第13話(2) 読書
「――!」
ブーという
脇に置いてあった鞄から、慌ててスマホを取り出しとりあえずアラームを取り消す。
十六時十五分。
念のためにセットしたアラーム。それがまさか役に立つとは。
「……ふー」
止まっていた息を吐き出し、文字通り一息
危ない危ない。いつの間にか、小説の世界に
スマホを鞄にしまい、無意識に閉じた小説を太ももの上から拾う。
図書館から次の授業を受ける教室までのルートを考えると、最低でも四分は時間が欲しい。少し早い気もするが、そろそろ教室に向かうとしよう。
鞄と本を手に、私は椅子から立ち上がる。
一階に降りるため、まずは階段を目指して歩き始める。
階段に着くと、そこを降り階下へ。そのまま出口――は目指さず、途中の受け付けに足を運び本の貸し出し手続きを済ます。
手続きを終えた本を鞄にしまい、ゲートを通過する。
四時限目の途中とはいえ、この時間に授業を受けていない生徒も大勢いるので、館外の人通りはそれなりに多く、また行き交う方向も人それぞれだった。
そんな中、見知った顔が私の視界に入ってきた。
「葵さん」
「ん?」
私の声に葵さんが反応し、こちらを向く。
「おう、みどり。今日も勉強か?」
そう言うと葵さんは、にやりと笑いこちらに近付いてきた。
「あ、いえ、今日は読書を少し……」
「読書? お前が?」
「ふーん。まぁ、いいや。次は私もB
「はい。
葵さんが先に歩き出し、私もそれに倣う。
「にしても、どういう風の吹き回しだ? 読書だなんて珍しい」
「いや、なんというか、最近色々と思うところがありまして、読書でもすれば少しはそこから何かヒントが得られるかなって」
ダメで元々、得られたら
「そっか。なんでもいいけど、あんま難しく考え過ぎるなよ。ほら、昔から言うだろ? 何事も過ぎたるは
「……ですね。気を付けます」
「おう。しかし、読書ね……。まさか、あいつの影響ってわけじゃないよな」
「あいつ、ですか?」
それってもしかして――
「私?」
「「――!」」
背後から突如降って湧いたように聞こえてきたその声に、私と葵さんは同時に立ち止まり振り返る。
そこには案の定と言うべきか、澄玲さんが立っていた。
「こんにちは、葵。みどりちゃんはさっきぶりね」
「お前なぁ、気配殺して人の背後取るのホント止めろよな。アサシンでも目指してるのか」
「アサシンって」
その言い回しが
「葵って時々、
「常に突飛な
「なるほど。一理あるわね」
「納得するのかよ」
澄玲さんの予測不能なレスポンスに、さすがの葵さんも呆れ顔を浮かべる。
「そういえば、話を戻して悪いけど、みどりちゃんは別に私の影響を受けて読書を始めたわけじゃないわよ」
「あん?」
「だって、さっき本を探すところに出くわした時、みどりちゃん、私が本をよく読む事すら知らない様子だったし」
「というかお前、今日みどりと会うの二度目かよ」
「えぇ。みどりちゃんとは、数十分前にそこの図書館で会ったばかりよ。ね? みどりちゃん」
「あ、はい。本を探してたら後ろから急に話し掛けられて」
「……」
葵さんの冷たい視線が澄玲さんに突き刺さる。当の本人にそれを気にした様子はないが。
「いいか、姫城。これだけは言っておく」
「何?」
「みどりは私の後輩だ」
「――!」
言うが早いか、葵さんが肩に手を掛け私を自分の元に引き寄せる。
「私の後輩でもあるわ」
「言うじゃねーか」
顔と顔を突き合わせ、お互いの顔を見やる二人。その様は、ボクシング等の前に行われるフェイスオフを
見慣れたいつもの光景なので、それを見ても
「あの、二人共そろそろ行かないと時間が……」
「「え?」」
見つめ合っていた二人の視線が、私が声を挙げた途端、同時にこちらを向く。
「ごめんなさい、みどりちゃん。葵が急に訳の分からない事を言い出すものだから」
「あ? 訳が分からないのは、お前の専売特許だろうが」
「はいはい。行きますよ」
このままでは
「お前のせいでみどりに呆れられたじゃねーか」
「私? 元はと言えば葵が――」
背後でまた始まる言い合い。
一応付いてきているようなので、今度は止める必要はないだろう。
……まぁこうして、人前で騒がれるのは正直迷惑ではあるのだが。
第四章 過去現在そして未来 <完>
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