第84話 ランクアップ2

 俺の心配をよそに、野盗達はニヤリと口元を吊り上げて、下卑た笑みを浮かべる。


「おいおい、まだこんな上玉がいたとはなぁッ!」

「よくも今まで隠してやがったな!」

「今夜は楽しめそうだぜッ!」

「い、いや〜助ケテ〜!」


 ……マジか、バレてないのか? どうも野盗達は、カティアの事が気に入ったらしい。カティアも何か自信がついたのか、棒読みだった演技がマシになってきてる気がする。


「おい見てみろよ、あの身体!」

「胸とケツがパッツンパッツンだぜッ!」

「服のサイズ、合ってないんじゃねぇのかぁ!?」


 そう。村長から借りた孫娘の服は、カティアにとって絶妙にサイズが小さかったのだ。その為、胸や尻が強調される上に、本来なら膝下丈のスカートも膝上になり、カティアの普段着痩せする身体を、これでもかというほど魅せつけていた。

 チラリとカティアを見ると、何故か自信満々な表情をしている。……たぶん「皆、私の魅力に夢中なのね!」とか考えてるのかな。


(後は手筈通りに行けよ?)

(分かった!)

「ほら、さっさと女をこっちに寄越せ!」


 カティアを野盗に引き渡すと、さっそく野盗はカティアの背中を抱き締めて、カティアの胸を揉みだした。


「ひょ〜、いいモン持ってるじゃねぇかぁ!!」

「ちょっ!? 痛っ! 触らないでよッ!!」


 あ、今のは演技抜きのマジな奴だな……。


「へへへ、いいじゃねぇか減るモンでもねぇし!」

「それに、どうせ俺達全員に揉まれるんだしよ!」

「おい、俺にも揉ませろよ!」

「最低ッ!」


 野盗の全員が、カティアを取り囲んだ時、俺はカティアに合図した。


「今だ、やれ!」

「ッ! 待ってたわ!」


 カティアは、自分のスカートをまくってスタンガンを抜くと、目の前の野盗二人に目掛けて電極を発射した。初弾は外したようだが、カティアもプロだ。初弾で、弾道の癖などを理解して、残る2発を野盗に命中させた。


「アベベベベベッ!」

「んぎょああああッ!!」

「……へ?」


 急に仲間二人が倒れた事に、カティアの胸を揉んでいた野盗は呆然としていた。俺はそんな彼の頭に、拳銃の銃口を突きつけた。


「おい。いつまで、相棒の胸を揉んでるんだ?」

「なっ!?」

「とりゃあッ!」

「ぐはっ!」


 野盗が手を離した瞬間、カティアの回し蹴りが野盗の腹にめり込んだ。野盗は、その場で膝をついて咳き込んでいる。


「ふん、いいざまね!」

「よし、とりあえず上手くいったな。村長、コイツら縛るの手伝ってくれ。」

「は、はいですじゃ! 皆、手伝ってくれ!」

「あ、それから騒いだり大声出しても問題なくて、かつ汚しても問題無いところってある?」

「は、はい?」


 

