第15話 帰還準備
-2週間後
@死都 ベースキャンプ
ガラルドは、死都での偵察活動の任務を行なっている。偵察活動と言えば聞こえはいいが、やってる事は、周辺地理の把握、レンジャーの死体からの装備やドッグタグの回収、ミュータントなどの生態調査など、地味でどちらかと言えば、裏方のやる仕事だ。
「なあ、アンタほど腕の立つレンジャーが、なんで偵察活動なんて裏方やってるんだ?」
夕飯の時、ガラルドに聞いてみた。
「ん~? それはだな、俺が優秀だからだよ」
「どうゆうことだ?」
「お前も見てきただろ? キラーエイプの大群や、アーマードホーンみたいな危険なミュータント共、それに崩壊前の戦闘ロボを」
「ああ」
「ここ、死都にはそんな奴らがウジャウジャいやがる。ギルドはここを危険地帯として周知している。だからこそ、まだ手付かずの遺跡や遺物が多くてな、それを目的に来る人間は少なくない」
「ふ~ん……」
「偵察ってのはな、情報を集めるだけが仕事じゃないんだ。集めたモンをしっかり、生きて持ち帰らにゃならん。この死都で、それが出来るのは一握りの人間しかいない」
「なるほどな。なんか納得したわ」
「そう、この俺しか出来ない仕事って訳よ! ガハハハ!」
「違いねぇな!」
ガラルドは自慢気に笑う。
それにつられて、俺も思わず破顔する。
「それにな……」
ひとしきり笑い合った後、ガラルドは呟く。
「他にも恐ろしいのがいるからな……」
「……?」
そう呟いた、ガラルドの目は笑っていなかった。
* * *
-翌日
@死都 ベースキャンプ
「明日だったな、街に帰るのは?」
「ああ、そろそろ本格的に冬が来る。ここにも雪が積もって、まともに活動出来なくなるからな。これまで遭遇したミュータントの記録と、素材、死都の情報、回収した装備や死んだレンジャー達のドッグタグを持ち帰って、冬はのんびりするさ」
「今日はどうする?」
「お前さんも、ほぼ一人前と言ってもいいからな。今日は明日の荷造りと、秘密基地の周辺確認だな」
「そこはもう一人前って言って欲しいね」
「……いや、まだだ。まだ教えてないことがあるからな」
「何だよ、もったいぶらずに教えてくれよ!」
「……そのうちな。それより、荷造り手伝ってくれよ」
「お、おう!」
俺たちは、武器庫の武器や弾薬、死体から回収した武器や装備などの使えそうな物をまとめて、牽引用のトレーラー(荷車)に載せる。ガラルドの車で牽引して持っていくらしい。
荷台にはあまり荷物を載せないようだ。
「荷台は使わないのか?」
「ああ、いざって時に、荷台を切り離して、身軽にして逃げやすくするのさ」
「へー、なるほどな」
「後は、車に接続すれば終わりだな、じゃあ基地の周りを見回りに行くか!」
荷造りを終えた俺達は、地下駐車場を出て周りを見回る事にした。
そうして、ちょうどホテルの裏にあたる道路に出る。
「異常はなさそうだな」
「そうだといいな……」
「ガラルド、どうしたんだ? 気難しい顔してるぞ」
「何かな、嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感?」
「ああ、誰かに見られているような……」
──ッバシン! パァン!
ガラルドの予感は的中したようだ。ガラルドがそう呟いた瞬間、俺達の足元に穴が空き、道路の向こうから、破裂音が響く。
「ッ! 狙撃だ、走れ!!」
「そ、狙撃ぃ!! 誰から!?」
「いいから走れ! そこの路地裏に隠れるんだ!」
急いで路地裏まで走りだす。
──ッバシン!
音速を超えることで生じる、弾丸のソニックブームの音が、俺の目の前に響く。その瞬間、以前もあったように、世界がスローモーションのように感じる。
(なっ!? 弾道が見える!?)
