第44話 デブリーフィング
-夕方(襲撃から数時間後)
@街西部地区 警備隊本部
「……という訳で数人の負傷者は出ましたが、死亡者を出すことなく、無事狼旅団の拠点を制圧することに成功しました。拠点の建物は、現在北部地区の警備隊で接収して、調査を継続しています。以上で、報告を終わります」
「……うん、素晴らしい報告だったぞ!」
「ありがとうございます、隊長!」
襲撃作戦を終えた俺達は、再び警備隊本部の会議室にいた。作戦後の状況報告……いわゆるデブリーフィングというやつだ。現在、隊員の一人が作戦全体の流れと、その結果を報告してくれているが、これがなかなか上手だった。モニターなどの機器を使わずにこの腕前……崩壊前ならプレゼンで出世できただろうな。
「そうだ、質問いいか?」
「どうぞ、ヴィクターさん」
「あの、ミシェル達を襲った奴はどうなるんだ?」
「その件に関しましては、現在疑惑のかかっている自治防衛隊本部に問い合わせると共に、直接問題となっているスカドール家に事実確認を行っております」
「ああ、それから俺がこの街の全ての門に手配を回しておいた。顔がボコボコのデブが来たら、問答無用で捕まえろってな。まず、この街からは出られないはずだ」
「なんだ、仕事が早いな。見直したぞ、おっさん」
「だ・か・ら、おっさんじゃねえって!!」
あの拠点にいた野盗の殆どは、制圧時に死亡したらしい。生き残ったのは、あの門番の2人くらいだろう。それも、尋問の後に犯罪奴隷として強制労働の未来が待っている。
(……まあ生きてれば、良い事もあるさ。
ちなみにヴィクターは第1作戦時に「死ぬより辛い事がある」とか言っているのだが、そんなことは覚えていないのであった……。
「──では、以上で今作戦のデブリーフィングを終了させて頂きます。レンジャーの皆様は、依頼達成の書類をギルドに送らせて頂きました。ご協力ありがとうございました! それではみなさん、今回はお疲れさまでした!!」
「いやぁ~お前のお陰で助かったぞ、弟子! また頼むな!!」
「もう勘弁してくれよ、おっさん。次が無いようにするのが仕事だろ」
「……そう言われちゃ、ぐうの音も出ないな」
「あ、あと俺の車、また置いて行っていいか?」
「ああ。問題のピートの奴が失踪しているとはいえ、しばらくは隠していた方が無難だろうな」
正直助かる。今滞在している宿に、駐車場は無いからな。ギルドの駐車場に置きっぱなしもいいが、何をされるか分かったもんじゃない。
「ああ、それから捕まえた奴らの代金は、しばらくしたら受け取りに来い」
「ん? 何の話だ?」
「あの捕まえた野盗の代金だよ。ウチの尋問官なら、すぐに洗いざらい吐かせるから、3日後くらいには売りに出せると思うぞ」
あれか、犯罪奴隷の販売額の8割~9割が貰えるって奴か。
「でもいいのか? あれは俺が捕まえた訳じゃないだろ」
「いや、今回はお前のお陰で、こちらの被害は最小限に抑えることができた。せめてもの礼みたいなもんだ。受け取ってくれ。というか、恥ずかしくて
「分かった。その内取りに行くよ」
「おう。今日は助かった!」
俺とクエント、ミシェルの3人は会議室を後にして、警備隊本部から出た。
「……あの、ヴィクターさん。大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
「いや、撃たれたんですよね? 何とも無いんですか!?」
「いや、これは
「いや、そんなわけ……」
「やめろミシェル。こいつそれしか言わねえんだ」
「クエントさん……」
「もういいだろ、現にこうして無事なんだから……。さあ、ギルドに帰ろうぜヴィクター」
「ん? ギルドになんか用があるのか?」
「何って、任務の報酬を貰わなくちゃならないだろうが」
「あ~……俺、任務受けてないんだよね」
「「 えっ? 」」
「何って言ったかな、あの受付嬢……。あのヒスってる奴」
「フェ、フェイさんですかね……?」
「多分そうじゃないか、ミシェル……」
「ああ、そんな名前だったな! で、そいつの態度が気にくわなかったから、任務は断ったんだ」
そう言った瞬間、二人に詰め寄られる。
