第41話 第1作戦

-数刻後

@カナルティアの街北部地区


「そこです、その路地裏の先にあります!」

「了解、停めるぞ」


 車を路肩に停める。俺達は、狼旅団の拠点襲撃の前準備として、街の北部地区に存在するとされる“ブラックマーケット”に向かっていた。ブラックマーケットは、非合法の武器(ギルド製のコピーなど)や、危険な薬、盗品、闇奴隷などが販売されていると言われている、街の暗部……らしい。要は治安の悪いスラム街のような所なのだが、特に取り締まられるような事は無い。街の住人に害がない限り、警備隊は動かないのだ。


「ヴィクターさん、頼りにしてます。僕みたいな子供は、一人で歩いてると誘拐されかねないので……」

「そんなに危険なのか?」

「はい。ここは、ならず者の巣窟みたいな所なので……。決して気を抜かないで下さい!」

「あ、そうだ! ミシェルに渡そうと思ってた物があるんだ」

「……?」


 俺は車の荷台に回ると、荷台の仕掛けを作動させる。車の荷台は、車に登録した人間が開ける事のできる、秘密のトランクを仕込んでいた。中には、俺がノア6で開発した武器やら装備の他、持ち出してきた物が入っていた。

 俺はそこから、1丁の拳銃を取り出す。この拳銃は、崩壊後で流通している銃を参考に、俺が設計し直したものだ。後装式の4連装のペッパーボックスピストルで、基になった銃よりも銃身を伸ばして頑丈にして、トリガープル(引き金の重さ)を軽くしてある。これならミシェルでも扱えるはずだ。


 ブラックマーケットでは、警戒される為にあまり武器は持ち込まない方がいいらしい。許容されるのは、せいぜい護身用の拳銃とかナイフくらいだろう。俺も装備を外して、車の中へと置いていくつもりだ。持って行くのは拳銃くらいだろう。ミシェルは、アーマードホーンとの戦闘時に、装備をダメにしてしまったそうで、今はダムという突撃銃くらいしか持っていなかったのだ。つまり、このまま装備を置いていくと丸腰になってしまう。


「ほれ、ミシェル。これやるよ」

「えっと、これは【Qボックス】ですよね? ……でも何か売っているのと違うような?」

「ミシェル、お前拳銃持ってないだろ? これから何が起こるか分からんからな……。ソレ、俺には必要ないから使ってくれ。」

「い、いえ……こんな良い物、頂けません!!」

「いいか、ミシェル。丸腰のお前は、言っちゃ悪いがお荷物だ。俺が言いたいこと、わかるな?」

「……そうですね。ありがとうございます、ヴィクターさん。自分の身を守るために、使わせて頂きます!」

「よし! 行くぞ」


 俺が開発した武器は、2種類ある。一つは崩壊後の世界の武器をベースにカスタムしたもの、もう一つは俺の趣味と知識から新たに作り出したものだ。ちなみにミシェルにあげた拳銃は、前者だ。

 作っていた時は、如何にして性能を崩壊前の物に近づけるかと凄く楽しかったのだが、ロゼッタの「既存の武器を改造すれば良いのでは?」という一言で我に返った時は、かなりの種類が完成してしまっていた……。つまりは、在庫が余っているのだ。

 ミシェルにあげた拳銃は、崩壊後の製品が元といえども崩壊後の水準と比べて、性能は高いはずだ。今後、俺と親しくなった人には、俺の在庫処分に付き合ってもらうとしよう……。


 二人で車に目立つ装備を置いて、鍵を閉める。今度は、帰ってきたら変な奴が乗ってるような事は無いはずだ。

 ミシェルに案内されて、路地裏を抜けると、建物に囲まれた、暗く、こじんまりとした広場の様な所に出る。そこでは出店が出ていたり、檻がついた建物などがあり、檻の中ではボロ布を纏った人間が生気の無い目をして佇んでいる。……あれが奴隷ってやつか? 随分と酷い環境にいるようだ。

 そして、目つきの悪い男達がジロジロと俺達を眺めていた。


「やっぱり、僕たち目立ってるんですかね?」

「だろうな……目的の店はこの奥なんだろ? さっさと済ませて、こんな所からはおさらばしよう」

「ええ」


 俺達は、ブラックマーケットの奥へと進んでいく。しばらく歩いていると、対面からフラフラとした足取りの男が歩いてきて、俺にぶつかる。


「おおっと……へへ、すまねえな兄ちゃん」

「……今盗ったものを大人しく出しな」

「あん、一体何を……いで、いででででッ!!」


 ぶつかってきた男の腕をひねり上げると、俺の財布が握られていた。こういう所でぶつかってくる奴は、スリしかいない。俺はひねり上げた腕に力を入れ、スリの手から財布を落とす。