俺は目の前に、弾丸が周りに衝撃波を起こしながら、右から左へと進んで行くのが見えた。
「無事か!?」
「あ、ああ!」
「クソッ、どっから狙ってきてやがる!」
「……あっちの道路の向こう側、恐らくバスの残骸の影から撃ってる!」
「何!? 確かか?」
「多分な!」
「よし、信用するぜ! ちょっと持っててくれ!」
そう言うと、ガラルドは持っていた銃を差し出して来た。
ギルド製のセミオートカービンで、高級品らしい。木製のボディが、猟銃のような、大昔の軍用ライフルのような、そんな雰囲気を醸し出している。
俺が銃を受け取ると、ガラルドはポケットから鏡を取り出し、俺が示した方向を鏡を使って覗く。
「……多分ビンゴだ! いたぞ、バスの影だ!」
どうやら、俺の憶測は当たったらしい。走馬灯に感謝だ。
「何で撃ってくるんだ?」
「連中は野盗だな。多分、俺達が狙いだ!」
「野盗?」
「ああ。街の外で人を襲う連中だ!」
「そんな連中が野放しなのか!?」
「いや、捕まえれば犯罪奴隷として一生強制労働になる」
「でも、何でこんなところに?」
「こんなところ、だからだろうよ。大方、悪さし過ぎて街にいられなくなったんだろ」
「なるほど、人が寄りつかない所で、ほとぼりが冷めるのを待つってことか」
「そうだろうな。この死都は、ミュータントやロボットがいるから危険って訳じゃない。そんな所は他にいくらでもある。ここは、危険地帯な上に崩壊前の廃墟が多い。だから、連中みたいな凶悪な人間が隠れ家にしようと寄って来るんだ」
「なんだって!?」
「ヴィクター、いいか! この死都で……いや、この世界で一番恐ろしいのは人間だ! 人間は簡単にお互い騙し合い、殺し合うことができる」
「……」
「かく言う俺も、野盗はいつも皆殺しにしている」
「な、何故?捕まえたら、奴隷になって懲役なんじゃ!?」
ガラルドはため息をつき、語りだす。
「……俺には、息子がいたんだ。だいぶ、昔の話だがな」
「あっ……」
「俺に似て優秀な奴だったよ。優しくて、いい奴だった。だが、その優しさが仇となったのか、捕まえたと思った野盗に殺されちまった」
ガラルドの目が怒りに燃える。
「俺はな……連中を許さねぇ。絶対にだ! 出会ったら、確実に息の根を止めてやる!!」
「……私怨か?」
「いや、違う! これは、俺の使命だ! 俺みたいな……息子のような犠牲をこれ以上出さない為だ!!」
「……」
「聞け、ヴィクター。さっきの続きだ、これが出来たら一人前だ! 野盗を……奴らを殺せ、皆殺しにしろ!! それが出来れば一人前だ、この世界でも生きていける!!」
人を殺す。軍の訓練でも、バーチャル訓練などで吐き気や気分が悪くなる奴がいた。それだけ、殺人には心理的負荷が掛かるのだろう。
俺は、本当に殺れるのか? バーチャルではなく、リアルで。個人的に悪党には人権は無いと思っているが、本当に殺せるのだろうか?
悩んでいると、ガラルドが俺の肩に手を乗せる。
「いいか、覚悟を決めろ! 殺らなきゃ、お前が殺られる。お前が殺らなきゃ、違う人間が殺られるんだ!」
「……ああ、そうだな。やってやる! まだ、街で女の子を紹介してもらってないしな! 死んでたまるかってんだよ!」
「……ガハハハ! その意気だ! いいか、油断するなよ!!」
「了解!!」
□◆ Tips ◆□
【レゴリス】
ギルド製セミオートカービン。
崩壊前は、スポーツや狩猟などで、民間で広く使用されていた7.62×33mm弾を使用する。反動が小さい上、取り回しが良い。人間からミュータントまで、幅広く相手にできる威力がある……と言えば聞こえは良いが、カービン弾は通常のライフル弾より威力は劣る為、耐久力の高いミュータントを相手取る時は、弱点を正確に撃ち抜く技量が要求される。
玄人向けで価格が高く、装備する人間は少ない。
フレームは木製で、曲銃床。
[使用弾薬] 7.62×33mm弾
[装弾数] 15発
[有効射程] 300m
[価格] 300,000メタル
[モデル] M1カービン
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