「な、何やってるんですか!! ヴィクターさんは馬鹿なんですか!?」
「お前正気かよ!? じゃあ、今日はタダ働きってことか!? しかも、任務を断ったから、ランクの査定にも……」
「いや、俺今Fランクだし……これ以上下がりようが無いだろ?」
「いや、ランクに-(マイナス)がつけられちまうかもしれない」
「付いたらなんかマズいのか?」
「自分で受けられる依頼が減るし、パーティーも断られるようになる。それに、受けられたとしても、過酷な物が多くなる。しかも、解除するにはギルドの提示する条件をクリアしなくちゃならない。それに、F-の奴なんか見たことねえ! まず仕事が無くなるのは間違いないだろうな」
「……メンドクサ」
最悪、このドッグタグを返上するという選択肢もある。別に、無理をしてまでレンジャーを続ける気はない。金なら、ウサギ狩りでもしてれば稼げるしな……。それに、一応ガラルドとの約束は果たしてはいる。
レンジャーになるとは言ったが、やめないとは言ってない。薄情かもしれないが……そういう選択肢もあるという事だ。
「まあいいや、俺は今日は帰るわ。じゃあな!」
「あ、おいヴィクター!!」
「……行っちゃいましたね」
「……ハァ、俺達はひとまずギルドに向かうか」
* * *
-デブリーフィングが行われる前
@レンジャーズギルド
「では確かに、お届けしました。よろしくお願いします!」
「はいはい、どうもデース」
警備隊員から、今回の任務で駆り出されたレンジャーへの報酬の為の引き落とし用の書類と、依頼達成の書類を受け取った受付嬢ブレアは、前者の書類を銀行担当のアレッタへと回す。
ちなみに警備隊のように、組織からの依頼の場合は、その組織の持つギルドの口座から、レンジャーへの報酬が引き落とされることが多かった。
「ほいアレッタ、これよろ~」
「はい、ブレアさん。……これは、今日の任務の報酬の引き落としですね。駆り出された人達、無事みたいで良かったですね」
「ん~そだね。あーし、きょうの朝いなかったからわかんないケド……なんかフェイ姐さんとバトった奴がいるらしいじゃん? 見たかったわ~ちょーおもしろそうじゃん!」
「は、はは……」
「そいえばさ、アレッタ見たんしょ? どうだった?」
「……あの、ブレアさん……後ろ」
「ん? げえ!」
「ブレア? 私がどうしたって?」
「あ、いや……な、なんでも無いです」
「じゃあ、さっさと仕事しなさい!!」
「は、はいぃ!!」
「まったく」
私が注意すると、ブレアはいそいそと自分の持ち場へと帰る。
朝はどうなる事かと思ったけど……無事にこの事案を処理することができた。ひとまず肩の荷が下りた。
それにしても、朝のあの男……思い出したら何か胸の奥がモヤモヤしてくる。
そんなことを考えていたフェイだが、しばらくすると、先ほど注意したブレアがこちらに戻ってきた。
「あ、あの……」
「何、ブレア? 仕事に戻る気が無いの?」
「そ、そうじゃなくて! これ見てほしくて」
「これは? 依頼達成の書類がどうかしたの?」
フェイがブレアから受け取ったのは、先ほど警備隊から受け取った、依頼達成の書類であった。別におかしな所は無い。
「そ、それが……任務を受けたレンジャーは2人って登録されてたんすケド……何か達成書類が3枚あって。この書類にも、3人のレンジャーが応援に来てくれて助かったとか書いてあって。これ、警備隊の人ミスったんですかね?」
「……どういうこと?」
「フェ、フェイさん!!」
「ハァ、どうしたのアレッタ?」
思わずため息が出てしまう……。今度はアレッタが、やってきてブレアと同じように書類を見せてくる。全く、肩の荷が下りたと思った矢先にこれか。
「そ、それが……任務を受けたレンジャーって2人ですよね? でも書類には3人分の報酬って書かれていて」
「なんですって!? ……ほ、本当に3人分ね」
「アレッタも? これどゆことなの?」
「フェイさん、これって今朝の人の……」
2つの書類が揃っているということは、警備隊に間違いは無いという事だ。まさか、今朝のあの男が何かしたというのだろうか? あんなに任務を受けたがらなかったのに?
