。

 そうして村人達に感謝された俺達は、村の村長にモルデミールの話を聞く事にした。


「手を貸して頂き、助かりました」

「いや……ところで、連中は何故この村に?」

「村の食糧全てを供出し、さらに村から退去せよと言われまして……。いつもこの時期に税の徴収に来ていましたが、こんな要求は初めてでして……」


 焦土作戦か……? まあ、敵もカナルティア侵攻が失敗したという事は分かっている筈だ。カナルティアの街からの逆侵攻を警戒して、この様な暴挙に出たとしても不思議ではない。

 どうも敵は、昔の一件以来ギルドを敵視しているらしいので、ギルドの攻撃でも警戒しているのかもしれない。


「それは、無茶苦茶だな。それに反抗したから、何人も殺されたのか?」

「い、いえ……。突然反逆者だと言われ、攻撃を……」


 虐殺じゃないか……。てっきり、反抗した者が見せしめに殺されたと思ったのだが……。

 例の懲罰部隊の仕業だろうか? 敵は、正規部隊と懲罰部隊を使い分けるという事は、クランプ准将の情報提供で判明している。だが、懲罰部隊にはAMは配備されていないという話だったはずだが……。う〜ん、分からん。


「で、これからどうするんだ?」

「逃げるしか無いでしょう……このままでは、反逆者のレッテルを貼られて殺されます。それに、ギルドは助けて下さらないのでしょう?」

「ん? 何の話だ?」

「貴方達、ギルドの偵察員でしょう? 旅人なんて、普通はモルデミールには来ませんからね」

「バレてたか……。で、それを知ってどうするんだ?」

「何もしませんよ。ただ、できましたら情報を教えて頂きたい。我々は、今までモルデミールから出る事がありませんでした。なので、逃げるにも周辺の事に疎い有様でして……」

「分かった、じゃあ俺達にもモルデミールの情報を提供してくれ」


 その後、村長に周辺の村や街の情報や、一般常識などと、モルデミールの情報や一般常識などを教え合った。

 彼らは、俺から得た情報を元に、オカデルの街や、カナルティアの街へと逃げるそうだ。もっともカナルティアの街は、自分達モルデミールが攻め込んだばかりなので、なかなか行き難いそうだが。


 情報を交換して驚いた事は、彼らはギルドが発行している貨幣……メタルを使用していないそうだ。まあ、ギルドが撤退しているし、憎きギルドの通貨なぞ使わないという事なのだろう。その代わりに、“軍用手票”……略して“軍票”と呼ばれる紙幣を用いているらしい。

 一応、クランプ准将からモルデミールに関する基礎知識は聞いているが、彼も一応お偉いさんだったので、こういった世俗的な事までは気が回らず、話してくれなかった。捕虜達も全員労務に就いており、話せなかったので、こうして村人からモルデミールの一般常識を学べたのは収穫だった。



 お互いの情報を交換した後、村長や村人達と、俺の持つメタルと彼らの軍票を両替して当面の活動資金を確保すると、村を出発した。


「へ〜、これがモルデミールのお金ね……ただの紙切れじゃない。本当にこんなのに、価値があるの? ヴィクター、騙されてるんじゃない?」

「破くなよ、カティア。その札、普通の人間の1週間分の給料位の価値があるらしいからな?」

「うげ、これがぁ?」

「僕も信じられないです! こんな紙切れに、価値があるように思えないですけど……」

「言っとくが、崩壊前の金も紙で出来てたぞ? ……まあ、俺は殆ど電子マネーしか見た事ないがな」

「嘘でしょ、ただの紙切れが何で……!?」

「ど、どうして紙がお金に?」

「それは政府の信用を基礎に……って悪い、やっぱ経済学は専門外だ。ロゼッタから聞いてくれ、ミシェル」

「はい!」


 その後、俺達は先程村を襲っていた部隊の後を追うように、モルデミールへと向かうのだった。





□◆ Tips ◆□

【ハウンド】

 ビートル導入以前に使用していた車に、新たに改修を施した物。

 信頼性と防御力向上の為に、取り外し可能だったルーフやウィンドウを固定した他、剥き出しだった荷台もハードトップに改められた。

 ルーフに、箱型の展開式砲塔が設置されており、普段は荷物に擬装しつつ、万一の時は車内からリモートで射撃できるようになった。

 名前はカイナが命名。由来は、4輪駆動=4本足で武装していて、呼んだら自動運転で自分達の所へやって来る所が犬みたいだかららしい。


[武装]・デスパレート(7.62mm機関銃)




【チャッピー】

 ガフランク防衛戦にて、狼旅団から鹵獲したテトラローダーをノア6で改修した物。テトラローダーの兵站輸送仕様とでも言うべき代物で、ミシェルの専用機。

 ボロボロになっていた機体を、ノア6でメンテナンスした結果、腕部内蔵の武装も復活した。また、7日間戦争の際にヴィクター達が交戦した、ボードンのガトリングガンを回収・修理し、それを肩にマウントしている。

 全身に折り畳み式の、貨物運搬用ラックを備えている為、ある程度の輸送が可能となっている。また、騎乗用の座席を、折り畳み式の物に変更した他、剥き出しとなる搭乗員を守る為の、簡易的な防盾も展開出来る様になった。ただし、背後までは守れない事と、貫通力の高い弾は抜ける恐れがある為、戦闘時には注意が必要となる。

 その他にも駆動系を改造し、脚部の球形タイヤを小径のノビータイヤに換装している。この結果、真横にスライド移動したりは出来なくなったが、不整地での走行性能が向上し、積載力も向上した。また、通常機より若干全高が高くなっている。


[武装]・6.8mm口径機関銃×2

    ・18.4mm小型滑腔砲×2

    ・5.45mmガトリングガン(左肩)

    ・発煙弾発射機




【RT-91】

 連合軍正式採用の無反動砲。状況に合わせ、様々な弾薬が用意されている。廃れつつあった従来のロケットランチャーと、携行式対空ミサイル、携行式対戦車ミサイル、無反動砲等を統合する目的で開発が行われた。

 後装式で、弾薬ケースを発射管後方からセットして用いる。弾薬ケースがカウンターウェイトを兼ねる為、発射時には後方に人がいないことを確認する必要がある。

 専用の誘導弾を用いることで、ヘリコプターや車両などに対する誘導能力を獲得しているが、装甲に対しては限定的な効果しかしか望めない。これは、兵器の相手は基本的に歩兵ではなく、兵器が行うという連合の戦術方針による。


[使用弾薬]HEAT-MP弾 / サーモバリック弾 など

[装弾数] 1発

[有効射程]1000m(HEAT-MP弾)、弾頭により変動

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