第30話 英雄伝説2

-数十分後

@カナルティアの街 南部地区


 銃声が近づいてきているのを感じる。あの男だろうか?そもそもアイツは何者なのだろうか?とてもただの酔っ払いには見えない…。

 そんなことを考えていると、建物の外で戦闘の音が聞こえる。近くの窓からそっと外の様子を窺うと、あの男とデュラハンが戦っていた。


「す、凄い……!」


 男は、デュラハンの鋭い爪による攻撃を避けると、デュラハンの死角に潜り込み、手に持つダムと呼ばれる突撃銃を撃ち込んでいく。隙を見てリロードをしたかと思えば、空になった保弾板をデュラハンの顔めがけて投げ、牽制に使用したりと、とても真似できないような動きでデュラハンを相手取っていた。

 しばらくの攻防の内、青年の隠れる建物の前にデュラハンと男の戦闘の場が移る。しばらくの攻防の末、デュラハンが大きく腕を振り上げ、男に叩きつける。だが、男はその攻撃を寸での所でデュラハンの脇に飛び込んで回避すると、そのまま前転して体勢を整える。まるで、その動きは映画の主人公のようだった。


「か、かっこいい……!」

「今だッ、出てこい!!」

「……ハッ、俺の事だ! は、はい!!」


 青年は、男の言葉を思い出し、急いでドアを蹴破り外に出る。外に出るとデュラハンが男と対峙し、ちょうど青年にその背中を無防備に晒していた。


「食らえぇ!!」


──ダダダダダダッ! カチッカチッ……


「あっ……」


 青年の持つ銃が、火を噴く。だがすぐに弾切れを起こし、その勢いは止まってしまう。


「グア゛……」

「うわわわわ、こっち見てるぅ!!」


 男と対峙していたデュラハンは、青年にターゲットを移すと、青年に向かってゆっくりと歩んでいく。


「ひょええ!」

「よくやった!!」


 男はそう言うと、手に持った金属の筒の様なものを取り出し、筒の端から飛び出した導火線に火を付ると、デュラハンの背中に向かってナイフを構えながら体当たりを食らわせる。


「ヴア"ッ!」

「くっ……へへ、コイツを食らいやがれッ!!」

「モ゛ガァ!?」


 男の攻撃に不意を突かれたデュラハンは、裏拳の要領で振り向きながらその腕を振りぬく。男は、瞬時に身を屈めて攻撃を回避すると、手に持った金属の筒をデュラハンの口に突っ込む。そのまま、青年の元へ走ると、呆然とした青年を建物のドアの奥に押し込み、自分も屋内に入るとドアを閉める。


「伏せろッ!!」

「は、はい!!」


 男がその場に伏せ、青年もその場に伏せる。


──ドガァアンッ!!


 その直後、建物の外から爆発音が聞こえ、その衝撃で建物の天井から埃が落ちてくる。


「……どうなったんです?」

「こぉんの大バカ野郎ッ!!」

「ひ、な、なんですかッ!?」

「合図したら銃を撃てとは言ったが、デュラハンを撃てなんて言ってねぇだろうがッ!!」

「ええっ!?」

「奴の気を逸らせられれば良かったんだよ! 射線の向こうには俺がいたんだぞ! 当たったらどうするんだッ!!」

「ご、ごめんなさい……!」


 ちゃんと説明しなかったこの男が悪いのでは?と思う青年であったが、警備隊でも射線と味方の位置には気を付けるよう言われていたので、反論できなかった。


「まあいい、様子を見に行くぞ」


 ドアを少し開け、隙間から外の様子を窺う。デュラハンが外で倒れている。二人で外に出て確認すると、デュラハンはその頭部?胸部?を吹き飛ばされ、もう動くことは無かった。


「た、倒したんですか?」

「……ああ。もう動かねぇな」

「そういえば、もう一匹は……」

「ん? ああ、奴ら首が回らねぇだろ? 路地に追い込んで、死角から攻撃すれば楽勝だったぜ。まあ、最後の一匹は妙に賢くて、そうはいかなかったがな……」

「す、凄い……凄いです!!」

「うるせえな……。こっちは、すっかり酔いが醒めちまったよ」

「あっ、助けていただいて、ありがとうございます!! 自分は……」

「やめろやめろ! 人の名前なんて、いちいち覚えてられねぇよ!」

「で、ですが……」

「お、警備隊の援軍とギルドの応援が来たぞ」


 男が指をさした方を見ると、車が何台か走ってくるのが見える。6台ほどの車が、二人の前にたどり着くと、荷台から武装した人間がぞろぞろと降りてきて、青年たちを取り囲む。


