第67話 結成

-十数分後

@街南部地区郊外 ガラルドの家


「……なんだここ、ガレージか?」


 カティアに案内させて、カティアが現在住んでいるという、ガラルドの家へとやって来た。ガラルドの家は、家というよりもガレージや業務用の倉庫のようで、恐らく崩壊前の運送業者のものを改修したのだろう。中には作業台や、銃の掛かったガンラック、壊れたバイク?のような物が転がっていたり、如何にもガレージといった感じだった。

 ガレージの中はトラックが5台程駐車出来るほど広いスペースがあり、がらんとしてスペースを持て余しているように見える。さらにガレージ内にある階段を上ると、ガレージと仕切りのない広いロフトのような空間があり、かつては業者の事務所として使われていたのであろうそこに、ベッドやらソファなどの家具を置くことで、生活空間としているようだ。


「……ガラガラだな?」

「本当は、車が一台あったんだけど……。って、そうだ! 貴方、オヤジの秘密基地の場所、知ってるんでしょ!?」

「あ? ああ……」

「お願い、連れてって! 多分あそこに、車が残ってると思うの!」

「えっ? え〜と、それはだな……」


 ガラルドの車は、ノア6で部品ごとに細かく分解されている……。いや、ガラルドの車は俺がカスタムした事になっているので、「さっきまでお前が乗ってたのが、ガラルドの車だぞ」と言うべきか……?


「じ、実はな……ガラルドの車は、ミュータントに襲われた時に壊されちまったんだよ……」

「な、何ですって!? そんな、私の車が……」

「そういうわけで、諦めた方がいいぞ? ……ってか、お前のじゃないだろ?」

「そういえば、貴方の車は? アレはどこで手に入れたのよ!?」

「あ、アレは……そう、拾ったんだ! たまたま動くのがあってさ!」

「えっ、あの車って遺物なの!? 通りでハイテクな感じがすると思った!」


 何だかんだ、話を逸らして車の話題から離れ、本題に移る。


「で、俺とチームを組みたいって?」

「そう! ランクも同じDだし、なんて言っても同じ師匠の姉弟子と弟弟子だし。これは組むべき……いや、組むしかないわッ!」

「そ、そうか?」


 カティアは身を乗り出して、力説する。


「で、お前と組むとして、俺にメリットはあるのか?」

「えっ? えと……ほら、こんなに若くて可憐な女の子と一緒にいられるわよ!」

「……なんか、自分の評価高くね?」

「べ、別にいいじゃないッ!!」


 確かに、カティアはそこらの女よりはレベルが高い。虹彩が緑色なのも、かなりレアだし。ただ、何だかピーチクパーチクうるさい感じがちょっと残念だ……。


「……何か失礼なこと考えてるでしょ」

「い、いや……分かった。お前と組んでもいいが、聞きたいことがある」

「えっ、いいの!? やったぁ!! 何でも聞きなさい!」

「お前とチームを組んだら、俺もここに住んでいいか?」

「えっ! そ、それって……私と同居するってこと!?」

「まあ、そうなるな。居候いそうろうだな。同じチームだし、寝食を共にするものじゃないか?」

(ど、どうしよう……。フェイに悪い? 一つ屋根の下……何も無い訳無いよね? えっ、ど……どうしよう……)

(……とか考えてそうな顔してるな)


 いきなり家に居候させてくれ、と言われて即答出来るはずがない。カティアは何故か顔を赤らめているが、そんな事をするつもりはない。……ガラルドの忘れ形見でもあるしな。

 それにチームを組む以上、同じ戦場に身を置くことになるだろう。そうなった時、男女の仲になっていると、お互いに無謀な行動を取る傾向になると、軍の統計で知られているのだ。


 一番大事なのは自分の命だ。緊急時に冷静でいる為にも、カティアを襲うような事はしないつもりだ。フェイもいるしな。


「あ〜、別にお前を襲ったりしないから安心しろ?」

「ふぇっ!? な、何を……ってか、信用できないんだけど!?」

「いや俺、彼女いるし」

「あ! そういえば、いつの間にフェイとあんな関係になったのよ!?」

「はぁ……で、俺はここに住んでもいいの? ダメなの?」

「そ、それは……」

「わかった。じゃあ、この話は無かった事に……」

「わーッ、待ってよ! 分かったからッ!」

「ん?」

「ここに住んでいいから、私と組んで下さいッ!!」


 はい、言質取れました! とりあえず、この街での活動拠点は確保できたな。実は、ガラルドの家はスペースがかなり広く、敷地も広いので、俺にとって魅力的な物件だったのだ。

 その後、2階?に上がり、カティアから説明を受ける。ベッドは二つ、それぞれパーテーションで分けられている。それからトイレとシャワー室があるようだ。小さなキッチンもあるが、カティアは自炊をしないのか、埃をかぶっている。