「返してもらうぞ」

「クソッ! もういいだろ、離せよ!」

「……なんだ、反省してないのか」

「何言っでぇぇッ!! いでぇぇぇ! 俺の腕がぁぁ!!」


 俺は捻り上げた男の腕に、肘を振り下ろして骨を折ってやった。これでしばらくスリは廃業だな。


「ッ! ヴィクターさん!!」


 ミシェルの呼びかけに、振り返ると3人ほどの男がへらへらと近づいてきた。


「へへへ、勇ましいなぁ兄ちゃん」

「おうおう、俺達の連れになにしてくれんだ!?」

「今なら、そのガキと有り金全部差し出せば許してやるよぉ!」

「……そうだなぁ」


 そういうと、俺は加速装置を発動して、腰の拳銃に手を伸ばす。俺の拳銃は、専用のホルスターを用いることでホルスターから抜く際にスライドを引いて、コッキングしてくれる構造になっている為、自動拳銃を瞬時にシングルアクションで発砲することが可能になっている。

 俺は拳銃を抜くと、暴漢達の腕を狙って即座に3連射した。


──ダンダンダンッ!


「うっ!」

「ぎゃあ!」

「いでぇ!」


 男たちは腕を射抜かれ、呻いている。


「悪いな、鉛玉なら持ってるんだが……そんなに欲しいならくれてやるぞ?」

「「「 ひ、ひぇ~!! 」」」


 男たちは逃げていった。俺は周囲の安全を確認すると、拳銃の弾倉を引き抜き、スライドを引いて薬室内の弾丸を取り出し、スライドストップを解除する。そして、取り出した弾丸を弾倉に詰めて、弾倉を銃に戻す。そして、そのままコッキングせずにホルスターへと戻す。これで安全に拳銃を持ち運ぶことができる。


「す、凄い早撃ちですね! 神がかってましたよ……!」

「これでもガラルドの弟子なんでね……。さあ、先を急ごう!」

「は、はい!」



 俺の立案した作戦は、大きく3つに分けられる。


・第1作戦……情報の収集

 敵の規模、及び囚われている人間の場所といった、具体的な情報を入手する。


・第2作戦……強襲

 敵の拠点への突入。第1作戦で得られた情報を基に、効果的に敵を掃討する。


・第3作戦……救出

 囚われている人間の救出。


 そして俺とミシェルは現在、第1作戦を遂行中だ。ブラックマーケット内のとある店の主人が、襲撃予定の狼旅団の拠点に出入りしていたのを、警備隊が目撃しているらしい。情報を得るには、直接現地を偵察するか、知っている人間に聞けばよいのだ。

 だが、レンジャーズギルドに任務の召集がかけられた以上、敵にも襲撃の情報は伝わってしまうだろう。敵の準備が完了する前に、急いで強襲を行うためにも、情報の収集は早く行う必要がある。


 そこで、車を持っている俺がここに出向き、その情報を持ち帰るという事になったのだ。ちなみに、警備隊とクエントは現在、第2作戦の準備をしている。

 待っている彼らの為にも、急がなくては……。



 * * *



-数分後

@ブラックマーケット 怪しい盗品屋


 目的の店のドアを開けると、店のカウンターに中年の男が立っていた。


「いらっしゃい。……おや、初めてお越しですかな? 本日はどのようなご用件で?」

「お前が店主か?」

「え、ええ……」

「ちょっと買い取って欲しいものがあって……なんて言うと思ったか!?」


 俺は腰に挿していたナイフを構えると、素早くカウンターを乗り越えて、切っ先を店主の首元に当てる。


「ひ、ひぃぃぃ!」

「おっと、動くなよ? 手元が狂って、ザクっといっちまうかもしれない」

(……ヴィクターさんなんか怖いです)

(演技だ、演技ッ! ちょっと黙っててくれミシェル)


「ごほん! ……この街の狼旅団の拠点について、知ってることを吐いてもらおうか?」

「し、知らない! ほんとに知らない!! わ、私にはなんのことだか……!」

「あれ? 知らないのか……そりゃ悪かったな」

「え、ええ。わかってもらえれば……」

「じゃあ、死んでもらうか」


 俺はナイフの柄尻で店主の頭を叩き、相手の姿勢を崩すと、そのまま体術で投げ飛ばした。投げ飛ばした先の棚が倒れ、並んでいた壺などが割れる。


──ガッシャーンッ!!


