第10話(2) 姫城澄玲
「――じゃあ、私はそろそろ行くわ」
「あ、はい」
現れた時同様、そう言うと澄玲さんは
神出鬼没というか我が道を行くというか……。
「ようやく行ったか」
「!」
背後からの声に驚き振り向くと、そこには後ろの席に座りこちらに体を
「葵さん、いつからそこに?」
「奴が来る少し前、かな」
「気付いてたんなら、声掛けてくださいよ」
「いきなり声掛けても面白くないだろ? 機会を
まるで苦虫を
「あいつ、私がいるの分かっててあえて気付かないフリしてやがった。まったく、性格悪いっちゃありゃしない」
「はぁ……」
内容が内容だけに肯定する事も否定する事も出来ず、私は苦笑を浮かべなんとかそう
「で、優子は調子悪いのか?」
「えぇ。少し。疲れが出たんだと思います。土日の」
最初からテンション高めだったし、慣れない場所でよく眠れなかったのかもしれない。
「ま、みどりが少しって言うのならそうなんだろうな。それより――」
私の皿から、サンドイッチの添え物として置かれていたフライドポテトを一つ
「姫城澄玲がフラれたらしい」
「フラれ?」
一瞬、葵さんの口から発せられた言葉の意味が分からず、私は思わず聞き返した。
視線をテーブルに落とし、思考を
あまりその言葉は、姫城澄玲という人間とかけ離れていた。逆はあってもフラれる事はない。そう思っていたし、そう信じていた。
「ホント。どこのどいつなんだろうな。あんな超絶美人をフった
「あら、そんな風に思ってくれてたの?」
「げっ」
首を
「どうしてお前がここに……」
「ちょっと忘れ物をね。ねぇ、この辺にハンカチ落ちてなかった? 白いレースの付いた」
「ハンカチ?」
「あー。あったった。ほら、これだろ?」
テーブルの下から体を戻し、葵さんが
「ありがとう」
それを受け取り、澄玲さんが
「おいおい。なんでそこに座るんだよ」
「え? 空いてるでしょ? ここ」
「……」
あまりに澄玲さんがしれっと告げたせいか、葵さんは口を
もしかしたら、噂話をしているところを本人に聞かれたのを気にしているのかもしれない。
「本当よ」
「「え?」」
ふいに発せられた
「私がフラれたのは本当の話。と言っても、私から告白したとか、ましてやその人と付き合ってとかじゃないの。ただ結果的に私が選ばれなかったってだけ」
「はー……」
なんて答えていいか分からず、私の口からはそんな言葉とも言えない声が
「ちっ」
ガタンという音が鳴り、葵さんが勢いよく立ち上がる。
「葵さん?」
「無理するくらいなら、そんな話するんじゃねぇ」
そう言うと葵さんは、肩を
「
それを見て澄玲さんは、微苦笑交じりに肩を
「きっと葵さんの中で澄玲さんは、どうでもいい人じゃないでしょうね」
「え?」
「葵さんってああ見えて結構シビアだから、自分にとってどうでもいい相手にはあんな対応しないと思うんです」
「……」
「す、すみません。
もしかしなくても、私調子に乗り過ぎた? 澄玲さんに意見するなんて……。
「ううん。私の方こそごめんね。色々と」
「いえ、そんな、全然」
「みどりちゃんは葵の事よく知ってるのね」
「まぁ、一緒に生徒会やった仲ですし、付き合いもそれなりに長いですから」
二年と少し。葵さんが高校を卒業した後も交流は続いており、たまに顔を合わせていた。実際、学校外で交流のある先輩は今も昔も葵さんだけだ。
「私もみどりちゃんと仲良くしたいんだけど」
「それってどういう……?」
「うーん。じゃあさ、みどりちゃんには今、好きな人っている?」
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