 * * *



-数十分後

@村の厩舎


 あの後、野盗達を連れて村の厩舎きゅうしゃへとやってきた。村には大抵、街へ作物を売りに行くための馬車と、その為の馬がいる。

 この村では、馬を共同で管理しており、馬車も厩舎の中で管理しているらしい。その中を借りて、野盗達を椅子に縛り付けて、話を聞かせてもらう事にした。


「ちょっと、あんたらいい加減に吐いたらどうなのよ!?」

「このクソアマ……後でレイプしてその顔歪ませてから、ブッ殺してやるからなッ!!」

「へへへ、嬢ちゃんがその胸で奉仕してくれるなら、考えてやってもいいぜ?」

「無駄だ! お、俺達を捕まえても、後で50人の仲間が反撃にくるぞ!?」


 ……さっきからカティアに尋問を任せているが、完全に舐められている。これじゃ埒があかない。お手本を見せてやるか。


「おい、カティア。それじゃダメだ」

「じゃあ、どうすればいいのよ?」

「こういうのはな、相手から話してもらうような、話したくなるような環境を作ってやらなきゃならないんだよ」

「えっ……それってやっぱ、胸とかそういう……え、エッチなことしなきゃダメ?」

「いいぞ兄ちゃん! 話が分かる!」

「そこのお前、調子に乗るな! 違うぞ、カティア……まあ手本を見せてやろう」


 俺は、その辺にあったシャベルを拾うと、さっき調子に乗った野盗の前に立つ。


「何だよ兄ちゃん? ……お、おい冗談だよな? や、やめ……グボォッ!」

「どうだ? 話したくなったか?」

「えぇ……」


 俺は、シャベルを振りかぶると、シャベルの腹で野盗の腹を打ち据えた。


「ちょっと! 何かこう、暴力じゃなくて……話のテクニック的なのじゃないの?」

「いいか、カティア。まずは、舐められたらダメだ。まずはコイツらに、現実を突きつける」

「現実?」


 俺は野盗達に目を合わせてから、宣言する。


「お前達のことは全て知っている。お前達は50人もいない、せいぜい10人くらいだろ? 持ってく食料の量を計算したらそのくらいのはずだ」


「「「 なっ!? 」」」


「で、残った奴らを始末すれば、俺達の仕事は終わりだ。後はお前らのアジトを探すだけなんだが……カティアの胸を揉んでた奴は……お前か」

「な、何だよ!?」


 さっきカティアの胸を揉んでいた、威勢のいい野盗の前に立つ。


「お前らのアジトはどこにある?」

「はっ! 教える訳ないだろ?」

「そっか……じゃあ仕方ないな。」


 俺は、拳銃を取り出して、野盗の頭に突きつける。


「おいおい、また脅すつもりか? 俺はそんなんじゃ──」


──パァン!


 野盗の頭に風穴が開き、絶命した野盗はガクッとこうべを垂れる。


「ちょ、ヴィクター!?」

「落ち着け、こんな遠くの村だ。街には連れて帰れない。どうせ、殺すか村に引き渡すかだろ? 報奨金は諦めろ」

「た、確かにそうだけど……。でも、だからってわざわざ殺す必要無いんじゃない!? せっかくの情報源なのに!」

「確かに殺さなくても、情報を聞き出す手段はある。だが、時間がかかる。俺達は試験中で、時間が無いんだ。野盗達を見ろ、もう舐めた態度してないだろ?」

「ほ、本当だ」


 野盗達は、生殺与奪の権をこちらに握られていることを理解して、すっかり大人しくなってしまった。


「ほら、情報を聞き出せ。時間がない」

「わ、分かったわよ……」



 * * *



-1時間後

@村の入り口


「お、お気をつけて……!」

「ああ、乱射姫に任せておけ!」

「え、ええ……私に任せなさい!」


 あの後、尋問はスムーズに終わった。敵は、崩壊前のガソリンスタンドを拠点にしており、人数は全部で8人と、人質が3人いることが分かった。つまり、敵は後5人残っていることになる。


 尋問後に作戦会議をして、再びカティアに一芝居打ってもらう事にした。人質がいるので、下手に襲撃をかけると人質が命を落とす恐れがある。

 その為、カティアに俺の拳銃を貸して、敵の中心に潜入させ、暴れさせる。俺は、万が一の為のバックアップをする。……あまり効率は良くないが、今回はカティアのランクアップをかけた依頼なので、カティアに動いてもらう必要があるのだ。

 

 また、犠牲者である人質は、なるべく助けだしてやりたい。その為にも、カティアを潜入させるのは、誤射を防ぐために都合が良い。カティアも、人質を助けたい気持ちは同じなようで、特に反対されることは無かった。


「よし、出せ」

「へ、へい……!」


 カティアを潜入させる為に、調子に乗っていた野盗の一人に、先程荷物を積み終えた馬車の御者をやらせる。荷台には、“自分で解ける特殊な結び方”で拘束したカティアを乗せて、俺は御者の後ろからライフルを突きつける。


「……分かってるとは思うが、村で農作業をするのと、村で肥料になるかは、お前の行動次第だぞ?」

「ひぃ! わ、わかってまさぁ! 裏切りませんよッ!!」


 馬車は村を出て、崩壊前の幹線道路へと向かって行く。



 * * *



-数刻後

@村の中心


「乱射姫カティア様とその相棒様……無事だとよいのじゃが……」

「大丈夫ですよ、村長! あの二人は、前この村にいたレンジャーより強そうだ。きっと、なんとかなりますよ!」

「そう願っとるよ……」

「それよりも……」

「ああ、準備しておけ」


 村の中心では、村人たちが何かを組み上げていた。そしてしばらくすると、村の中心には一本の鉄の棒が立てられていた……。

 そこへ、先程村に引き渡された野盗の一人が連れてこられる。


「い、いだっ! な、何だ?」

「「「「「 …… 」」」」」


 野盗は村の中心に立たされると、村人達に囲まれ、全員に睨みつけられて、弱々しくなっていた。


「な、何だよ……? ブガァッ! ガハッ! や、やめ……ウブゥッ!!」

「「「「「 …… 」」」」」


 村人達は、皆無言で野盗をリンチする。ある者は顔を殴り、ある者はシャベルやめん棒などを持ち出して、野盗に徹底的な暴力を加える。


 ヴィクター達が村に引き渡した野盗は、別に村の一員になれる訳でも、村の奴隷として生かして貰える訳ではない。街から離れている以上、移送の手間を考えると、捕らえた野盗を生かしておくのは非経済的だ。