「ぐええ……!?」

「あ、ミシェル。この店は今から都合により閉店するから、店の入り口見張っててくれ」

「えっと……。あんまり可哀想なことしないで下さいね」


 ここから先は、年齢制限だ。ミシェルには過激すぎる。ちょっと退場してもらった……。


「おい、店主のおっさん! お前が、狼旅団の拠点から出てくるのを見た人間がいるんだよ。今ので何か思い出したんじゃないか?」

「し、知らない! それに知っていても、言える訳がないだろう!? 相手はあの狼旅団なんだぞ!!」

「ほう……今の口ぶりからすると、何か知ってそうだな?」

「……」

「今度はだんまりか……」


 じゃあ、その口を開けてやるか。俺はナイフを、店主の男の太腿に突き刺す。


「ッ! ぎゃぁぁあ!!」

「口が開いたな? そのままゲロっちまったらどうだ?」

「じらない! お……俺はしゃべらないぞぉ!!」

「……」


 俺は、ぐりぐりと、突き立てたナイフを動かす。


「あがぁッ! いだいッ、やめで!!」

「あんた、知らないと思うが……。オイ、聞けよ!!」

「ひぃ、ひぃ……!」

「この世には、死ぬより辛い事ってあるんだぜ? 生まれてきたことを後悔させてやろうか?」



 * * *



-十数分後

@店の外


「あ、ヴィクターさん……」

「終わったぞ、ミシェル」

「凄い悲鳴でしたね……。その人、縄で縛ってるみたいですけど、どうするんですか?」

「こいつも、狼旅団の関係者だった。なんか、盗品の売却とか旅団に武器卸したり、色々と真っ黒だったぜ……。とりあえず、捕まえたから警備隊に引き渡すわ」

「は、はあ……」

「よし、戻るぞ!」


 店主との世間話ごうもんにより、さらわれた人達は、旅団の拠点の地下に囚えられていることが分かった。この情報は、これから行う作戦には好都合だった。

 俺達は、縛った男を荷台に乗せると、これから行う第2作戦の舞台……街北東部のスラムにある、狼旅団の拠点へと出発する。ちなみに荷台の男は、俺との世間話が余程面白かったのか、泡を吹いて気絶している。ちゃんと止血とかの処置はしてあるから、大丈夫なはずだ。


(これからが本番だな……)


 俺はこれから行われる第2作戦に向けて、つばを飲み込んだ。……上手くいくといいが。

 とりあえず、今は車の運転に集中だ。





□◆ Tips ◆□

【Qボックス】

 4連装のトップブレーク式ペッパーボックスピストル。縦横2×2の4本の銃身と薬室を持ち、ダブルアクションで作動する。価格が安いため、サイドアームとして使う人間が多い。設計が比較的単純で、頑強な構造をしている。

 精度が悪いため、使用する際はなるべく近づく必要がある。


[使用弾薬] 9×33mmR弾

[装弾数]  4発

[価格]   新品約6,000-8,000メタル

[モデル]  ランカスターピストル



【Qボックス ヴィクターカスタム】

 ガラルドの秘密基地の武器庫にあったQボックスを参考に、ヴィクターが設計し直したもの。

 銃身をロングバレルにして、命中精度を向上させている。また、内部の部品を設計し直した結果、トリガープルが元のQボックスよりも軽くなっている他、安全装置を組み込んでいる。

 ロングバレルにした結果、リロードの際に薬室を開けやすくなっている。


[使用弾薬] 9×33mmR弾

[装弾数]  4発

[モデル]  デリンジャーCOP.357



【HP-98】

 連合軍正式採用の拳銃で、数多のトライアルを経て採用された。過酷な環境下でも確実に動作し、各部品の耐腐食性が高くなっている。専用のホルスターを用いれば、銃を抜く際にスライドを引いてコッキングしてくれるので、即座に発砲可能になる。ホルスターはAutomatic Holster社の製品がモデル。


[使用弾薬] 10×22mm弾

[装弾数]  14発+1

[有効射程] 50m

[モデル]  SIG SAUER P320



【HP-98C】

 連合軍制式拳銃HP-98のコンパクトタイプで、主に将校の護身用などに用いられていた他、警察でも一部使用されていた。上述のホルスターも使用可能。

 ヴィクターが使用しているのはこのモデル。


[使用弾薬] 10×22mm弾

[装弾数]  13発+1

[有効射程] 50m

[モデル]  SIG SAUER P320 Compact

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