第3話(2) 身の程

 当時の私は今程自分を知らず、また身の程を弁えていなかった。


 自分が美人だとは思っていなかったが、普通よりは上だと思っていたし現にいい感じの男の子もいた。その子はクラスの中でも結構格好のいい方で、男女問わず人気もあった。サッカーが得意で足も速く、勉強もそれなり。そんな男の子。

 私は他の男子とはあまり話さなかったが、その子とだけはなぜか気が合いよく話をした。多分今考えれば、他愛たあいもない話ばかりだったと思う。授業の話、テレビの話、クラスメイトの話、近所の駄菓子だがし屋の話……。それでも、彼と一緒にいる時間は楽しかった。そして、こんな時間がずっと続くとその時は思っていた。


 しかし、終わりは唐突とうとつに、呆気なく訪れた。

 いや、本当は薄々気付き始めていたのかもしれない。二人の関係の終わりを。

 学年が上がるにつれ、男子は男子、女子は女子という雰囲気が強くなり、逆に異性と仲良くしている奴は格好が悪いという感じが、特に男子の方では段々と広まり始めていた。そのため彼は私を男子の前では少しずつ避け始め、私の方も必要以上に話し掛けなくなっていった。

 それでも二人きりの時は今まで通りに話していたし、嫌な空気が流れる事もなかった。ただ周りの目を気にし始めただけ。それだけのはず、だった。


 だから、あんな事さえなければ、もしかしたら今でも交流を持っていたかもしれない。あんな事さえなければ。


 友達と一緒に移動教室に向かう途中、私は教室に忘れ物をした事に気付き一人引き返した。

 男子は比較的移動が遅く、私が教室に戻った時まだ数名の男子が残っていた。そこで私は聞いてしまった。彼とクラスメイトとの会話を。


 クラスメイトの一人が、いつものように彼をからかっていた。それに対し彼も、いつものように私との関係を否定する。そこまではいつもの事で、私も別に気にしていなかった。しかし、その日はなぜかからかう側のクラスメイトはしつこく、なかなかその話題を切り上げようとしなかった。

 だから、そんな事が口を突いて出たんだと思う。別に、それが彼の本心だったとはさすがに私も思っていない。けれど、その一言が私から自信やら何やらを奪っていったのは、まぎれもない事実だった。


 しつこくからかわれ続けた彼は、そのやり取りに耐えねたようにクラスメイトに大きな声で叫ぶみたいにこう告げた。


「はっ? 別に仲良くねーし。あんなブス」


 そして、その一件を気に、私は彼と話すのを止めた。今までの楽しい時間が嘘だったかのように彼と私はだたの同級生に戻り、それ以降特定の男子と私が仲良くする事はなかった。

 トラウマと呼べる程重たいものかは分からないけど、それが私のきっかけ。自分に自信を持てなくなった、恋を他人事ひとごとと考えるようになった、私の原点……。

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