 奴隷として使うにも、見張り役や衣食住の用意をしなくてはならないので、この村のように小さな村では、即刻処刑される場合が多いのだ。……それも、街のように、かろうじて法のようなものがある場合に比べて、非人道的かつ残虐な刑が執行される場合もある。


 この野盗は運の悪いことに、処刑が苛烈な村に引き渡されてしまったのだ。



「……ぁ……」

「よし、ネックレスの準備をするのじゃ!」

「はい、村長!」


 村人達から文字通りボコボコにされ、野盗は地面に突っ伏してか細い声を上げている。そんな彼を、まだまだ休ませないぞと言わんばかりに、村人達は野盗を引きずって、先程の村の中心に連れていく。

 先程の鉄の棒に野盗を縛り付けると、村人達は急に無言になる。その様子を、腫れた片目を無理矢理に開いて見た野盗は、余りの不気味さに恐怖した。


(な、何でこんな……!? 村の奴隷になるんじゃ無かったのかよ!?)

「よし、じゃあ刑を執行するぞい!」

「ば……ばっで……げっ、げいっでぼおゆう…!?(待って、刑ってどうゆう!?)」


 歯が抜け落ち、口の中まで腫れ上がった野盗が必死に問いかけるが、その答えは残酷なものだった。


「ん? なんじゃ、この村で生かして貰えるとでも思っとったんか? 何て厚かましい奴じゃ……この村はお前さん達のせいで、そんな余裕は残っとらんのじゃ!」

「ぞんな……!?」

「それに、周りを見てみい……。皆、憎悪に満ちておる。生かしといても、いずれ誰かに殺されるじゃろ? だったら今ここで、皆の鬱憤を晴らすのに使った方がいいじゃろ?」

「ひ……ひやだ……!」

「よし、ネックレスをかけてやれ!」


 村長の合図で、野盗の首に古くなった自動車のタイヤが、ネックレスのようにかけられる。野盗は、突然の出来事に困惑した。そして、野盗は顔が腫れていた為に気がつかなかったが、タイヤからはガソリンの匂いが漂っていたのだ。


「……?」

「……成仏するのじゃぞ?」


 村長はそう言うと、マッチに火をつけて、タイヤに火をつけた。するとタイヤは勢いよく燃え上がり、野盗の上半身を炎に包んだ。


「ア゛ァァァッ!! ア゛ッ! アァァァァア゛ッ!!」


 辺りにゴムの焼ける、独特の匂いが漂う。野盗は、まるで村人達の怒りを表すような勢いの炎に包まれ、その人生に幕を下ろした。


 これがこの村独自の処刑……タイヤネックレスだった。



 * * *



-同時刻

@崩壊前の幹線道路


「ねぇ、ヴィクター! 何か村の方から、煙が上がってる気がするけど……」

「ん? ……本当だな。ゴミでも焼いてるんじゃないか?」


 ちなみに、俺は村長から全て聞いている。俺は、「何てグロいことをするんだッ!」と言って、野盗を保護するような正義漢でも無いし、野盗を許す気もない。まあ、奴らの自業自得だな。

 とにかく、処刑を俺達に見せないでくれと、村長に頼んであるので、精神衛生上よろしくない場面は見なくて済むだろう。……仕事を終わらせたら、さっさと帰ろう。


「さっき練習させたが、大丈夫だな?」

「拳銃? うん、初めて見る銃だけど、大丈夫よ!」

「ならいい。まあ……頑張れよ?」

「何それ、応援してくれてるの?」

「まあな……。装弾数は充分あると思うが、油断するなよ?」

「それにしても、ヴィクターって何者なの? いつも、見た事無い物たくさん持ってるわよね?」

「まあな」

「何かハッキリしないわね!? ねね、私にも何か頂戴よ!」

「はぁ? 前に、カービンやったろうが……」

「あれ欲しい! さっきのビリビリーって奴!」

「う〜ん、考えとく……」


 カティアにも、非致死性兵器を持たせるべきか? ……考えどころだな。


《そう言えば、そっちの様子はどうだ?》

《以前、銀行から回収したロボット達は、ヴィクター様のご命令通り、整備の後に装備を換装中です。あと2日ほどで、ヴィクター様が指定された台数を、外に出せる予定です》

《あの3人はどうだ?》

《毎日、基礎体力トレーニングに、実技訓練、座学と教育は順調に進んでおります。ただ……皆さん、座学の成績が中々良くならなくて……》

《まあ、根気よくやるしか無いな……。人に物を教えるって難しいよな?》

《ヴィクター様も何かされてるのですか?》

《まあ、大したことじゃ無いけどな。生徒の自主性に任せて、見守ってる感じか?》

《見守る……。なるほど、参考になりました》

《な、何が参考になったかは分からないが、よろしく頼むな》


「あ、あの……もうすぐなんですが……」

「よし、カティア準備しろ。……お前は、分かってるだろうな?」

「ももも、もちろんでさぁ!!」


 まもなく到着だ。作戦が上手くいくことを願おう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る