第16話 野盗との戦い

「銃声の間隔から考えて、狙撃手は一人と見ていいだろう」

「他にもいるのか?」

「ああ、おそらくビルの陰に何人か隠れてるな」

「数が分からないと、対応が考えられないな……」

「いや、このやり口は覚えがある。連中、狙撃で俺達を倒すか、負傷させたところで近づいて来るつもりだろうな」

「……やけに詳しいんだな?」

「多分、奴らは“狼旅団”だ」

「狼旅団? なんだそりゃ?」

「最近、カナルティア周辺で暴れまわっている野盗集団だ。レンジャーギルドも対応に追われているが、相手の規模がデカくて手をこまねいているのが現状だ」

「そんなにヤバい奴らなのか?」

「まあ、所詮は烏合の衆だが相手の数は多い。絶対に油断するな」


 戦闘における勝敗の決定要因は、兵器の質、それら兵器を用いる戦術と戦略、そして兵器を使用する軍の組織力(連携・兵站・経済)と言われ、崩壊前は「相手を圧倒できる高性能な兵器」が勝敗を決すると言われていた。その思想の下登場したのが、連合軍の戦闘衛星群セラフィムや、共和国のAMといった戦術兵器や、同盟軍の戦略潜水艦隊などだ。

 しかしこれら高性能を誇っていた戦略・戦術兵器亡き今、時代は退行し、戦いは数の時代へと回帰した。戦いに必要なのは、大量の人間が持つ銃の火力なのだろう。


「……なんか気になるな」

「どうした?」

「いや、兵站はどうしているんだろうって。そんなデカい組織が、どうやってその腹を満たしてるのか気になってさ。こんな追剥ぎみたいなことで、本当に儲かってるのか?」

「鋭いな、俺も連中には何かバックがいると考えてる。どこか他の街が……ってのが俺の予想だ」


 私掠船のようなものか? 統一歴前、戦争状態にある国の政府から、敵国の船を攻撃し海賊行為を行う許可を得た船があった。これらは主に海軍力の劣る国が、海軍力の優勢な国への通商破壊などに用いられたが、似たようなことが今起きているというのか。

 この手段を使えば、侵略などを考えている街が野盗やならず者を使って、相手の街を手を汚さずに攻撃できる。


「まあ、いい。今は奴らに集中しろ。銃を返してくれ」


 俺はガラルドから預かっていた銃を返すと、ガラルドは腰のポーチから小さなつの?のついた金属の箱を取り出す。


「何だそれ?」

「奴らへのちょっとしたプレゼントだ」


 そう言うと、ガラルドは路地裏にあった大型のゴミ箱を開け、中を漁るとボロ布を取り出した。そして、取り出した金属の箱を路地裏の隅に設置し、箱の角に何やらコードを接続している。


「わかった、爆弾だな!」

「ガハハハッ、当たりだ! 手伝ってくれ!」


 俺たちは路地の2か所の入り口に、ガラルドの持っていた爆弾を仕掛け、ボロ布や他のゴミでカモフラージュした後、起爆スイッチ付きのコードを互いに握ると、先ほどの大型ゴミ箱へと身を隠す。幸いなことに、崩壊前のゴミは風化し、生ゴミの匂いは無かった。

 ……なんか超デカいGがいたが、ガラルドが両手でつかみ壁に叩きつけて潰した。俺には無理だな。


「さて、あとは我慢比べだな」

「こんなむさいおっちゃんと一緒に、ゴミ箱に入る日が来るとは……」

「ガハハ、良いじゃねえか! 何事も経験よォ!!」

「いつまで待てばいいんだ?」

「さぁな? まあ連中、気が短い奴が多いから、案外すぐ来るんじゃねえか?」

「……期待しないでおくわ」



 * * *



-数分後

@死都 路地裏


「ここか?」

「ああ、この辺のはずだ」

「やったのか?」

「まだだ。狙撃手の野郎、しくじりやがって」


 路地裏の入り口付近から、人の声が聞こえる。野盗だ……。


(来たぞ。準備はいいな?)

(ああ)

(ちょうどお前さんの方だ。慌てるなよ、相手が有効範囲に入るまでスイッチは押すなよ)


 俺たちはゴミ箱の蓋を少し上げ、隙間から外を覗く。


「よし、行くぜ!」

「「「 おう!! 」」」


 野盗が路地裏に踏み込んでくる。


「……いないな」

「逃げたんじゃねぇのか?」

「反対側は、他の奴らが抑えているはずだ。油断するな、隠れているかもしれん……」

「めんどくせえな。おい、出てこい! いるのはわかってるんだ!!」

「そうだぞ! 今なら、命だけは助けてやる! 大人しく出てこい!!」


 敵は4人。1人が斧の様な物、もう一人が野球バットにチェーンやスパイクが飛び出した痛々しいこん棒を構えながら前を進み、その二人の後ろで残る二人が銃を構えている。


「おい、あれ怪しくないか?」

「じゃあ、俺がみてやるぜ!」

「おい、抜け駆けはよせ!」

「へへっ、お先ィ~!!」


 まずい、斧の様なものを持った奴がこちらへ近づいてくる。俺はスイッチを構えるが、ガラルドに小声で制止される。


(……まだだ)

(おい、近づいてきてるんだぞ!)

(まだ、後ろの奴が範囲外だ。待つんだ)

(……悪い、無理だ!)


 俺は、迫りくる敵の恐怖に耐えられず起爆スイッチを押してしまった。


──ドォン!!


「な、何だぁ!?」


 爆弾が起爆し、3人の野盗が爆弾内に仕組まれた釘やらネジ、ボルトなどの金属片による破片の餌食となり、断末魔をあげることなくその命を散らす。


──ドガッ! パァン! パァン!!


「ガハッ!?」


 爆弾が爆発してすぐに、ガラルドはゴミ箱の蓋を跳ね上げて、カービンを構え生き残った野盗に弾丸を撃ち込む。


──ドサッ……


 全員が地面に倒れたのを確認すると、ガラルドは元の姿勢に戻り蓋を閉める。


(……すまん)

(なに、気にすんな。初めてにしちゃ、よく耐えた。おっと、次のお客さんだ。静かにしな)


 今度は路地の反対側から、人が駆ける足音が響いてくる。


「どうした!」

「大丈夫か!?」


 今度の敵は3人のようだ。


(お手本を見せてやるよ!)


 ガラルドはつぶやくと、起爆スイッチを押す。


――ドォン!!


 爆風により巻い上がった塵が地面に落ち、辺りが静寂に包まれる。ゆっくりとゴミ箱の蓋を開け、周囲を窺う。

 先ほど倒した4人と、ガラルドが起爆した爆弾で倒れた3人。合計7人の屍が転がっていた。





□◆ Tips ◆□

【スクラップマイン】

 崩壊後の、手製指向性地雷。箱型で、爆弾表面に釘やボルト、ネジ、ベアリングボールなどのスクラップを内包し、起爆した際に扇状の範囲に破片を投射する。リモコンによる遠隔操作、ワイヤーの展張力、時限装置などにより起爆する。

 威力や加害範囲は広い。安価なものも出回ることがあるが、不発だったり、スクラップが内包されていなかったり、爆薬が弱いなど不良品がほとんど。罠を専門的に扱うレンジャーが自作していることがあり、それを買うのが賢明。


[モデル] M18 クレイモア地雷

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