「任務を受けてない人への報酬って……どうなるのでしょうか? こういうの前例ないですよね。一体どうしたら……」
「とりあえず、任務を受けたレンジャー……クエント達ね、それが帰ってきたら話を聞きましょう」
「は、はい」
* * *
-同時刻
@街中央地区 スカドール家
スカドール家は、カナルティアの街の中央地区を守る「自治防衛隊」のトップである、総隊長の地位を代々独占してきている家だ。スカドール家は元々、最終戦争前にニュータウンに駐在していた警察官から始まった。警察官という立場から、崩壊後に作られた自警団をまとめだし、それが後の自治防衛隊へと発展したのだ。
スカドール家は、街中央地区の中心部に屋敷を構えており、隣には自治防衛隊本部、向かいには街の議会もある。ちなみに、屋敷は崩壊前の金持ちの別荘を接収したもので、防衛隊本部は元警察署、議会はニュータウンの元市庁舎である。
現在、そのスカドール家の屋敷にて密会が行われていた。
「で、スラムの拠点は壊滅したと……。噂では、レンジャーも参加していたようだが? どうなってるのかね、ルーンベルト君?」
「そ、それは! しかし、確認しているだけでたった2人だけですぞ!? そんな物、戦力にはならんでしょう!?」
「ふむ……確かにそうだな」
「今回は、そちらの用意した人員が貧弱であったとしか言いようがない!!」
「う、それは……」
「お二方……揉めた所で失敗は覆りません。違いますか?」
「「 お、仰る通りです! 」」
「先ほど、この家に警備隊の者が来たそうですね? なんでもお宅の息子さんが失敗したとか?」
「め、面目ない。ウチのドラ息子が……」
「分かっていますね? もし捕まったとしたら、その時は──」
「さ、幸い……逃げることは出来たようでして。これから、スラムの"穴"を使って、死都のアジトに隠すつもりです」
「……ほう。わかりました、では時間ですので私はこれで失礼しますね。では、くれぐれも……これ以上は必要ないですね?」
「「 は、はい! 」」
一見すると、普通の街の住人のような格好の男が部屋から出ていく。密会の部屋に残ったのは、スカドール家現当主のパートン・スカドールと、カナルティアの街レンジャーズギルド副支部長のパンテン・ルーンベルトであった。
「……行ったか?」
「いやぁ、相変わらず生きた心地がしない。しかし、今回は助かった。最悪消されてしまうところだったぞ!」
「滅多なことを言うな! 心臓に悪い」
「で、お宅のドラ息子はどうするんだ?」
「クソ、あいつめ!! 父であるこの私の顔に泥を塗りおって!! ……心配せんでも、しばらくは表に出さん。それよりも、そちらも抜かりはないな?」
「ふん、当たり前だ!! 第一、無事に帰ってこれるはずもあるまい……。それに万一に備えて、街道には待ち伏せを配置してある。あの老いぼれがこの街に入ってこれるはずはないわ!!」
「ほう、それは頼もしい事で」
「これで、ギルドは私の物になるのだ!!」
先ほどまで密会に参加していた男が、スカドール家の廊下を歩いていると、太った青年が対面から歩いてくる。
「これはこれは、プルートさん。お変わりありませんか?」
「これは使者殿! いや、近頃は馬鹿ばかりで困ってますよ」
「お父上と、兄上のことですね?」
「ええ、まったく……。いっその事、この手で殺してやろうかと」
「それは冗談にしては……おや、冗談では無いご様子ですね」
密会に参加していた「使者」と呼ばれた男は、スカドール家の次男であるプルート・スカドールの案内で、彼の部屋へと案内される。
「それで、状況はどうでしょう?」
「いやはや、せっかく集めた駒も、今日全員やられてしまいましたからね……。作戦は延期するしかないでしょう」
「そうですね」
「ひとまず、死都のアジトでの集会は中止することにします。現在までに集合した者には、そのままアジトの警備をやってもらう予定です」
「そうですね、それがよろしいかと思います。では、そろそろ……」
「いつもわざわざご足労頂いて、ありがとうございます。お引止めして申し訳ない」
「いえ、貴方には我が主も期待しています。これからもよろしくお願いしますよ」
「は、はい!」
「……ああ、そうそう。さっきの件ですが」
「……なんでしょう?」
「貴方のお父上、彼はもう用済みです。身内を
その言葉を聞いた、プルートはニヤリと口元を吊り上げる。
「……お任せを。それはちょうど良かった」
* * *
-日没後
@街南部地区 BAR.アナグマ
「……いらっしゃい」
「よお、もうやってるか? あ、バーの方な」
「……ああ」
「じゃあ、例の蒸留酒くれ」
「……お前、撃たれたのか?」
「ん? ああ、大丈夫だ…
「……そうか、ならいい」
あの後、クエント達と別れた俺は、ここBAR.アナグマに来ていた。昨日飲んだ酒がマズかったので、今日は美味いのが飲みたかったのだ。
「いや~今日は大変だったんだよ」
「……そうか」
バーテンダーのボリスが、俺の前にグラスとピーナッツを置く。俺は、酒を飲みながら愚痴を呟く。
ボリスは基本無口だ。だが全く無反応という訳ではない。俺は、最初彼がバーテンダーとしてやっていけてるのか疑問だったのだが、後日、彼のその性格を活かして愚痴をこぼすのに適しているのではと悟ったのだ。
実際、愚痴ってみたが大当たりだった。これは、女性にモテるだろうな……顔が厳つく無ければ。
そんなこんなで、俺の波乱の?一日は終わった。
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