俺は英雄になって。号泣もする。

長月 有樹

第1話

中学二年生の頃にまぁ好きだった女の子がいた。名前はここでは、シノハラリンカと仮名をつけさせてもらう。彼女は、まぁなんつーか俺みたいなうだつが上がらないカーストで二軍を自称をするけど、他人からみたら、あるいは大人になってから振り返るとお前、ようそれで二軍だと思ってるよなレベルの。ハッキリ言葉にすると駄目なヤツにも優しかったし何より外見が綺麗だった。スラッとした黒髪ロングヘアでスレてない感じがまぁそら盆暗なオトコが好みそうで。かつやっぱり誤解しちゃうんだよね。こんな俺にも優しい綺麗な女の子。そら誤解するろ?そんなん俺悪くないじゃんみたいにそんなん好きになってしまうだろ。


んでまぁ俺は中学の頃はソフトテニス部に所属してたんだけど。そのソフトテニス部はヤンキーグループとオタクグループに綺麗に二分化されていた。俺はもちろんオタクグループにいたんだが、ヤンキーグループのヤツらともいっしょにいた。いやおもちゃニされてた?イジられてた?いじめられてた?今思えばどれが一番適した自分の立ち位置を現す言葉なのかも判断つきにくいが、まぁ当時はともかく今となっては、あれはあれで良い思い出だったなと。


シノハラリンカさんの話に戻る。ともかく俺は好きだった。何故なら俺にも優しいし、学校で一番美しかったから。多分ウイッシュDAIGOの結婚されたキタガワさんをイメージして欲しい。ほぼそれな気がする。


夏休みのソフトテニス部の練習日。日が木陰で丁度隠れるテニスコートのベンチで俺はヤンキーグループの中心人物の一人ケイゴと二人でサボっておしゃべりしてた。今考えたらヤンキーはちゃんと夏休み練習に来てたな。いや練習してないんだが。何ならヤンキーとつるんでる時以外は、そこそこ練習してた俺より数倍テニス上手かったし。俺は、前衛で速い球来るとビビって目つぶっちゃうし。キャプ翼の石崎くん?みたいに顔面にボール当たるみたいな要領でたまにボレー成功してたな。上手い下手の前の話な気がしてきた。


まぁケイゴと話すことは大抵スケベな話だったんだが。1年生の時は、可愛いAv女優が誰とか、まぁ自慰行為とか毛が生える生えないとか。猛スピードでチャリ漕いで手を翳してグーパーグーパー手を握り広げをやるとおっぱいの感触とか。THE中学のゴリゴリ童貞トークだったが、俺の貴重なスケベ情報調達センターみたいなヤツだった。


それが二年生になったらワンランクアップした。ケイゴが童貞を卒業した。スケベ情報センターはより生々しくなり。それは作り物の話ではなく。リアル。すごくリアルだった。フィクションからノンフィクションへの移行。ケイゴのスケベ活動報告だった。


俺はそれが楽しかった。興奮してた。臨場感が溜まらなかった。ブラジャーを外す時に苦戦するケイゴ、胸の柔らかさの感覚、ベッドで重なり合う時のドキドキとかとか。ケイゴは学年のテストで下から10番位の学力で今覚えばそんなに話が上手い方でも無い。けどリアルがそこにはあった。


ケイゴはまず学年ヤンキーぽい女の子のタカギアイナ、その後、一学年上のスズキチカコ、マリエ姉妹との逢瀬を語ってきた。そしてテニスコートのベンチで今度は新しい女の子とのエピソードを語った。



シノハラリンカだった。


俺はショックだった。あのシノハラリンカ、俺にも優しい黒髪ロングヘアの女の子も。ケイゴと関係をもった。ケイゴは語る。俺は好きだったとばれたくないからいつもみたいに興味あるふりをする相槌をする。けれど全然頭に入ってこなかった。蝉の鳴き声がうるさかった。全然頭に入ってこないと言うわりには興奮してた。そんな自分に失望もしていた。


結果、自分の脳のスケベコンピュータには、シノハラリンカは胸がべらぼうに小さいという情報しかはいらなかった。


俺は質問をした。付き合う経緯を質問した。結果、シノハラリンカの飼い猫を一緒に探したのがきっかけだった。


さらに質問をした。その行為に下心はあるのか?と。答えはあるだった。男ならいつだってあわよくばがあるのがフツーじゃんという回答だった。


俺はそれを聞いたときから吐き気がした。その後、フツーにほぼほぼテニスコートで駄弁って、15時くらいには帰路につき、本当に吐いた。


数日後。まだ夏休み。塾の宿題をやりに俺は最寄りの図書館へと向かった。そこにはケイゴの初めてのカノジョのタカギアイナがいた。タカギも恐らく塾の課題かなんかを机に広げていたが。どうやらやる気はなくぼんやりとケータイをポチポチしていた。見るに全然進んでなさそうだった。


俺は男ならいつだってあわよくばがあるだろというケイゴの言葉が脳裏によぎった。


俺は勇気を振り絞った。心臓はバクバクいってた。


「勉強教えようか?」とタカギに言った。


タカギは俺の方へ視線だけ動かし、少し見てまたケータイをポチポチしだした。


何一つ声すらかけて貰えなかった。



そして俺は泣いた。


夏休み明け、俺はこの件でキモいヤツと女子の間で固定された。一部の男子からは英雄扱いされた。


俺は号泣した。

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俺は英雄になって。号泣もする。 長月 有樹 @fukulama

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