勇者だけど。いつもの仲間がいなくなった。

ムーンシャイン

001:勇者だけど。いつもの仲間がいないのだが。



 紅色に染め上げれた豪華絢爛な玉座の主、国王陛下に勇者はこうべを垂れた。

「貴公に勇者の権限を与える。これからの働きを期待する」

 華奢な帯剣を授けられた勇者は、再度深々と頭を下げる。


「見事、魔王を退治して参ります」

 これまで、旅の仲間たちと辛い特訓を乗り越えてきたのだ。勇者は、今後の冒険の期待に心が弾む。

 この時から、勇者は気がつくべきだった。今までの旅の仲間たちが、この会場にいないことに…。


 その後の綺羅びやかな貴族たちが集まる勇者晩餐会。その次の日。


 仲間たちのもとへと案内すると執事に言われた勇者は、宮殿の一室へと通された。

 そこには、今までの旅を乗り越えてきた仲間たちは一人もいなく。

美女たちが勇者に最敬礼や深々とお辞儀する。


「勇者様、我々がご用意した配下の者たちであります」


「あの、せ、戦士や盗賊、踊り子たちはどこに…?」

 これまでの仲間たちは、ある者は大金を握らせられ、故郷に送られ。

 ある者は反抗し、勇者妨害罪として投獄され。

 ある者は、投獄の一件でほぼ諦めて泣きながら、仲間の座を譲った。


 もちろん、それらの不要な説明は、一切されなかった。ただ、執事は、にっこり微笑んだ。


「皆様、栄光ある新たな旅路を歩まれております。今後は、このメンバーが勇者様をサポートいたします」


 宮殿と同じ紅色のサーコートを身にまとった知的で凛とした女性騎士が、勇者に歩み寄る。

「宮殿騎士団から参りました。エリザです。勇者様にお遣いでき、光栄でございます」


 次に白銀の重装鎧を身に着けたパラディンの女性が、勇者に最敬礼をした。

「サー。王立軍所属のリンディアです。勇者様のため、命を捨てる覚悟はできています。サー」


 白いローブに白髪の若い聖女が、眠たそうな瞼でこちらを覗き込む。そして可愛くペコリと頭を下げた。

「私…。アリス…。聖女ってみんな呼んでる。よろしくお願いします…」


最後の三角ハットを身に着けた美形の魔女が、握手を求めた。

「ワシは、魔法使いのクララじゃ。お主との旅、楽しみにしておるぞ」


以上で、全員の初顔合わせが終わった。勇者に言えることは、全員知らない人ばかりのチームだった。


それに美人たちに勇者の下心がなかったといえば、嘘になるが。それより、魔王退治という高尚な使命に燃えていた。


 以前の仲間達も、よろしくやっているんだったら。こちらも、新たなメンバーとともに頑張ろう…っ!


「みんなよろしく!」


そう言って、新しいチームメンバーを軽く受け止めた。


これが、最悪の結末への旅路とは知らずに。



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