 他には、ソファーとローテーブル、書棚と酒瓶の並べられた棚で作られた、リビングのようなスペースがあるくらいか。


 その後、ベッドをどうするかでひと悶着あった。


「じゃあ、オヤジのベッド使っていいわよ」

「え……」

「……何よ?」

「いや、何か気になるというか……」


 恩人とはいえ、野郎の寝ていたベッドだ……何か抵抗がある。


「……カティアがガラルドのベッドで寝るってのは?」

「何でよ?」

「いや、何か抵抗あるな~って」

「あらそう? じゃあ、私の使ってたベッドで寝ていいわよ。……てか、私のベッドに抵抗は無いの?」

「ああ。女の子のベッドは、何かいい匂いがするから大丈夫だ」

「へぇ~、ってキモっ!? や、やっぱ無し! 無しッ!!」

「……だよな。まあ、後で新しいのを買うか」


 ベッドは新しいのを買うとしよう。


「じゃあ、さっそくギルドに行きましょう。チームになるからには、さっさと登録しなくちゃね!」

「そうだな。……あっ、その前に少し寄りたいところがあるんだ」

「……?」



 * * *



-数十分後

@街中央地区 ローザ服飾店


「あ〜、この店ね。ヴィクター、何か依頼でも受けてるの?」

「いや、個人的な用件でな。新しく服を作ってもらおうと思って……」


 そう言いつつ、ローザ服飾店のドアに手をかけた瞬間、カティアが俺の腕を掴んだ。


「ちょっとちょっと! 貴方分かってるの!? この店でオーダーすると、超高いのよッ!?」

「知ってる。この服もここで作ってもらったからな」

「な、何ですって……!? いくらしたの!?」

「ヴィクター割引きで15万Ⓜ︎くらいだったかな?」

「高ッ!? えっ、高ッ!? ありえないッ! ってかヴィクター割引きって何!? あっ、待ってよ!」


 あの時は、ローザの着せ替え人形になったおかげで、料金を割引きしてもらったが、本来はもっと高いのだろう。

 カティアが喚くのを無視して、店のドアを開ける。


──カララン♪


「あらヴィクターさん、いらっしゃ──」


──バタン!


『ちょっとちょっと! 人の顔見て、それは無いでしょ!!』


 今日は俺の服を作ってくれたモニカではなく、ローザが店番をしているようだった。思わず、開けた筈のドアを閉めてしまった。

 改めて、中へと入る。


「へ、へ〜この店初めてだけど、中はこんな感じなのね……」

「あら、ヴィクターさん。彼女さんかしら?」

「ふぇッ!? 違う違う、そんなんじゃないわ!」

「違うぞ」

「あらそうなの? でもヴィクターさん、すっかり有名人になったわね〜。新聞見たわよ!」

「やめろ。あんなのを鵜呑みにするな!」


 あの新聞……そんなに影響あるのか!? 新聞では顔が割れてないのが、不幸中の幸いか……。


「それで、ヴィクターさん。今日はどうしたのかしら?」

「ああ、そろそろ夏用の服を作ろうかと思ってな。モニカはいるか?」

「ああ……。モニカちゃんは、その……」

「ん? 何かあったのか?」

「モニカちゃん……この店辞めちゃったのよね。何か、実家の方で問題があったらしくて」

「何だって! 辞める前に注文しとくんだった!」


 モニカがいないとなると、服を現地調達するのは難しいか……。仕方がないが、一度ノア6に戻って準備を整えた方がいいかもしれないな。幸い、拠点となるガラルドガレージがあることだし。

 ……しかし、残念だ。この服、着心地が良くて気に入ってたんだが。今後、夏用の服やら色々用意したかったが、実家で問題があるなら仕方がないか。


「あの、ヴィクターさん? 別にモニカちゃんじゃなくても、他の職人か、何なら私が作ってあげるわよ?」

「いや、ローザ。お前はダメだ」

「酷っ! どうして〜ッ!?」

「うわぁ、近寄るな! お前の着せ替え人形は、もう懲り懲りなんだよぉ〜!!」

「も、もうそんなことしないわよ! ……多分」

「今、多分って言ったよな! 絶対するじゃん!」


 俺がローザの着せ替え人形になるまいと抵抗している間、カティアは店の一角にある防具コーナーを眺めていた。服よりも防具が気になるらしい……。

 てっきり、店のドレスやら鞄が気になるものだと思っていたが、意外だった。




 その後、ローザに家具屋を紹介してもらい、そこでベッドを購入した。購入したのは、大きなサイズの高級なベッド(30万Ⓜ︎)だ。これで、いつでもフェイを呼ぶことができるぞ!