「おい、あのデュラハンはアンタたちが殺ったのか!?」

「他のデュラハンはどうした!?」

「お前、警備隊だな? 他の連中はどうした!?」

「うわぁ! い、いっぺんに聞かないで下さい!!」

 

 青年がオドオドしている中、男は人の輪をかき分けて、その場を離れようとする。


「じゃ、後は任せた!」

「ええっ!? ま、待ってくださいよ!」

「んだよ、俺は手伝わねぇからな!」

「いえ、そうではなくて……ごめんなさい、俺がもっと考えて動いていれば……」

「ん? ああ射線の話か……」

「はい」

「見たか?」

「えっ?」

「奴の死体、ちゃんと見たか? お前が撃った弾、9割は命中してたぞ。慌ててたにしちゃ、上出来だ。お前さんには、射撃の才能が有るらしいな。これからもっと伸ばしていくといい」


 不意に褒められた青年は、返答に困りその場に立ち尽くしてしまう。


「じゃあな」


 そう言いながら、男は背を向けると手を振りながら去っていく。その様子を、青年は映画の中の英雄の姿に重ね、心を熱くさせる。そして、その背中に対し思わず、感謝の言葉を口にする。


「ありがとうございました……!!」



────その後、青年は警備隊やギルドへの事情聴取で2週間ほど拘束される事になるのだが、一方の男の方は酒場で酔いつぶれていたという。

 後に、この酔っ払いはAランクレンジャーのガラルド・ラヴェインであったと判明。その功績を称えてレンジャーズギルド本部から、A+の認定を受けることとなったのだった────





 * * *



-現在

@カナルティアの街 南門:詰所


「んで、あの時の青年がこの俺…ってわけよ!」

「はぁ……」


 俺とガラルドとの関係と、ガラルドの最期の話をしたまではよかったが、この警備隊の隊長が急に泣き出して昔話を始めた。正直、面倒臭いと思いながらも、ガラルドの昔話を聞けたのは良かった。だが、いざ話を聞いていてみると、ガラルドはこの街の英雄だった事が分かった。そして、俺はその英雄の弟子だということになる。こんな話が広まると、少々……いや、かなり面倒な事になる。とりあえずは、目立たないよう行動したい俺にとっては不都合だ。

 しかし運の悪いことに、こいつ等に俺がガラルドの弟子だと最初に話してしまった為、話が広まるのは時間の問題かもしれん……。


「ガラルドさんが亡くなったのは残念だが、こうして弟子が来てくれたんだ! 歓迎しようじゃないか! な、みんな!?」

「「「 おう!! 」」」

「通りで、アーマードホーンを一人で仕留めちまうわけだ……」

「これでこの街も安泰だな!」


 やばい、なんか期待されてる……?


「あの、その話黙っててもらえます?」

「なんで?」

「いやぁ、ガラルドを襲撃した野盗が、今度は俺を狙うかもしれないでしょう?」

「……なるほど、狼旅団か。確かにそうかもしれん。最近、連中の勢いは増しているからな」


 実際は、たまたま出会った野盗との戦闘に巻き込まれただけなのだが、ガラルドを狙っていたかのように話をすり替え、関係者である俺に被害が及ぶかもしれないという流れに持って行くことにしたが、成功したようだ。


「みんな、今日の事は他言無用だ! いいな!!」

「「「「「 了解ですッ!! 」」」」」

「引き止めちまって悪かったな。ギルドに向かうんだろ?」

「ああ、クエントも待ってるからな」

「おっと、そうだったな。じゃあな、ええと弟子!」

「……ヴィクターだ」



 話は長くなったが、上手いこと門の通過料を踏み倒した俺たちは、街の中へと入ることに成功した。


《……それにしても》

《どうしたロゼッタ?》

《隊長の人は、恩人が死んだと知って初めは悲しんではいましたが、すぐに立ち直りましたね? もっと感情を引きずるものだと思っていましたが……》

《さあな、精神的に強い人間なのかもな。まあ、昔の思い出話をして気を紛らわせたんだろうさ》

《なるほど》

《……それか、知り合いが死ぬのは日常茶飯事とかな》

《……やはり心配になります》

《まあ、その両方だろうな》

《……ヴィクター様は?》

《うん?》

《ヴィクター様は、その……恩人が亡くなって、寂しくないのですか?》

《たぶん……もう吹っ切れた、と思う》

《そうですか》

《それに、今はロゼッタもいるしな。ひとりじゃないさ》

《そう言っていただけると幸いです》

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