「ねぇ、何であんなデカイベッドにしたの? しかも超高いし……」

「そりゃ、俺以外にも入る奴がいるからな」

「んん? どうゆうこと?」

「……あっ、忘れてた」


 カティアの存在を忘れていた……。ガラルドガレージの中には、部屋は無い。一つの空間で全て繋がっているのだ。

 ベッドの位置は後で考えるとしても、どう足掻いても音は聞こえてしまうだろう……。


「なあ、カティア。お前、寝つきは良い方か?」

「ええ、まあ」

「ならいいんだ」

「……?」


 その後、ベッドの配送を頼み、ガラルドのベッドは処分することにした。



 * * *



-昼

@レンジャーズギルド


「あっ、ヴィーくん♡ それに、カティアも。何かあったの?」

「ええ、フェイ。私、この男とチーム組むことにしたから」

「えっ、そうなの!? ちょっと待ってね!」


 買い物を済ませ、ギルドにチームの登録に来た。

 チーム登録の際は、ランクが高い者がチームのリーダーになることが多いらしい。そうすることで、リーダーのランクに応じた依頼をメンバーが受ける事ができるので、低ランクのメンバーでも高ランクの依頼を受けることが出来るようになるのだ。

 といっても、リーダーがチームの戦力を考えず、無茶な依頼を受ければ全滅する。実際、そういう事例は多いそうだ。


「おまたせ! じゃあヴィーくん、カティア、こっち来て」


 フェイがチーム登録の準備をして、俺達を受付に呼んだ。流石に昼になると、ギルド内は朝より空いていた。今ギルド内は、雑談をするレンジャー達や、明日の依頼を相談する者、壁の賞金首のポスターを眺める者、銀行窓口を利用する者などがいる。


 受付でチーム登録の用紙に記入をする。ちなみに、リーダーは俺だ。俺はカティアと同じDランクではあるが、ランクに+が付いている。この場合、俺の方がランクは高くなる。

 ランクが高い者が、リーダーをした方がいいので、俺にお鉢が回ったというわけだ。……まあ、カティアより年上だしな。仕方ないか。


「ふっふっふっ……こ、これで私達は正式にチームよ!」

「そうだな」

「あっ、カティア! ちょっとこれ書いて!」

「何これ?」

「相続の書類。ガラルドさんの遺産……といっても、家の権利くらいしかないけど」

「えっ!? 私が!?」


 俺がレンジャー登録の際に見た書類によれば、レンジャーが死亡した際、その遺産は子供が相続する。……なお、配偶者は詐欺を防止する為に、非情だが相続できないらしい。

 だが、子供がいない者はどうするかというと、師弟関係の弟子を養子にすることで、万が一に備えているそうだ。ガラルドも同じことをしていたようだ。確かに、カティアのことを「娘みたいなもの」と言っていたが、本当に養子にしていたのか。


 しかし、当のカティアはその事を知らなかったようだ。二人がどういう関係だったかは知るよしも無いが、この事を見るに、悪い関係では無かったのだろう。


「な、何よそれ! いつも私を放っておいたくせにッ! そんなの……ズルい……」

「でも、カティア? ガラルドさんは、貴女の事をちゃんと考えてくれてたわ。じゃなかったら、養子になんてしていないはずよ」

「そ、それは……」

「そういえば……確かに、ガラルドはカティアのことを、自分の娘だって言っていたぞ」

「…ッ! そ、そう……」


 カティアは、無言で書類を記入する。恐らく、混乱しているのだろう。フェイに間違いを指摘されたり、誘導されながら書類を書き上げていた。


「はい、それで終わりね」

「……うん」

「ほら、しゃんとしなさい! カティア・さん!!」

「……何か慣れないわね」

「いいじゃない、ファミリーネーム! 憧れちゃうわ〜。ヴィーくん! 期待してるから♡」

「あ? あ、ああ〜もっとランクを上げてからな? フェイに相応しくならなきゃだし……」

「そ、そうなの!? 嬉しい……頑張って♡」


 フェイが何か重い事言ってきたな……。でも悪い気はしない! たぶん、何とかなるだろ……。

 そういえば、俺の同居の話をした時は、あの家の権利はカティアには無かったんだよな?


「なあ、カティア。もし、ガラルドがお前を養子にして無かったら、あの家の権利は無かったよな?」

「ギクッ!?」

「……相続とかの話の前に、俺の同居を許可してたけど、もし家の権利が無かったらどうしてたんだ?」

「そ、それは……。あ、貴方となら……その……稼げると思って」

「なるほど。お前が無計画なのは、よく分かった。俺も人のことは言えないが、同じチームになる以上、無謀な事はするなよ!」

「わ、分かってるわよッ!!」


 こうして俺、ヴィクター・ライスフィールドと、カティア・ラヴェインのチームが誕生したのだった。

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